1-12. 賢者となったユリア
ユリアはその後も延々と魔法の練習に打ち込んだ。今まであきらめていたいろんな魔法が全部使える、それはユリアにとって新たなフロンティアであり、好奇心旺盛なユリアは必死に試行錯誤を繰り返す。
水魔法を練習していると、コンコンとノックされた。
「どうぞー」
気楽に返事をすると、ジェイドが大荷物を持って現れた。
「えっ!? なにそれ!?」
驚いた拍子に水玉がピシャン! とテーブルに落ちてしまう。
あああ!
思わず声を上げるユリア。
するとジェイドは飛行魔法でふきんを棚からポンと動かして、テーブルをササっと拭いた。
それを見ながらユリアは、
「すごいわ……。私も早くそれやりたい……」
と、羨ましそうにふきんの動きを眺める。
「悪いけど、ちょっとどいて」
そう言ってジェイドはテーブルを動かし、持ってきた長い板を並べる。
「なにするの?」
ユリアが不思議そうに聞くと、
「今晩の寝床」
と、答える。ダブルベッドを買ってきたらしい。
「えっ!? 本当にダブルにするの!?」
頬を赤らめて口を押えるユリア。
「広い方がいいだろ?」
ジェイドは爽やかにほほ笑む。
「そ、そ、そ、そうだ……けど……」
ユリアはドキドキする心臓を押さえ、目をつぶる。
もちろん、ジェイドはドラゴン、自分をどうこうしようとする意図なんてないだろう。しかし、自分は十六歳の純潔の乙女なのだ。一緒に寝てるなんてことを誰かに知られたら……。
「どうした?」
ジェイドは板を組み立て終わると、悩んでるユリアに聞いた。
「一緒に寝てること……、誰かに知られたらまずいかな……って……」
モジモジしながらユリアが答えると、
「じゃあ、二人の秘密にしよう」
そう言ってニコッと笑う。
「ひ、秘密って……。そ、そうじゃなくて!」
秘密にしたらすべて解決……な訳ではない。
若い男女は一緒に寝ちゃいけないことをどう説明したらいいのか……。
「大丈夫、誰にも言わない」
ジェイドはまっすぐな目でユリアを見る。
「あー! もぅ! 間違いがあったらどうするのよ!」
ユリアはイライラして叫んだ。
「間違いって?」
ジェイドはキョトンとする。
「ま、間違いっていうのは……そのぅ……」
ユリアは説明しようとして固まってしまった。
そして、みるみるうちに真っ赤になり、頭から湯気が上がる。
ユリアは目をつぶってブンブンと首を振り、大きく息をついた。
よく考えればジェイドから迫られることはないだろう。彼のユリアを見る目はまるで妹を見るような優しい目で、異性に向けるようなまなざしではないのだ。
で、あれば、ユリアから迫らない限り間違いなど起こりようがない。
なんだ、大丈夫……。そう思いかけた時、ふと、ジェイドの厚い胸板の感触がよみがえり、顔がボッと真っ赤に染まった。
うそ……。
一体自分は何を考えているのか?
ユリアは自分に自信が持てなくなってしまう。
スゥ――――、……、フゥ――――。
スゥ――――、……、フゥ――――。
ユリアは深呼吸を繰り返した。
やがて眼がトロンとしてきて、雑念は消え去っていく。
「どうした? 大丈夫か?」
ジェイドはユリアの行動に心配になって声をかける。
「大丈夫、一緒に寝ましょう」
賢者となったユリアはうつろな目でほほ笑んだ。
◇
日も暮れて、昨日より少しやせた月が昇ってくるのをユリアがボーっと見ていると、ジェイドが料理と食器をプレートに入れて持ってきた。
「今日は照り焼きにしてみた」
そう言ってニコッと笑う。
「うわぁ! 美味しそう!」
ユリアは目を輝かせて湯気の上がる大きな肉の塊を見つめた。
ジェイドが肉をスライスすると、
「ねぇ、今日は私に
と、ユリアが言う。
ジェイドはユリアをじっと見て、
「やってごらん」
と、微笑んだ。
スゥ――――、……、フゥ――――。
スゥ――――、……、フゥ――――。
ユリアは深呼吸をし、綺麗に並んだ肉のプレートに手をかざす……。
直後、ブワッと炎が上がり、肉はジュワァといい音を立てる。
ユリアはまんべんなく炎を肉全体にいきわたらせていく……。
「うまい、うまい。もういいぞ」
ふんわりと立ち上る香ばしい香りに、ユリアはニッコリと笑うと、
「やったぁ!」
と、言ってピョンと飛び跳ねた。
ジェイドは皿に肉を盛ってユリアに渡す。
「初の火魔法の味だ、どうぞ」
「ふふっ! ありがと!」
ユリアは受け取るとフォークで口に運ぶ。
そして、目を大きく見開くと、
「美味し~!」
と、言って、目をギュッと閉じて首をフルフルと振った。
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