第96話 夏休み

 夏の社交シーズンが終われば俺は三年生。弟と一緒にカリーナも王都の学園に入学するだろう。

 ちょっと学園で会った時にどうしようかとドキドキしていたが、弟は城から学園に通う。多分兄弟関係は希薄なままになるだろう。


 弟がシーズン中の公務を積極的に引き受けていて、今年は俺のスケジュールにかなり余裕が出来た。

 謹慎処分の理由をどう誤魔化すのかは知らないが、俺はやっと続いていた公務の忙しさから解放される。


 俺と叔父さんの婚約も、夏休み最初の王家主催の夜会で発表された。これで堂々とフィリアナに会える。

 叔父さんの婚約発表と同時だったので、ざわめきが凄かったらしい。叔父さんの相手は他国の令嬢だし、俺の相手は跡継ぎだしね。


 叔父さんが王太子になるのも俺が婿入りなのもまだ秘密。この事は父上とその側近、アンナの師匠、各部門長クラスしか知らされていない。

 後は俺の周囲の信頼できる人たちに、俺が婿入りする事だけは伝えている。


 叔父さんの婚約者が他国の令嬢で情報が少ないからか、中央貴族では俺の婚約の話題が多くなっているそう。

 俺の婚約者が伯爵家の跡継ぎだから、俺が婿入りするのか城に残るのか判断がつかない感じらしい。


 わざとそうなるように仕向けたからでもあるんだけど、盛り上がっているとアガーテさんが教えてくれた。

 北部や南部の地方貴族は、ただただ俺の婚約者が決まった事を喜んでくれていると投資先から教えてもらった。


 叔父さんが王太子になる為の根回し期間が、充分に稼げそうな感じになっていて良かった。

 叔父さん周辺の段取りが、横やりとかの妨害で台無しにされたら堪らない。


 俺とフィリアナの結婚式の招待状で俺の婿入りを世間に暴露する予定で、その後直ぐに王太子を発表する。

 王太子の発表と同時に二人の結婚式の日取りも発表される。一番中央がざわつく時には、俺はもうオルグレン領に生活拠点が移っている手筈。


 それまでの流れとしては、学園卒業後に俺は伯爵領のあれこれや領地経営の勉強をしつつ、結婚の準備。

 フィリアナとの結婚は最短でもおよそ三年後。正直三年なんて長過ぎると思ったけれど、叔父さんの婚約者にもお勉強とか色々と時間が必要で。


 叔父さんのお相手は早めにこちらに来て、王族に加わる為の勉強に励む。

 とても優秀な人だから、短い期間でも何とかなるらしい。三年でも短いっていう。


 勉強が大変そうで申し訳ないが、外交官の娘さんで、こっちの国の基礎知識は既にあるので許されたスケジュールらしい。基礎知識のある人で良かった。

 叔父さんにはなんか普通に婚約者さんのフォローを頼まれたが、どうしろと? 学生だし、卒業後は城に一旦は戻るけれど、頻繁に投資先やオルグレン領へ行くつもりだし。

 

 シーズン中は堂々とフィリアナやご両親を城に招待出来た。今後の話をルヒトじいやケビン、リーリアも交えて話をした。

 別日には俺の後ろ盾としてフォード侯爵家とも引き合わせた。今後も中央に関してはフォード侯爵家を頼りにさせてもらう予定。投資の関連でもうずぶずぶの関係なので。


 これを機会に許可を得て、これまでのカリーナとの事や弟の事もフィリアナやご両親に話す事が出来た。

 神妙な態度のフォード侯爵家に対し、驚き過ぎて凄い顔でフリーズしたフィリアナたち家族が面白かったのは秘密。


「娘が不貞を行ったにも関わらず、ライハルト殿下の紹介でオルグチーズや良質なワインの取引が出来ています。殿下の卒業までしっかり守らせて頂くのは当然として、婿入り後も懇意にさせて頂ければと考えています」


 フォード卿とオルグレン卿が情報交換ついでに色々と話している中、フィリアナが俺を気にしてくれている。

 病気療養だと信じていたら、弟とデキてたって知ってビックリだよね。


「私は大丈夫だよ。詳しくはまた後で話すけれど、本当に大丈夫」


 俺の中では既にかなり過去。後でフィリアナには俺の当時の気持ちも含めて、ちゃんと話そうと思う。

 そうしたら心配する必要なんてないってわかってくれると思う。ただ、自分だけで伝えられるかに自信が無いので、リーリアの同席を希望。


 その後も公務が少ないので、投資関連の人たちとの会食が主になった。

 ナタリー情報によると、弟も自分の謹慎処分について何とか誤魔化せているらしい。何とかっていうのがね。


 他にもシース織りの一般販売分の一部が完成して、シーズン中にロシーニ侯爵家を通して無事に販売された。

 あまりの食いつき具合に、ロシーニ卿がドン引きしたと言っていた。


 待たされに待たされて幻扱いになっていて、価値が上がり続けていたらしくどえらい感じになったみたい。

 オークション形式で販売したので値段の上がり方も凄かったそう。


「殿下のお陰だな! 父ちゃんが金額聞いて白目剥いてぶっ倒れたぞ!」

 今日も元気なゴードン。


「恥ずかしいことを言わんでいい!」

 本当は拳骨を落とすタイミングなのだろうけれど、シース卿の拳が空中に彷徨っただけで終了。


 ルヒトじいの目がね。とっても鋭かったです。ロシーニ卿がそもそもルヒトじいと同じ系統だから、そこまで気にしなくてもいいと思うんだけれど。


 今日は食事前にシース卿の奥さんに胃薬を差し入れておいた。凄い喜んでくれたけれど、食事の前に飲んじゃ駄目よ。この薬は食後に飲むタイプだから。

 大丈夫だとは思ったけれど、喜び方が異常だったのでつい言ってしまった。


 俺から差し入れしている胃薬が奥さんにはよく効くそうで、入手先を聞かれたので教えたら、更に喜ばれた。

 北部の輸送やシース織りの関連で王都で中央貴族との関わりが増えて、日々大変なのだと思う。


 フィリアナとデートにも行った。婚約を発表した後だから、堂々と一緒に出掛けられる。


「凄い、見られている気がする……」

「私もそう思う……」

 フィリアナの意見に完全同意。


 シーズンで王都に人が多いのはわかるけれど、それにしたって注目され過ぎじゃなかろうか。何故だ。

 手を繋いでるんるんデートの筈が、何ですかこの状況。道を歩いていても公園でも視線が凄い。


「落ち着かない……」

 そわそわしているフィリアナも可愛いが、俺も落ち着かない。もっとフィリアナに集中したいです!


「だね。次からしばらくの間はお家デートにしようか?」

「お家デート?」

 何それって感じで聞いてくるフィリアナも可愛いです。


「家で一緒にまったりしようってこと」

「それも楽しそう!」

 にっこり笑うフィリアナが、とことん可愛いです。


「色んな話をしようね」

「うん」


 今日一日、フィリアナ可愛いとしか思っていない気がするが、本当に可愛くて幸せです。

 ソファに隣同士で座ってただ話すだけでも楽しいし、幸せ。

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