第94話 国の裏方トップ会談
城にある事務方の会議室には、国王の側近フリッツに王妃の筆頭侍女シャイナ、内政、外交、予算、調査部門の各部門長が揃っていた。
今日、ケビンが陛下に話をし、ライハルト殿下の今後が決定したのでフリッツが自分の名前で彼らに招集をかけた。
「どうなった?」
待ちきれないのか、こちらが話し出す前に外交部門長が聞いてきた。
彼はライハルト殿下が投資に成功して広めた品々を、外交の駆け引きに使いたいと考えている。
最近は北部から他国に向かう際に必ずシース領を経由し、勝手に直接領民に交渉を持ちかけて領民を困らせていると聞く。
「ライハルト殿下の臣籍降下が決まったよ。王太子はクールベ殿下だ」
フリッツは端的に事実だけを述べた。
「では発表はシーズン初回の王家主催の夜会で。ライハルト殿下とクールベ殿下の婚約を同時に発表します」
内政部門長が今後の流れを話す。王太子が誰かはしばらくの間は秘密にする。
彼は内政部門長として華やかな功績を以前から強く欲していた。
ルヒト様がいるので功績の横取りは諦めたようだが、少しでも自分の功績にしようとここ最近はずっと殿下周辺に張り付いている。
「クールベ殿下のお相手は、シーズン後に出来るだけ早く迎えに行けるように調整しておく」
他国の女性なので国家間での調整が必要になるので、外交部門長が言う。
「お迎えやその後の教師などのもろもろの予算を計上しますから、計画書を早めにお願いします」
予算部門長の言葉に頷く面々。クールベ殿下の側近では無理だろうから、各教師の手配などは私がしなければ。
「しかし、よくあの王妃陛下が今回の事を認めましたね」
内政部門長が情報収集の為に話題を変えてきた。
「王妃陛下には伝えていませんので」
シャイナが欲しがるだろう情報を伝える。変に周辺を探られるよりは、それなりの情報を出して納得させた方がいい。
「未だにディーハルト殿下にチャンスがあると思っているのですか」
予算部門長はルヒト様との繋がりは強いが、国全体を考え特に誰かに肩入れするということはしない。
「ええ。学園で良い婚約者を見つけてくれればと言っています」
シャイナが顔を顰めて言う。その表情が演技かどうかは見分けられない。
「ディーハルト殿下はカリーナ様との結婚を認めてもらうつもりのようですよ」
カリーナ様宛の手紙に本人がそう書いていた。ライハルト殿下を上回る功績と実績によって、王太子を狙っていることまでは言わないが。
「変なタイミングで王妃陛下に言われたら困りますね。対策は?」
内政部門長が今回協力的なのは、殿下が城に留まるよりも離れた方が自分に利点があると考えているから。今はそれを利用させてもらう。
「スージーたちにも頼んでいますので、問題はないでしょう。いつ頃まで二人の接触を止めますか?」
シャイナが彼らのプライドを満足させる質問を投げかける。
「婚約発表後の周囲の反応を確かめてからがいいでしょうね。その後にもう一度話し合いの場を持ちましょう」
「その時には他国の反応も報告できるようにしておこう。準備が出来次第、私が招集をかけよう」
内政部門長が仕切り、外交部門長が招集だけになったか。
「クールベ殿下のお相手は本当に大丈夫ですか? ダメ男製造機と言われていると聞きましたが」
予算部門長が外交部門長の顔を立ててくれるようだ。
「問題ない。親子揃って選ぶ男の趣味が悪く、尽くし過ぎるだけだ。そのせいであの国の婚期を逃したが、上層部での評判は悪くない。むしろ自分の息子がフリーだったらとか、こっちでいいのはいないかと聞かれるくらいだからな」
外交部門長が雰囲気が緩んだ。
「へぇ。あの国でそれは凄いですね。あちらの女性の婚期は十五から十九歳までで、お相手は今二十一歳でしたっけ」
予算部門長が更に広げる。
「ああ。最初の婚約者がクズ過ぎて、結婚を引き伸ばされた挙げ句の乗り換えで破談、二人目も浮気で二十歳で破談になった。父親が良心的な人で、娘を愛人にして仕事だけさせようとするのを許さないからな」
外交部門長が満足気だ。
「こちらならそこまで焦る年齢でもないですが、続けて浮気されるのは……」
内政部門長が敢えて含みを持たせた。婚約者にねじ込みたい関係者でもいるのだろうか。
婚約予定の令嬢がいるロギア王国は、王家と貴族が絶対的な権力と金を持ち、跡取り以外の令息は全員成人後に平民になる。
逃れる手段は結婚のみだが、女性の当主も認められていないので、長男以降に生まれた男はスペアでしかない。
更に国の運営に関する役職も貴族の当主が兼任する。スペアとして教育されたのを活かす場所は与えられていない。
給料設定も身分で異なり、平民の給料は安い。上司に恵まれなければ、終わる国として有名でもある。
「彼女以外にクールベ殿下と年齢がつり合い、王妃を任せられる女性はいないと思いますよ」
他に選択肢はないのだと伝えておく。彼女にまでちょっかいを出されてはたまらない。
「そうですね。国内の適齢期の独身女性には難しいでしょうし、若い方はまだどうなるかわかりませんし」
私の意図を汲んだ予算部門長が追随してくれる。
「せめてディーハルト殿下がまともならなぁ……」
外交部門長はクールベ殿下の婚約者が、このままの他国出身者の方が自分に利があると思っている。
内政部門長がディーハルト殿下を使わないよう、牽制かな。
「いつ自分が周囲に踊らされていたかに気が付くかでしょうけれど、ライハルト殿下を下に見ていますし、協力関係を築くのは無理でしょうね」
シャイナが外交部門長にのる。
婿入りでもライハルト殿下の国内での影響力は強く残る。協力関係を築けないディーハルト殿下では利用するのも無理だと、全員に周知させた。
「今の環境では自ら気が付くのは難しいかもしれませんね。両親から離れ、学園に入学して周囲を見ればまだ可能性はあるでしょう。立場上仕方が無いけれど、王家は厳しいですから」
内政部門長も今後の大枠に不満はないのかのってきた。
「天才云々は置いておいたとしても、あれはもうどうしようもないと思うが。色恋のことしか考えていないのでは、権力を持たせたままでは何処に出しても危険でしかない」
肝心な所を思い出してもらわねば。
「だな。国内でも充分に困るが、外国で会う相手は王族か高位貴族になる。どっかの誰かに一目惚れされたらもう……」
外交部門長が駄目押ししてくれた。
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