第103話 裏話 ケビン 1/2
調査部門から定期的にモモーナたちの身辺報告が来ているが、モモーナとクラウスが急接近しているという報告が届いた。
二人は学園から離れた後は、非常にまともな行動をしていた。それが逆に不気味だと、調査部門からの監視が強化されていた。
報告書だけではわからないこともあると思い、自分の目で二人の様子を確かめることにした。
リーリアには事実を話し、出張の形で東部にある領地に来た。
二人ともが報告通り、学生時代とは別人のようだった。真面目に働き、周囲からの評判もいい。
今の二人ならまともな話が出来そうだし、いつまでも税金で監視をつけているとお金がかかる。
同行してくれた調査部門からも相談され、私が直接二人の本音を聞くことにした。
二人の休日を狙い、食事中に話しかけた。モモーナは私の顔を見るなりとても驚いていたが、クラウスは私が誰かさえ分からないようだった。
「ライハルト殿下の側近です」
モモーナがそう言うと、クラウスはとても驚いていた。
ライハルト様の側近と言っていたのに、それは無いだろうと思った。
私の目的を話すと二人は小声で相談を始め、荒唐無稽な話をしてきた。それなのに二人が嘘をついているようには見えなかった。
これには近くで聞いていた調査部門の監視員も同じ考えで、再調査後、その結果を見てからもう一度この話について考えることにした。
他の関係者も含め調査後にまた連絡すると言うと、二人は何かを決意した様な表情をしていた。
二人は既に罰を受けているような状態だし、何かをするので無ければそんなつもりは無いのだが。本当に学生の時とは別人としか思えない。
現実的な話ではないが、もしもがある。本人の話を信じるなら、学園時代に調査部門がしたモモーナの調査結果そのものも怪しくなる。
学園入学前のモモーナは家から出ることがほとんど無く、とにかく情報が少なかった。
使用人は悪い様には言わなかったが、学園での行動から、父親や男と駆け落ちした母親の影響を受けた人物なのだろうと推測されていた。
もっと早く二人の異常に気が付いていれば、色々な事が変わっていた可能性がある。
そうなれば調査部門の失態になる可能性もあり、必死の調査がされた。
調査の結果、人によっては同じ現象に陥っていたと考えられる、という程度の事しか分からなかった。
曖昧過ぎる。何かの力が働いていた可能性についても調査したが、そちらについては何も分からなかった。
商人の息子は元に戻ったと周囲に言われているが、それはクラウスから既に聞いている。
内政部門長の甥っ子は途中でモモーナから離れていったし、特に性格の変化は無かったという。
金目当てで子爵令嬢と婚約をしていた令息は管理就労所で働いているが、性格は相変わらずだと聞く。
騎士団長の甥っ子は今もモモーナに純愛を捧げるとか訳の分からん事を言って、管理就労所行きが決まった。
本来の登場人物だったという弟は、昔から真面目で誠実で変化は無し。
登場人物では無かった兄が何らかの影響を受けたのか。どちらにしろ何の確証も無い。全ては推測。
モモーナの記憶にある他の登場人物とされる者も調べたが、明らかな変化があったのは三人だけ。
モモーナとクラウスと商家の息子。そしてその三人は、自分の変化に自覚があった。
他の人には自覚がなく、それによって変化は無かったのだろうと結論付けられた。
何故そうなったのかは不明なまま。微妙な調査結果にもやもやしていたら、ライハルト様に見つかった。
「どうしたの、ケビン。隠し事?」
にっこり笑顔で言われた。
こういう時だけは本当に鋭い。仕方なく二人の話をすると、ライハルト様には思い当たる節があると言う。
「どういうことですか」
ライハルト様がおかしくなっていた記憶はない。
「えーと、二人と会った時に話すよ。どう説明したらいいのか、私にもわからないから」
ライハルト様の希望で、モモーナとクラウスの四人で会うことになった。
「やぁ、久し振り。二人ともまともになったんだって?」
ライハルト様っぽいけれど、身も蓋もない言い方だな。ルヒト様の影響が強過ぎる。二人の動揺が凄い。
「あの時はご迷惑をお掛けしました」
まず二人が謝って来た。やはり別人に感じる。モモーナとクラウスが、自分たちの身に起きたことを直接ライハルト様に話した。
「あー、そういう……。ちなみに私にはモモーナさんの言う乙女ゲームを舞台にした、カリーナさんが主役になる小説の記憶があるよ。意味わかる?」
ちょっと私、初耳ですけど。
「えっ、はい。わかります。私の記憶にも、Web小説と悪役令嬢ジャンルというのがあります」
「なるほどねぇ……」
私には全く意味がわからないのですが。
詳しく話してくれたライハルト様の話は信じられないものだった。
ライハルト様にも十歳から前世の記憶があり、前世でこの世界の話を小説で読んだという。
その小説には作中作で乙女ゲームと呼ばれる物語があり、そこでのモモーナは主人公でいい子で素敵な男性と幸せになるよう仕向けられている?
はっきり言って、さっぱり訳がわからないんですが。
「あー、作中作の方はねぇ、モモーナさんが主人公の恋愛小説があったとするでしょう? で、何人も相手がいて、その相手ごとに話の展開が変わる小説になっている、みたいな」
「わかるような、わからないような?」
そもそも恋愛小説は全く読まないんだが。
「えーと、一巻で殺人事件が起きて次に買う二巻をどれにするかで、犯人や動機、殺害方法が変えてある推理小説みたいな?」
何それ面白そう? いや、わかるようなわからないような。でもモモーナが真剣な顔で同意しているから、そういうものなのだろう。
「その小説の記憶がモモーナさんの記憶にあって、私にあるのはそれの登場人物や流れはそのままで、カリーナが主役に変更された話、みたいな?」
さっきからライハルト様も自信がないのか疑問形ばかりだが、ここで私が引っかかっていると話が進まない。
もうざっくりと流すことにする。
要はライハルト様の記憶にあるという小説は、モモーナとライハルト様が結ばれて婚約破棄されるカリーナが主役の物。
ライハルト様は勉強もせず傲慢で、モモーナと不貞。挙句にカリーナに冤罪をかけて婚約破棄をする。いや、流しきれないな。
「何ですか、それ?」
「流行りのジャンルだったんだよ」
面白いのか、それ。碌でもない男の婚約者にされた挙句、冤罪で婚約破棄されるんだぞ。
カリーナはディーハルトの協力を得て冤罪を晴らし、ディーハルトと幸せになる話だったという。
「いや、好きならもっと早くに手を打つべきです。なんだったら最初から婚約者を変更すればいいでしょう」
「あー、うん。ケビンの言いたいことはわかるよ。私もそう思っていた時期もあるし」
不思議でしかないが、カリーナとディーハルトが会っていたのを見ても非常に冷静だった当時のライハルト様の事が思い出される。
一歩間違えばライハルト様はルヒト様以前の教師たちとの勉強は投げ出すだけにしていた可能性はあるが、傲慢さは欠片も無かった。
ライハルト様の幼少期について、後でアンナに聞いてみよう。周囲の噂でも常に傲慢だと言われていた。これもこの話の筋書き通りなのだろうか。
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