1-13. 肉々しい手触り

 気を良くしたユリアはリンゴ酒を何杯かおかわりしながら、上機嫌で魔法の魅力を語り、肉料理をモリモリと食べる。

 そんなユリアを、ジェイドは微笑みながらうんうんとうなずいて聞いていた。


 絶好調に盛り上がり、すっかり満足したユリアは、

「うーん、お腹いっぱ~い!」

 と、言ってベッドにダイブする。


「歯を磨かないとダメだぞ」

 そんなユリアに声をかけるジェイド。

「だいじょぶ、だいじょぶ、それ~! 生活浄化クリーナップ!」

 ユリアはそう叫んで手を上にあげた。

 すると、ユリアは光に包まれていく。

 そして、光が消えた後にはツヤツヤでさっぱりとしたユリアが満足げに横たわっていた。

「さすが大聖女……」

 ジェイドは感心しつつも釈然としない様子で、だらしなく転がる幸せそうなユリアを眺めていた。


     ◇


 ユリアはキラキラと光あふれる世界を飛んでいた。温かく、心温まる世界……。

 ふわふわと輝く光の結晶と戯れながら、この上ない幸福感に包まれていた。

 すると、光の結晶がスーッとどこかへと飛んで行ってしまう。

 ユリアは急いで追いかける。

「ダメ! 行かないで!」

 そう言いながら、両手でギュッと光の結晶を抱きしめた……。

 だが……、手触りが妙に肉々にくにくしい……。


 あれ……?

 ここでユリアは目を覚ます。

 月明かりが照らすダブルベッドの上で、ユリアが抱きしめていたのはジェイドだった。それもパジャマのすき間から腕を滑り込ませ、肌を直に抱きしめている。


「あわわわ!」

 ユリアは一気に眠気が吹き飛び、急いで手を抜くとジェイドから離れ、毛布を頭まで被った。

 一緒に寝るのはダメなどと言いながら、自分はジェイドの肌をまさぐっていた。それは信じられない事態だった。

 目をギュッとつぶり、必死に言い訳を考えていると、

「どうした? またうなされたか?」

 と、ジェイドの声がする。


「だ、だ、だ、大丈夫よ!」

 顔から火が出るような思いで返事をする。

「腕枕してあげるからおいで」

 優しい声がする。

「う、腕枕はしびれちゃうでしょ? 無理しないで」

「何を遠慮してる? 龍は腕枕くらいでなんともならない」

 ジェイドは飛行魔法でふわっとユリアを持ち上げると、自分の隣に引き寄せ、毛布を整えながら腕枕をした。

 目をギュッとつぶって硬くなるユリア。

「我はユリアの味方だ。怖がらなくていい……」

 ジェイドは耳元でそっとささやく。

 ユリアは大きく息をつくとゆっくりうなずく。

 じんわりと伝わってくるジェイドの体温、そしてサンダルウッドのような奥行きのある森の匂いがユリアを包む。

 逃げることなんてない、今はジェイドの厚意に甘えておこうと思った。


          ◇


 それからしばらく、ユリアは魔法の練習に精を出した。大聖女として魔法の扱いに長けていた彼女は、次々と新たな魔法を覚え、また、威力と精度を上げていった。


「いい? 見ててね!」

 ユリアは飛行魔法でテーブルの上に野菜と肉を浮かべる。そして、風魔法で細かくにカットすると火魔法でそれを包んだ。しばらくするとジューっといういい音がして香ばしい香りが漂ってくる。

 続いて水魔法で水を加え、塩とハーブとコンソメを追加したらさらに火力を上げる。

 グツグツという音がしてきたら、弱火にしてしばらく経ったら出来上がり。それをスープ皿に分配した。ちゃんと、一つは野菜抜きにしてある。


「どう? すごいでしょ?」

 ドヤ顔のユリア。

「素晴らしい。お料理上手だな」

 ジェイドは自分のことのようにうれしそうに微笑んだ。

 味わってみると、奥行きのある味がする。最初に炙った火加減が合っていたらしい。

「これは美味いな……」

 ジェイドはそう言いながらあっという間に平らげる。

「うふふ、今度はもっとたくさん作るわね」

 ユリアはうれしくてグッとこぶしを握った。

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