第107話 ハッピーエンドの前に 2/2
「北部にはライハルト殿下の関係者が多いし、道路整備にも関わっているので無し。南部も同様ですから、西部と東部の資料を持って来ました」
調査部門長が出した資料を見る。
「東部は勘弁してくれないか。どれも隣国との交易路に近い。交易に乗り出されると厄介だ」
「常識が無さそうですし、やっぱり西部一択ですよね」
調査部門長は外交部門長そう言われると予測していたようだ。
「逆境に燃えるなら、ライハルト殿下の恩恵が得られていない西でも中央部か南部」
内政部門長も意地が悪い。
「南部は王都の恩恵があるから、西部中央。道路整備の恩恵も少ない海よりはどうでしょう?」
調査部門長も内政部門長に賛成のようだ。
「私が言うのもなんですが、厳し過ぎませんか?」
予算部門長は私と同意見のようだ。もう少し王都に近い方がいいだろう。
「おっ、いつも辛口なのに優しいねぇ」
外交部門長が茶化す。
「陛下はディーハルト殿下の能力を信じているから、改善が難しい領地をお望みだろう?」
内政部門長まで。
「最高の教師陣の指導を無駄にもしたく無いだろうよ」
外交部門長が悪ノリする。
「常識がねぇ……。領地経営は知識だけでは無理でしょう」
「西部でも北部よりでもいいんだよ。中央部なだけ優しいだろう?」
「ああ、この北部寄りの男爵領とか最高じゃないですか」
「ああ。そこは特にいいでしょうね」
予算部門長が流れを変えようとするが、駄目だった。事前話し合いは時間が来て終了した。
「フリッツ様とシャイナ様は遠慮して下さい。いいですよね?」
内政部門長が資料を持って、単独で陛下に会いに行った。
「王妃陛下はまさかの北部で相談して来ました」
戻って来た内政部門長の第一声に、部屋の空気が悪くなる。フリッツも溜息を吐きたいのをこらえた。
「それは無い」
「あり得ませんね」
予算部門長も調査部門長も即答だった。
「フォード侯爵家は何と?」
「ライハルト殿下が嫌な思いをしない場所なら、何処でもと」
「フォード領の収入からも慰謝料を支払っているだろうに、それはそれでどうなんですかね」
予算部門長がイラついているが、彼らは陛下たちほど酷くはない。
「元々持っていた私財を利用したり、自分たちにかかるお金もかなり節約されている。それにライハルト殿下の後ろ盾のままでいたことで増えた収入の多くを領地に還元していますし、領民からの不満も出ていませんよ」
「なるほど」
調査部門長のフォローに、予算部門長も少し気分が落ち着いたようだ。
「話を戻しましょう。陛下もそうだなそれがいい。北部でいい所を頼むと私に言いました」
終わったなとフリッツは思った。内政部門長主導でその後も議論をしたが、もう流れが覆ることはなかった。
「西部の少ーしだけ北の、海寄りの男爵領で決定ですね」
親二人の失言が痛かった。さすがに北部はない。
「元々それ以外選択肢はなかったでしょう?」
「まぁ、そうですね」
調査部門長が笑いながら言い、内政部門長がそれに返す。
「一択でもあっただけマシか」
それを見て予算部門長も諦めたようだ。
北部は貧しいのと周囲との連携が密な為、人員が定期的に入れ替わる直轄領としては管理が難しい土地だった。
だから可能な限り地元の人に任せる方向性だった。ライハルト殿下のお陰で問題が減り、今はそもそも本当の北部に直轄領は存在していない。
それなのに北部を希望する時点で、各部門長が呆れるのは仕方がない。親二人の希望を最大限に叶えるならば、西部か東部の北部寄り。
東部が駄目となれば西部しかない。それは奇しくも、先ほど冗談交じりで話に出ていた男爵領だった。
「ここの近隣領主もライハルト殿下が立ち寄って以来、殿下のことが大好きですよ。本当にあの方って、会う人会う人取り込んでいきますよねぇ……」
「分け隔てなくお優しい方なので、地方貴族や領民から好かれるのだと思いますよ」
調査部門長とシャイナがしみじみ言う。
「決定だな。次は陛下たちの今後の話をしたい」
「クールベ殿下の王位継承は急いだ方が良さそうです。王妃陛下の評判がとにかく悪くて、それに伴って陛下も一緒に落ちています。元々同罪だと思いますけれどね」
フリッツの言葉にすぐに切り替えた調査部門長が、状況の説明を始める。
「シーズン中にアガーテ様を目の敵にしていたのが最悪でしたね」
内政部門長の言葉に頷く面々。誰もが感じていることだ。
「クールベ殿下たちの教育は何とか間に合いそうですか? 時間に余裕があるならまだ教師も増やせますけれど」
「いえ。大丈夫です。時間は確かに足りなくなりそうですが、教育は順調に進んでいます。しばらくフォローすれば大丈夫だと思います」
予算部門長の言葉に、教育状況を全て把握しているシャイナが答える。
「不貞を発表したら、また荒れそうですね」
内政部門長が少し面倒そうに言う。
「一気に交代の流れが加速するだけでしょう。結婚させて拝領もする。それを甘い処罰だと考える人もいるでしょうし、クールベ殿下の治世まったなしですかね」
笑いながら言う調査部門長だが、事実そうなるだろう。
「ライハルト殿下の評判が、ここまで急速に改善するのは予想外でしたね。今まで無理だったのは何故だったのでしょう。我々は少し決断を早まりましたかね……」
内政部門長が未だにライハルト殿下に未練を見せるが、これは頂けない。
「ああ。不自然なほど一気に回復したな。けれど、もう走り出した話を止めることは出来ない。ロギア国にも次期王太子妃として迎えると伝えている」
「ええ。それはわかっているのですが……」
「気持ちはわからなくもないですが、これで良かったんですよ。ライハルト殿下がとても幸せそうです。今まであの様に幸せそうにしていることは無かったと評判ですよ」
内政部門長がくどいが、調査部門長までもがライハルト殿下の幸せを願って釘を刺した。
「そうですよ。これ以上振り回したらさすがにブチ切れされますよ」
予算部門長はそう言うが、キレるのはルヒト様だろう。
「ライハルト殿下からは予め、自分の婿入りで大変になるところは手伝うと言って頂いています。フォード侯爵家も協力してくれるそうですから」
シャイナがまとめる。これでもうこの話は十分だろう。
「さすが……。誰かさんたちと違って、わかっていらっしゃる」
予算部門長が苦笑した。
「じゃあ、そういう事で。二人が隠居後の話をガンガン進めていきたい」
「そうですね。いつ隠居してもいい様に書類なども全て先に揃えておきましょうか」
「離れの改装も先にしておきますか」
「それがいいだろう。さっといなくなる方がいい」
「では、さくさくいきますか」
最後の話はあっという間にまとまった。
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