第114話 ディーハルト 1/3
カリーナは学園入学を許されなかった。一緒に学園生活を楽しめると思っていたのに、拍子抜けした気分だ。
理由を知りたくて父上に会いたいと何度か希望を出したが、互いに忙しくて予定が合わず会えないままだ。
中央貴族は学園に入学しなければ嫁ぐことが難しい。二人のことを何としてでも父上に認めてもらい、私がカリーナを妻に迎えようと思った。
その為には学園在学中に、実績と何らかの功績を積み重ねる必要がある。公務のしやすさを優先して、入寮せずに城から通うことにした。
シーズン中の公務で兄上が学生生活の傍ら、通常公務や視察にかなり忙しくしていると聞いた。
兄上を超える為にも、公務の肩代わりを申し出た。特に視察に関しては全て引き受けたいと言ったら、内政部門も快く協力してくれた。
兄上より優秀だと示すために、先ずはとにかく数をこなすことにした。その結果、あまり学園に行けず、学業と視察の両立が大変だった。
それでも私の評価は、全くと言っていい程上がらなかった。学園では周囲にそれなりに褒められたが、視察先での評価が上がらない。
次回は兄上に来て欲しいと遠回しに言われた事もある。兄上の過去の視察報告書も見てみたが、それ程の差があるとも思えない。
何が駄目だったのかがわからない。側近がとても優秀だと聞いたので探ってもらったが、何も分からなかった。
私には同世代の側近しかいないので、視察には連れて行けない。それに私があまり学園にいない為に、会話もあまり多くない。
そのまま特に目立った功績もなく視察や公務をこなす日々が続いた。一年経って、兄上は学園を卒業した。時間だけが経って焦る。
父上に呼び出され、卒業した後は兄上とカリーナの婚約解消に伴って発生した金銭の支払いを命じられた。
今まで知らされていなかったが、考えてもいなかった事を恥ずかしく思った。私とカリーナの恋愛は、傍から見れば立派な不貞行為だ。
兄とは言え王家の王子。婚約時の契約に基づき、多額の賠償金や慰謝料が発生していた。
当事者の一人が身内である私だったから、家同士の金銭授受は相殺されていたが、兄上個人への慰謝料は双方の親が払ってくれていた。
反省しない私たちに、その金額を補填させることに決めたと言われた。
禁止されていたのにカリーナと連絡を取っていた事や、視察先から手紙や土産を送っていた事などまで知られていて、冷や汗が流れた。
「隠し通せているとでも思っていたのか。二人が何を思いどう行動するかを確かめる為に、泳がせていただけだ」
父上のここまで冷たい顔は初めて見た気がする。私は父上からの期待を、裏切ってしまったのだろう。
「学園卒業後に王籍から除籍し、北西部の男爵領を任せる。分かっているとは思うが、王位継承権は剝奪する」
「男爵領、ですか……?」
「一代限りではあるが、そこで精進して金銭の返却に励め。支払いが滞れば男爵領も取り上げる」
王籍からは除籍されるが、男爵として貴族としてはいられると言う事か。だったら。
「カリーナと結婚させて下さい」
「それは、本気で言っているのか?」
「はい。カリーナは学園に入学しておらず、貴族への嫁入りは難しいはずです。私たちは同罪、であれば共に罪を償いたく思います」
「……好きにするといい。但し、除籍後だ。カリーナも侯爵家より除籍が決まっている。結婚したいなら男爵として結婚届を出せばいい」
平静を装ったが歓喜しかなかった。父上に私の気持ちが認められた。このまま学業と公務に視察を両立しつつ、卒業後の準備をするように言われた。
またこの決定を公表する前に他言することは、カリーナであっても許さないと言われた。それくらいこれからの事を思えば問題ない。
不安そうなカリーナに、以前必ず迎えに行くと伝えてある。大丈夫だ。
乳母であり筆頭侍女でもあったスージーが、私の元を離れることになった。叔父さんの婚約者の世話を頼まれたのだと言う。
ずっと一緒にいるものだと何となく思ってはいたが、それでも気にならなかった。スージーにも家族はいるし、男爵領にも連れては行けない。
「今までありがとう」
「いえ。……良き領主となられますよう」
産まれた時から一緒だったからかスージーは涙ぐんでいたけれど、私の気持ちは然程揺れなかった。
それからは粛々と学生生活と公務を両立する毎日だった。多かった視察も徐々に減り、その時間を領地経営や運営の勉強に充てることも出来た。
叔父上が王太子になると聞いて、私がもっと上手く立ち回れていたらと後悔もした。やはり父上は兄上を王太子にする気はなかったのだ。
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