第93話 望みを叶える時 2/2

 真実を指摘しているだけなのに、何故認めない。更に追い打ちをかけようとしたら、クールベ殿下に止められた。

 散々打ち合わせをしたし、話せば理解出来る人だったから大丈夫だとは思うけれど、この状況で変なことは言ってくれるなと思う。


「国を思うのもいいでしょう。立場的には当然です。ですが、自分の息子を蔑ろにし過ぎではないでしょうか。蔑ろにされ続けたライハルトは、城に残ることを希望していませんよ」


 ちょっと論点が微妙にズレた気もするが、そのままクールベ殿下が話したいようなので譲ることにする。


「兄上、昔を思い出して下さい。私たちは自分の両親をどう思っていましたか。仕事が忙しく、滅多に会うことも出来ない、我々をただの駒の様にしか考えていないように感じて虚しい。だからこそ、自分の子どもとはちゃんと時間を取り、人として接したい。そう言っていたのは兄上でしょう」


「ああ、もちろんだ。だからこそ茶会をしていた」


「時間を取っているだけで、親子になれたと思っているのですか」


「いや、そんなことはない」


「功績を母親に横取りされ、悪評は流れるままに放置。教師をスライドもさせておいてなお王太子を目指せと言う。そんな両親を好きになる子どもがいますか。現にディーハルトが謹慎処分になってから茶会も食事も無くなっていますが、ライハルトから再開を望まれましたか」


「それは、ライハルトが、ローゼマリーやディーハルトには会いたくないだろうと配慮をして」


「兄上には会いたいと言われたことはありますか。ないでしょう?」


 陛下ががっくりと落ち込んだように見える。クールベ殿下もいい感じで追い詰めてくれて良かった。加害者側に会いたい訳がない。


「ディーハルトの周囲だけを身分の高い側近に侍女で固めて、二人が幼い頃からずっと周囲に王太子はディーハルトだと意思表示をしていたじゃないですか。気のせいだとは言わせませんよ。勘違いでも思い違いでもない。王家の慣例に詳しい者が見ればわかること。それは周知の事実ですよ」


 そうそう。クールベ殿下は打ち合わせで言って欲しいと話していたことをちゃんと理解して覚えてくれていた。

 陛下の揺さぶられ具合から考えれば、このまま任せた方が良さそうだ。


 自分の弟から言われることで、何か心に響くものがあるのだろう。表情がようやく崩れて来た。

 自分の側近の話を全くと言っていいほど聞かないだけあって、肉親からの言葉の方が効果が高いようだ。


「目を覚まして下さい。それの何処が駒でなく人なのですか。ライハルトは早い段階で城から、王家からも離れたがっていました。自分たちは何も手を差し伸べて来なかったのに、ディーハルトが自らの評判を落とし、王太子に相応しくないと思った途端、ライハルトを今さら手放すのを惜しむのですか?」


 今や陛下は愕然とした表情で固まっている。ようやく自分のして来たことを認識したのか。

 本気で気が付いていなかったとしたら、それはそれで恐ろしい話だ。


「でも、国の事を考えたら……」


「国の事を考えるのなら、二人を人として育てるべきでした」


「私は知らず知らずのうちに、父上たちと同じ事を二人にしていたのか……? 二人は、私たちの事を……」


「私たちと同じ様に、国王と王妃としか見ていないのではないでしょうか」


「そうか……。ライハルトは私たちから解放したいとは思う。だが今のディーハルトが、王太子に相応しいとは到底思えない。それは国王として譲れない」


「だから、私がここに来たのです。幸い兄上とは歳が離れていて、次代までの繋ぎは出来るでしょう。私に子が出来なければ、ライハルトに迷惑をかけることにはなりますが、今のライハルトを王太子に据えるよりはずっとましでしょう?」


「そう……か、いや、ライハルトの功績を考えれば……」

 何を今さら。ここは私からダメ押ししておこう。


「いいえ。ライハルト殿下の功績は何一つ広まっていません。学園でも城での悪評がそのまま垂れ流しにされていて、生徒たちからは遠巻きにされています。更に、ライハルト殿下は固有名詞を覚えるのが苦手です。このまま国王になれば、将来苦労することでしょう」


「兄上、今まで散々苦しめて来たのに、これからも苦しめるつもりですか。中央貴族に下に見られているのをどうにかするだけでも、大変な労力ですよ」


「そうか。そうだな……私の目を覚ましてくれてありがとう。これからは、父として二人に出来る事を考えよう」


 いい感じにまとまったようだ。陛下の側近フリッツ様が、ほっとした顔をしている。だけれど、釘も刺しておかなければならない。


「それは構いませんが、ディーハルト殿下がなさったことをお忘れなきよう。事実だけを考えれば甘い処分では許されません」


「ああ、わかっている……。クールベ、次期王太子として、弟として、愚かな兄の相談に乗ってくれるか」


「ええ。勿論です、陛下」


 陳腐に感じる家族の絆を白けた気分で見つめ、折をみてフリッツ様と一緒に部屋から退出した。

 陛下の許可が出たということで、ライハルト様が城を離れるのに必要な今後の話を詰めておく。


 フィリアナ様の両親には既に婚約の了承を得ているので、先ずは正式に王家から婚約の打診をしてもらう。

 まぁ、既にフリッツ様は全ての書類を用意済みだったので、発表の段取りなどの相談をしただけだ。

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