第98話 三年生

 ついに三年生になった。


 弟は入学したが、弟と同い年のカリーナは入学して来なかった。カリーナの今後はどうするつもりなのだろう?

 学園卒業の経歴がないと貴族との結婚が難しくなるし、病気療養が長引き過ぎるのも結婚に影響が出る。


 あの一件以来、カリーナと連絡は取っていない。情報も周囲が気を遣ってか、完全にシャットアウトされている。

 弟とは更に疎遠になっているし、今何をしているのか知らない。弟も同罪だと思うので、カリーナにだけ厳しい罰とかだと微妙だなと思った。


 リーリアに聞いたら怖い笑顔を頂きました。ニコールとプルッた。

 教えてくれたのは弟が城から学園に通い、今も公務を積極的に引き受けている事だけ。


 それはもう知っている。今の俺は知らなくていい事なのだと納得する。だって怖い。凄く怖い。無理。

 その影響か今年は視察が無くなり、週末も学園で過ごせる日が増えた。


 同じ学園にいても俺は弟に会いに行かないし、弟も俺に会いに来ていない。実は弟、あの一件に関してまだ俺に直接謝罪をしていない。

 直後の謝罪は謹慎中の弟に代わって、筆頭侍女が来た。弟はあれで俺に謝罪をしたつもりなのかもしれないが、それは流石にダメだろう。


 人に言われて謝罪に来るのは違う。自分で気が付いてちゃんと心から謝罪しないと、意味がないよねってことで双方合意の元で放置中。

 弟の成長を促す意味もあり、俺からは一切接触しない。立場的にもなぁなぁで許されたと勘違いされては困るのです。


 ちなみに母上からも謝罪は無いが、こっちは俺がこのままが良いと思っているのでアンナの師匠も放置。

 カリーナに関しては、俺への謝罪そのものをフォード卿が許していない。


 弟の筆頭侍女は学園でも真っ先に謝罪に来た。別にもういいのにと思っているが、本人の気が済むならと受けている。

 俺の婿入りに際して裏で暗躍してくれたと聞いているので、ありがとうって言ったらうるっとされた。


 それから、仲良くなった騎士志望の人たちが、弟と会ってしまいそうな場面で筋肉の壁になってくれている。

 何故か俺が弟側から攻撃されていると思っている風だが、聞かれないので何も言っていない。筋肉が集まり過ぎると暑苦しいが、助かってはいる。


「なんか最近やたらと殿下のことを聞かれる」

 ゴードンがハノアの料理を口一杯に頬張りながら言う。マナーの改善が進んでいない様子。


「私もよ。令嬢たちにあれこれ聞かれるようになった」

 シェリーはとっても綺麗に食べる。


「殿下を紹介して欲しいって頼まれたりするようになった」

 カールは勉強中だが、かなり綺麗になって来た。


「私も。断っているけれど」

 エヴァンも最初からかなり綺麗だったけれど、さらに勉強中。二人はあのアガーテさんの一件以来、マナー関係をかなり頑張っている。


「……学園に警備の人を付けてもらって正解だった……」

 フィリアナは急に色々な令息令嬢から話しかけらるようになり、最近毎日ぐったりしている。

 俺が四六時中一緒にいれたらいいのだが、男女で授業が違う事が多いのでなかなか難しい。


「あの警備の人たち滅茶苦茶面白いよね! なんちゃら家令嬢! とか急に言い出してメモを取るから、嫌味を言った人たちがすんごい焦ってたよ」

 笑いながら言うシェリー。


 褒めてくれてありがとう。あのやり方はこちらから提案した。


「いいだろ、あれ。何度かすれば、全校生徒の噂になって皆への攻撃はすぐに無くなると思うよ」


「うわぁ、殿下が悪い笑顔」

 エヴァン。


 相手が一番嫌がりそうな方法を具体的に考えつくのが怖いが、アンナとリーリアの共同発案。

 懲りずにやっていれば自分の評判が落ちるし、そもそも何処に報告されるのかに気が付けば真っ青になるだろう。


 うちの女性陣は頼もしいが怖い。だけれど、ややこしい女性対策は同じ女性に対策を考えてもらった方がいいとしみじみ思う。


「リーリア様が尊い」

 保養地で仲良くなってから、フィリアナが物凄くリーリアを慕っている。


 予想通り、フィリアナにちょっかいを出す人はすぐにいなくなった。

 一先ず安心と思っていたら、何故か俺の所に来る令嬢がいる。しかも元婚約者候補の人たち。今更何故。


「フィリアナ様より自分たちの方が上だって思っているんじゃない?」

 カール。


「あり得ないんですけど」

 俺。


「ついに殿下が、王太子にならなくてもたんまり私財を貯めこんでいるのが中央貴族にバレたみたいだね」

 エヴァン。


「ライハルトのことは信頼しているけれど、令嬢がライハルトの所に集まってアピールしている姿を見るのは嫌かも」

 フィリアナ。


 この一言で俺の方針が決まった。翌日俺に群がって来た令嬢に、にっこり笑顔で書類を見せた。

 今まで彼女たちが言っていた俺の陰口集です。読み進めるにつれてどんどん顔色が悪くなっていく。


「もう一度清書するのは面倒だから、書類は返してね? これ以上無駄なことに時間を使うのはもったいないよ」


 にっこり。蜘蛛の子を散らす様にいなくなり、その後他にも心当たりがあるであろう人たちは、誰も周囲に来なくなった。


「殿下、容赦ねーな!」

 ゴードン。


「どうせ名前も覚えていないし、フィリアナの方が大事」


「そうなんだろうけど……」

 微妙な顔のカール。


「そもそも第一王子の陰口を言いまくって、更に逃げていたんだから自業自得じゃない?」

 いつも通りのエヴァン。


 お互いに余計な事柄を排除出来て、毎日楽しい学園生活を送ることが出来るようになった。

 今後を考えればそれなりに繋いでおくべきかとも思ったけれど、フィリアナより自分の方が上とか考えているのかと思うと、いらないよね!


 今日も一番フィリアナが可愛い!

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