第95話 婚約決定

 叔父さんが協力してくれたことで、無事にフィリアナとの婚約が決まった。

 手紙のやり取りだけでフィリアナのご両親に会えないでいたが、社交シーズンより少し早めに王都に出てきてくれたので、無事に会う事が出来た。


 まだ二人の婚約は発表前なので、ひっそりと外でお食事中。表向きはフィリアナの婚約破棄が成立したお礼に、俺が招待された事になっている。

 それでも既に保養地に招待されているのに、またお礼というのも色々と勘繰られそうなのでひっそり。


「いやぁ、もう娘からライハルト殿下と結婚したいから協力してくれと言われた時には、びっくりしましたよ」


 大袈裟に驚きながら言う、フィリアナのお父さん。明るさが滲み出ている。

 婚約の挨拶も終わって今は普通に雑談中。保養地で既に仲良しなので。


「わざわざ言わないでよ」

 恥ずかしそうにするフィリアナが、今日も可愛いです。


「保養地では毎日ライハルト殿下を訪ねようとするから、やり過ぎはよくないと止めるのが大変だったんですよ」


 楽しそうに笑う明るいフィリアナのお母さん。いい話が聞けてこちらも嬉しいです。にまにましちゃう。


 同じ地方貴族として北部からの情報も流れていたようだが、ナタリーの実家とか子爵家の件に関わった関係で、南部でも俺の評判は良いみたい。

 娘の気持ちだけではなく、普通に家としても婚約を喜んでもらえているみたいで良かった。


「娘を頼むよ、ライハルト殿下」

 和やかな会話の途中で、急に真面目な顔でご両親に頭を下げられた。


「はい。人の名前などの固有名詞を覚えるのが苦手なのでご迷惑をお掛けするとは思いますが、精一杯頑張ります」


 こちらも真剣な顔で頭を下げる。こんな俺に大事な娘を任せるなんて、不安も一杯だと思う。申し訳ない。

 オルグレン領は保養地だったり商売もする関係で、家の関係者が多い。客も含め、俺が名前を覚えられないことでトラブルにならなければいいけれど。


「南部の人間は基本大らかですから、名前くらい気にしなくても大丈夫ですよ」

 優しいフィリアナのお母さん。


「そうですよ。むしろ私は殿下に覚えてもらえるくらい親しいのだと、自慢するか笑い飛ばして終わりですよ」

 お父さんも優しいな。普通に考えたら致命的だろうに。


「そうよ! それだわお父様!」

「えっ?」

 急に興奮した様子のフィリアナに、お父さんポカーンとしている。


「ライハルトに名前を覚えられるのが、一種のステータスになればいいのよ!」

「んん?」

 俺もポカーン。フィリアナの気持ちは嬉しいけれど、それはどうなの?


「リーリアさんに提案してみる!」

「そうかい? 頑張りなさい」


 お父さんがちょっと大雑把な感じ。好きです、その感じ。

 今日は同席していないが、おかしなことならリーリアが止めてくれるとお父さんも信頼してくれているのがわかる。


 その後も楽しい和やかな会食だった。


 婚約発表前なので表立ってイチャコラ出来ないし、馬車も別で辛い。

 ゴードンやシェリーたちが協力してくれるので学園で一緒にいる時間は取れるが、二人にはなかなかなれない。せめて手! 手を繋ぎたいんです!


 フィリアナが翌日にはステイタス作戦をリーリアに提案し、まさかのいけるかも判定が出た。うそん。

 本格的にケビンとルヒトじいも加わって、詳細な計画が立てられた。


 ひとまず南部ではフィリアナの家と懇意にしている家、ナタリーの実家とその周辺、子爵家とその周辺、ニコールの実家が協力してくれるそう。

 規模が大きくてちょっと、かなりびっくりしている。


「虫の家に困っていた人たちは恩返しだとノリノリでしたし、他でもライハルト様が令嬢を助けた話が広まっています。北部にも連絡したら、任せて下さいと返事がありましたよ。愛されてますねぇ」

 ナタリーが嬉しそうに教えてくれた。


 こんな計画が本当に上手くいくか不安だけれど、皆が真剣に考えてくれたのならいける気もする。

 俺としてはとにかくフィリアナに迷惑をかけたくないので、それが少しでも軽減されるだけでとても有難い。


 俺の貴族の人脈は投資のお陰で北部と南部の一部にはあるが、中央貴族となると未だにフォード侯爵家とロシーニ侯爵家くらいしかいない。

 後は悪評で遠巻きにされたまま。フィリアナは中央貴族との人脈目的でこの学園に来ているのに、非常に申し訳ない。


「その計画が上手くいったとしても、中央での評判が悪過ぎてフィリアナやオルグレン卿に迷惑をかけそうで不安」

 不安を率直にナタリーに吐露。そちらにも何かいい作戦はありませんか!


「何を言っているんですか。侯爵家二つに内政、予算、外交部門だけではなく、城のお針子や料理人にまで顔が利く人なんて早々いませんよ!」


「えっ、私でも役に立てそう?」

 王太子と違って伯爵家に婿入りなら、今の状態でも充分な人脈になる?


「勿論です! むしろライハルト様は中央最強ですよ!」


 ナタリーの鼻息が荒い。国内外の政治状況に、食や服飾の流行全ての情報が手に入ると説明された。


 それは間にナタリーたちが入ってくれているからではと思うが、いざという時に権力のある侯爵家もいるから、オルグレン卿に迷惑どころか恩恵しかないと言われた。


「少し今後の不安が減ったよ、ありがとうナタリー」

「むしろ胸を張って下さい。ライハルト様は最強です!」


 大袈裟に言っているとしても嬉しい。フィリアナにもさり気なく聞いてみたけれど、俺が隣にいるだけで充分だと言ってくれた。何それ、幸せ!


「うわぁ、殿下の顔がデレデレ」

 嫌そうに言うエヴァン。


「幸せそうでいいじゃないか!」

 さすがゴードン。

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