第92話 望みを叶える時 1/2
「ルヒト様、行ってきますね」
「ああ。思いっきり言いたいことを言って来い。ケビンも力をつけたし、これだけライハルト様の味方がいれば何とでもなる」
ライハルト様とフィリアナ様が両想いだと確認できたので、今日、動く。
王太子になることや城に残る事を望んでいない気持ちを知って、以前からライハルト様にとって何が一番いいのかを、皆で話し合っていた。
穏便に城から離れるには、拝領か婿入りが条件になる。拝領を選んだ場合は、領地の選定などに時間がかかるし、あの両親が変な領地を選ぶ可能性もある。
それに、ライハルト様の投資は確実に国を活気づかせている。王子のまま城に置いておきたいと思われて、ギリギリまで振り回される可能性もある。
色々な状況を考えた結果、やはり婿入り出来た方が確実で安全だった。
そう話が纏まり、ライハルト様の婿入り先を密かに探す事になった。
両親や弟との関わりが濃いままになる中央は論外。地方であれば自然と疎遠になる。選ぶなら地方貴族から。
さらにライハルト様の良さをわかり、フォローしてくれるような令嬢とその家族が良い。ここが一番難しい。
まずはライハルト様と親交を持ち、ライハルト様の人となりを知ってもらわなければならない。
そんな中、婚約破棄の件で話すようになったフィリアナ様には、同じ婿を探す立場の知り合いが多いと知った。
フィリアナ様本人も調査の結果や性格に問題もないし、ライハルト様に令嬢を紹介してもらえたらと思っていた。
そんな感じで機会があって事情をそれとなく知らせたら、今までそんなそぶりがなかったフィリアナ様が立候補した。
突然の事で少々疑ってしまったが、直接フィリアナ様から話を聞いたリーリアが問題ないと判断した。
ならば大丈夫だろうと、リーリアを中心に二人の関係が進むように周囲からかなりの後押しをした。
それが良かったのかどうかはわからないが、ライハルト様もフィリアナ様を好きになったようだった。
リーリアたちの話によると、フィリアナ様がライハルト様にアピールしている姿が、相当可愛いらしい。
自分の気持ちを自覚していそうなライハルト様が、何故か全く動き出そうとしないのでヘタレ疑惑も出ていた。
ヘタレをどうやって動かすかと真剣に会議までしていたが、単に自分の立場を考えてもじもじしていただけだった。
早く準備が完了していたことを教えておけば良かったと思った。クールベ殿下には既に話を通してある。
それにディーハルト殿下の筆頭侍女、スージー様からも協力を得られたのが大きい。こちらに協力してくれるよう頼んでくれた、シャイナ様のお陰だ。
ライハルト様を今のような状態に追い込んだ一人と思えば腹も立つが、ライハルト様はそれよりも両親を微妙に思っていることもわかった。
確かにそうである。筆頭侍女に両陛下が翻弄された訳ではない。反対する周囲の意見を押し切り、両陛下が自ら率先して動いたのだ。
クールベ殿下が次期国王ではいささかの不安があったが、陛下の側近、シャイナ様、スージー様がいれば大丈夫だ。
何よりクールベ殿下の想い人は優秀な女性だった。これだけ脇を固めれば問題なく国は動く。
今の両陛下から考えても問題ない。むしろ周囲の意見を聞き公平に考えられる分、今よりよくなるだろう。
最終的な打ち合わせをクールベ殿下として、共に国王陛下の元へ向かう。王妃陛下は同席しないようにしてもらった。
ライハルト様の側近として、一世一代の大勝負だ。
「どうした、珍しい組み合わせだな?」
「そうですね。そろそろ目を覚まして頂こうと思いまして」
クールベ殿下の言葉に、陛下はとても不思議そうな顔をしていた。
「ライハルト殿下の臣籍降下と、それに伴う婿入りを進言させて頂きます」
ここは私が側近として言う。
「それは以前にも駄目だと言ったはずだ」
陛下が即座に否定した。
「再提案です」
今度は言い返せないほど言うつもりで来たので、思わず笑いがこぼれた。
「まず、私がライハルト殿下の側近になる時、いずれ内政部門へ戻す約束をして下さいましたね。その時私は、いずれ若い側近で固めるのだろうと安易に考えていましたが、あの時には既に、ライハルト殿下を王太子にするつもりは無かったのではありませんか」
「そんな事はない!」
大ありだろうが。
「そうでしょうか。では何故、ご自身で声をかけた側近候補たちを放置していたのですか。何故、ライハルト殿下の教師をディーハルト殿下にスライドさせたのですか」
「それはディーハルトが天才で……」
まだそんな風に思っているなんて、親バカを通り過ぎて違う何かに思える。
「まともな教師がいないライハルト殿下が、どうやって王太子になる為の教育を受けられると思ったのですか。あの若者たちのどこが将来有望な側近だったのですか。成績も生活態度も悪く、城勤めの採用試験にも受かるとは思えませんが」
陛下は言い返せる言葉がなくなったようで、無表情のまま黙っている。だったら続けるのみ。
「何故ライハルト殿下の功績を、全て揉み消しているのですか」
「揉み消してなどいない!」
今の状況を揉み消したって言うんだよ。
「王妃陛下に横取りされた状態だったのを形だけは元には戻してくれましたが、結局あれら全てがライハルト殿下の功績だったと周囲に訂正してはくれませんでしたよね」
その辺の情報はフォード侯爵家からも入手済みだ。
「それは、それをするとローゼマリーが王妃として……」
横取りした王妃を選ぶ時点で終わってるよな。
「実際に功績があるライハルト殿下より、人の功績を横取りした妻を、王妃を選んだということですよね。本当にライハルト殿下を王太子にするつもりがあるのならば、殿下の功績にした方が今後順調だったと思いますが、何故ですか」
「……」
「これまではディーハルト殿下が兄の婚約者に横恋慕するような男でも、王太子にする考えを持たれていた。違いますか」
「いや、さすがにそれは無い! ディーハルトには将来ライハルトを支えてもらうつもりで!」
「兄弟仲は最悪ですよね。その状態で支え合えるような関係になれると思っていたのですか。周囲はそうは思っていません。自滅したディーハルト殿下を陛下が切り捨てただけにしか見えません。今まで二人への対応に明らかに差がつけられていたので、周囲もディーハルト殿下が王太子になると思っていますよ」
「違う、私は……」
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