第78話 分厚い書類

 今日は父上の側近たちによる力作、すんごい分厚い書類が手元に届いたので、側近候補の婚約者に集まってもらった。


「忙しい中集まってもらい、申し訳ない」


 女性陣の顔が真剣過ぎて、ちょっと怖いよ。司会進行役を友情参加の辺境伯家令嬢に任せて、それぞれの現状を確認。特に変化なし。

 最初は情があったらしい令嬢も、相手のあまりの態度に情も消えてしまったそう。


「私に領地のことに専念してくれたらいい、自分は王都でのパイプを作るのに専念すると言われまして」


「殿下がいてもはっきり言ったらいいのよ、フィリアナ」


 司会進行役の辺境伯家令嬢がぐいぐい。フィリアナって言うのは多分伯爵家令嬢の名前。仲良くなったのね。

 辺境伯家令嬢は、ゴードンに拳骨を落とした現場を目撃した後から俺に対して徐々にこんな感じになり、婚約が破棄されてからは俺相手の猫が完全に行方不明になった。


「昨日、モモーナさんと住むから、王都に家を購入する準備をしてくれと言われました……」


「わー」

 思わず王子の仮面が剥がれました。


「あり得ないでしょ? 愛人を囲う金銭を、妻にたかる気なの!」

 辺境伯家令嬢がプンスカしている。


「書類に証拠として追加しましょう」

 ケビンがそう言って、伯爵家令嬢も詳細のメモを渡す。その場で正式な書類に書き起こしていく。

 チラッとメモを覗いたら、子作りの為に月に一度は領地に行くとかのヤバい発言も見えた。


「他にも追加があるなら今のうちに」


「大丈夫です。真新しいのはこれくらいです」


 辺境伯家令嬢が事前に聞き取りをしてくれていたみたい。ケビンが書き起こした書類に署名をもらうために、ロイドが出て行った。

 ずっとやっていた作業なので慣れっこ。何月何日どこそこでこういう事がありましたと書いた書類に、聞いてたよって人に署名してもらう。


「先に準備が出来た書類を渡すよ」


 俺の側近候補から完全に外すことが書かれた書類を渡す。これを受け取った当主から反論が無い限り、そのまま側近候補から外れる。

 反論がある時は相手がお金を払って裁判を起こすしかない書式だが、普通に考えてこれだけの内容なら裁判を起こされる心配もないとのこと。

 かえって家の恥になっちゃう。


「分厚いですね……」

 子爵家令嬢のは家対家の契約違反もたくさんあるので、本気で分厚い。


「言い逃れさせない為にはこれくらいは必要らしくてね。二人は私がこれらの証言を集めるのに協力した立場で、希望があったので複製を渡したと話をしてある。助かったよ。ありがとう」


「いえ、こちらこそありがとうございます。私たちだけではこれほどの書類は作れませんでした」

 お役に立てて何よりです。


 子爵家令嬢の婚約者は、元を辿れば虫の家が俺の側近に推薦していた。香水事業で協力関係の侯爵家経由での推薦だったので、父上の側近がねちっこく調べてくれるまでわからなかった。

 ここに関しては直接言われはしていないが、側近候補である事も相手方を信用する材料になっていたと思うので非常に申し訳ない。


 側近がケビン一人のままなのはあり得ないので、このまま王子でいるなら側近は今後増員する必要がある。

 ただ、王太子から無事に逃れられた場合を考えると、安易に増員は出来ない。それ以前にあいつらだけは絶対にないが。


 令嬢側からの婚約破棄にも利用出来るよう、個別に事細かく側近候補から外した理由を記載している。残念な息子の姿を見るがいい!


 要約すると、あんたたちの息子、性格やら私生活に問題多過ぎて側近にする気は微塵も無いよ。

 国政に関わりたいなら自力で筆記試験や面接を受けて、役人になってね。難しいと思うけど。みたいな内容。


 この書類と一緒に各家の当主へ父上経由で通達してくれ、問い合わせの窓口にも父上の側近がなってくれる。俺たちはノータッチでいける。

 ちゃんと彼女たちに渡しても良いという許可ももらっているし、婚約破棄用の証拠集めもばっちり。


 これだけの証拠があれば、令嬢にかなり有利な条件での婚約破棄が可能になるはず。

 王家に見限られた令息なんて、どうしようもないからね。冬休み前には当主へ渡せるように準備はしていたけれど、間に合って良かった。


「お聞きしてもよろしいでしょうか?」

 伯爵家令嬢からの質問。


「答えられることなら答えよう」


「通常であれば側近は十歳前後には決められて、将来の為に共に勉強すると聞いております。彼らが候補のままなのは、彼らに何かが不足していると当時からお考えだったのでしょうか」


 自分たちの婚約に関することかと思っていたのに、ちょっと予想外の質問だった。正直に答えるけれどね。


「元々私が、同年代の側近そのものに疑問を持っていたからだな。私は側近に自分より深い知識と経験、それに私に対する諫言を求めていた。それが同世代の側近には難しいと考えていた」


「確かに、普通に考えればそうですよね……」


 俺の意見に納得してくれるタイプの人で良かった。タイミングよく相槌が来るので話しやすいのも助かります。


「正直にお答え下さって、ありがとうございます」

 これくらいでいいならいくらでも答えます。

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