1-15. 飛び散る水晶玉

 受付嬢は吹き飛ばされた中年男を見て青ざめていたが、目をつぶって大きく息をつくと気を取り直して言った。

「わ、分かりました。そうしたら、ランクを決めますので、まず、お嬢さんはこの水晶玉に手を置いて魔力をこめてください」

 ユリアは緊張した。大聖女である自分の魔力はSSSクラス。ここで自分の魔力が正確に測定されたら、騒ぎになって自分が逃走している大聖女だとバレかねない。

 魔力を出し切らないように慎重に絞って出そうと、深呼吸を繰り返す。

 ユリアはそっと水晶玉に手を置くと、小さな炎を出すイメージで魔力を出した。

 水晶玉はほんのりオレンジ色に色づいた。

「うーん、Fか……E……ですかね……」

 受付嬢は水晶玉をジッとのぞき込み、ユリアはホッとする。

 その時だった。中年男を吹き飛ばした時のほこりが漂ってきて、ユリアの鼻をくすぐった。

 へ……、へ……。

 ヘクチュン!

 くしゃみをした瞬間、間違って全魔力が水晶玉を貫く。水晶玉は一瞬激しい閃光を放ち、パン! と割れて飛び散った……。

「へっ!?」

 唖然とする受付嬢。水晶玉が割れるなんてこと、いまだかつて聞いた事が無かったのだ。Sクラスの魔術師だって明るく輝くだけなのに。

 指先で男を吹き飛ばしたこのイケメンにしても、水晶玉を割った少女にしても明らかに異常だった。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 受付嬢はあわてて二階へと駆けあがって行ってしまった。


 ユリアはジェイドと目を見合わせ、『やっちゃったー』という感じでがっくりと肩を落とした。


        ◇


 ギルドマスター室に呼ばれた二人は、眼鏡をかけたやり手風の女性にソファーに座るように勧められる。アラサーくらいだろうか、その鋭い視線にはただ者ではない雰囲気が感じられた。

「私がマスターよ、ヨロシク。早速だけど、あなた達何者なの?」

 単刀直入に切り込んでくるマスター。

 ユリアが口ごもっていると、ジェイドが淡々と言った。

「ダンジョンで小銭を稼ぎたいだけの、ただの冒険者候補だが?」

 マスターは眉をひそめてジェイドを見つめ、ジェイドは無表情で見返す。

 部屋には嫌な静寂が漂う……。

「あ、あのー。私たち、本当にダンジョンに潜りたいだけなんです。そのためのギルドカードを出してもらえませんか?」

 ユリアが横から言う。

 ギルドマスターは大きく息をつくと、自嘲じちょう気味に言った。

「もちろん、冒険者になりたいって連中はみんな訳アリよ。こんなのマトモな人がやるような仕事じゃないんだから……」

 そして、二人にお茶を勧め、自分も一口すすった。

「でも、聞けばあなたたち相当な実力者よね? そういう人たちには高いランクを授けて支援する代わりに、国の仕事も手伝ってもらわないといけないの。そういう法律があるのよ」

 マスターは二人を交互に見ながら説明する。

「そういうのは困る」

 ジェイドは眉をひそめる。

「分かるわ。あなた達も訳アリなんでしょ? だったら取引しない?」

 ニヤッと笑うマスター。そして、続けた。

「あなた達の実力が本当に破格だったら……、ギルドと裏契約しましょう」

「裏契約……?」

 ユリアは怪訝けげんそうな顔をする。

じゃの道はへび。あなたたちのこと、秘密にしてあげるわ……。でも……、ギルドの仕事、手伝ってもらうわよ」

「その仕事というのは?」

 ジェイドは眉をひそめたまま聞く。

「公にできない調査やスパイの摘発とか……。犯罪ではないからそこは安心して」

「絶対やらなきゃいけないんですか?」

「ん~、もちろん断ってもいいわよ。でも、全部断るのは止めてね」

 マスターは斜に構えてユリアを見る。

「それなら……まぁ……いいかも?」

 ユリアはジェイドを見ながら様子をうかがった。

 ジェイドは大きく息をつくと、ゆっくりとうなずいた。

「ただ! あなた達の実力をちゃんと見せてもらってからよ!」

 マスターはニヤッと笑って言う。

「どうやって……見るんですか?」

 ユリアは心配そうに聞いた。

「ダンジョンで魔物をチャチャッと片付けてみて」

「ダンジョン? 何階に行けばいいんだ?」

「何階でもどうぞ? でも地下十階とかは止めてね。評価できないから」

「分かった」

 ジェイドはそう言うと、不安そうにしているユリアの頭を優しくなでた。

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