第105話 裏話 びびった

 女性陣の隠し事には全く気が付けないけれど、それに比べるとケビンはかなり分かりやすい。

 聞いてみたら、どえらい隠し事をしていた。話を聞いた時、本当にびびってぞわぞわした。


 モモーナとフィリの元婚約者の話を聞いて、更にぞわぞわした。ルヒトじいのスパルタがここで役に立った。

 王子時代を思い出して涼しい顔をして聞いていたが、内容が恐ろし過ぎるだろう。


 こっわっ。めっちゃ怖い。気になってつい首を突っ込んじゃったけど、聞かなきゃよかったレベルのホラーやん。後悔はしないけれど。


 性格に変化があったとみられる三人は、正常に戻った自覚があった。

 俺にそれはなかったので、何かに操られている感じではなさそう。一人だけ、普通に転生? 


 Web小説のままにしたくてモモーナたちをおかしくするくらいなら、俺もそのままでよくない?

 あっちにこそ変な奴を転生させておけばと思ったりもするが、ここは元々乙女ゲームの舞台なのかなとも思う。


 いや、そうするとキラキラ攻略対象の王子様が、固有名詞を覚えられないのはおかしいか。

 いやもう、全く意味がわからないんですけど。どうしたいのよ。


 一応二人には強制力的な話をして、今後はもう無いだろうと安心させたけれど、正直自信なんてない。

 でも、ずーっと不安なまま生きていくのはしんどいと思う。


 俺の婚約発表で攻略対象が居なくなった事や、物語からの退場で正気に戻ったのだと単純に考える事にした。

 ここが乙女ゲームならモモーナが攻略対象とくっついて既に終了しているし、Web小説ならカリーナが弟と結婚して終了している。


 あの短編だと続編も無いと思う。もしあったとしても、きっとカリーナと弟のその後だろう。

 俺やモモーナたちは完全に退場したのだと思いたい。ぜひお願いします。誰に言ってんだ。作者か。


 強制力についても考えてみた。あったとして考えると納得できる部分が結構ある。でもそうでもないのもある。


 まずは当時の俺の噂。教師を変更したら傲慢、側近をケビンにしたら頭が悪過ぎるから。

 視察に行ったら勉強をサボっているとか何をしても悪く言われた。

 特に視察が勉強をサボる為って話にはかなり無理があると思う。けれど流れた噂に誰も疑問を持っていないようだった。


 お金がある貴族は自分たちに関わるかもしれない噂には、必ず裏を取る。だから直ぐに真実では無いとわかる。

 けれど噂はそのまま広まっていた。フォード卿やアガーテさん、ロイドも頑張ってくれていたみたいだけれど、全然事実が広まらないと言っていた。


 誰かが裏にいるんじゃないかと色々な人が調べてくれたけれど、誰もいなかった。いたとしても見つからなかった。

 他にも転生者がいて、それが裏でとも一瞬考えたが、王家や中央貴族に影響を与えられる人物なんて、限られてくる。


 それが調査部門の調査網に引っかからないのはおかしい。まさか両親? とも思ったが、それも違う気がする。

 二人が物語を実行しようとするなら、俺の教師変更や側近のケビンを認めなければいい。二人は認めた。行動が矛盾している。


 後は弟とカリーナだけれど、乙女ゲームのルートにはカリーナが弟と不倫している話もあったらしい。

 モモーナは乙女ゲームの主人公らしく俺に言うのを躊躇って敢えて話さなかったが、事前に聞いていたケビンがズバッと言って焦っていた。


 乙女ゲームにいそうな主人公っぽい気の使い方だったと思う。二人は乙女ゲームと今、Web小説で人物像がはっきりと変わっている。

 弟もカリーナも両親も、以前も今も変わっていないとの報告も聞いた。あの人たちはどれも素だったのだろう。


 深く考えても分からない。


 こういう時は俺の育ての親の教えに従いたい。アリシアは明るく前向きでかなり大雑把だった。

 過ぎた事は反省をしっかりした後は、忘れはしなくともいつまでも気にはしない。


 考えても仕方が無いことは潔く諦める。そうしよう、そうしましょう。ケビンに保険はかけたしね。

 二人を安心させる為王子っぽく大丈夫だと言い切ったけれど、正直怖い。家に戻ったらフィリに甘えよう。


 早速フィリに膝枕をおねだりしてゴロゴロ。絶妙な柔らかさと弾力で最高。後、いい匂い。


「ライ、大丈夫?」


「うん、大丈夫。ちょっと頭を使って疲れただけー」

 甘えて抱き着こうとしたら、なんか顔が怖い。


「なら、いいけど」

 そういう割には顔が怖い。


「どしたの?」


「まさかとは思うけれど、ケビンの浮気とかじゃないよね?」


 顔が怖い理由はそれか!


「違う違う! それ絶対違う!」


 フィリはもう気にしてないって言うけれど、一度は信頼した婚約者に裏切られた事に実は結構傷付いている。

 時々ちょこっとそれが顔を出す。


「もしケビンの浮気だったら、俺はアンナの味方だよ。二人でコソコソするはずないよ!」


 そこがちょっと想像出来なくなるくらいの、フィリの心の傷。


「二人でコソコソしているから、ちょっと気になっちゃって。ごめんなさい疑って」

 しゅんとした顔のフィリ。


「いやいや、こっちこそコソコソしてゴメンね! でも、話せないって言うか」


 ケビンと気味が悪過ぎる話だから、言うにしてもルヒトじいだけにしようって決めた。

 知らない方がいい事もある。特にフィリは。俺の為でもある。元婚約者への情が戻ったら俺も辛い。


「ふぅ~ん?」

 疑いの目。何故。


「ちょっと王家関係でね!」

 これも予めケビンと決めておいた言い訳です。


「まぁ、いいわ。そういう事にしておいてあげる」


 どうしてこうも女性は男の嘘を華麗に見抜くのか。でもダメ。これは絶対に教えない!

 後でモモーナとフィリの元婚約者の事だと知っていたリーリアが、事実は一切言わずにそれとなくとりなしてくれた。助かったよぅ。

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