第68話 夏休み 1/3
学園は夏休みだけれど、世の中は社交シーズンに突入。俺は社交デビューはまだだけれど、何だかんだで色々な所に引っ張り出される予定。
夜会には参加しないけれど開会の挨拶にはいたり、なんかの完成セレモニーだったりのイベントとか。
「なんか私のスケジュール、過密じゃない?」
二か月ある夏休みがほぼ予定でびっしり。ちょっと多過ぎやしませんか。
学園に入学したら、普段の公務が減る分これだけ増えちゃうものなの? デビュー前なのに? ケビンに確認。
「残念ながら、これ以上は減らせそうにありません」
この予定を立てたケビンも不服そう。
公務は基本的に王家主催のものやそれに関連するもの以外に、各家からの依頼や招待がある。
誰が何処の何に出席するかは、内政部門と各側近などが集まって調整される。
弟の側近は同世代ばかりなので参加はせず、内政部門に専門の担当者がいる。
ちなみに弟には十歳の時に側近希望者が大勢いて、将来有望な子たちがちゃんと揃っているらしい。
「ディーハルト殿下には自由な会話が発生するようなイベントごとは避けるようにと、陛下から内政部門に通達が来ているそうです」
「えー! 不公平!」
弟と同じ年の時には、俺は普通に会話が必要な公務にも出ていた。
「まだ会話術的に無理みたいですよ。本当に天才なら、サクッと全部華麗に躱してくれたらいいのですが、そうもいかないみたいです」
「何を華麗に躱すの?」
「謹慎処分を受けた理由です」
箝口令は出されていたが、弟の使用人が冬に里帰りしたことで確実に謹慎処分中であることが各所に漏れていた。
この情報は内政部門と調査部門から頂いたらしい。
ただ里帰りした人たちは、謹慎の理由までは知らなかったらしい。これはナタリー談。
ナタリーの城内での情報網が相変わらず凄い。相手は一応対立派閥? なのにさくさく情報を集めて来る。
詳細を知っているのはフォード侯爵家や弟の筆頭侍女、内政部門や予算部門などの一部などに限られている。
護衛などの立場上知り得た人たちは、当然だんまり。話したら即解雇になるし、元々口の軽い人は採用されない。部門関係者もそれは同じ。
直接協力していた人たちは解雇された上で、現在はまだ密かに監視付きでそこからも漏れてはいない。
弟はこそこそしていたので、弟側で知っている人は少なかったのだ。
なので弟が謹慎処分になっているのを知っている人は多くいるが、何故そうなったのかを知る人は少ないという。
だけれど俺とカリーナの婚約解消が、弟の謹慎処分の開始とほぼ同時期に発表されている。
だから弟と俺の間に何かあったと勘繰るのは、貴族としては普通の事。
評判の悪い俺か、優秀とは言え俺さえ未経験の謹慎処分になった弟に付くべきか、悩んでいる人たちがいるそう。
どちらに付くべきかを吟味したり、弟の謹慎処分の理由を知りたい人たちが、一番情報を掴みやすそうな弟から聞き出そうと狙っているとか。
俺は今まで全部サラッと流して、更に知らないフリをしていた。なので既に俺からは聞き出せないと思われている。
ルヒトじいの入れ知恵と日々の訓練のお陰で、口の固い王子、もしくは馬鹿過ぎて蚊帳の外に置かれている王子と評価されました。
傍に控えていたケビンに言わせれば、俺の受け答えは年齢から考えれば完璧で聡明だと評価されると思っていたらしいのに、まさかの馬鹿扱い。
ルヒトじいと二人で何故だ……って落ち込んでいたが、受け取る側の問題だと二人も気が付いていると思う。
皆受け取りたいように受け取るよね。今までのまだ短い人生で、そう悟ってしまっています。
弟は当事者だから俺の様に知らないフリは出来ないし、したら病気を疑われるレベルのお馬鹿だと評価されてしまう。
筆頭侍女から今の弟では無理だろうと、父上たちに進言があったらしい。
この筆頭侍女はカリーナのことを弟から内緒にされていたらしく、謹慎処分後に激怒していたとかしばらく荒れていたとかは有名な話。あちらも大変よねぇ。
「今年は会話が必要になる公務の依頼が増えているのです。それでも、普通に王子二人で分担するには通常の量です」
楽な出席して決まった文言を話すだけで許されるような公務が、弟に全部流れた形。王族に来て欲しいと依頼して、そういう形の公務は元からあまりない。
この結果にはケビンもかなり不満ではあるらしく、かなりの毒舌で文句を言っている。
「ライハルト様は迷惑をこうむった側なのに、何故尻拭いまでしなければならない! 断るか、親が面倒見ろよ」
そうだよね。何で俺が弟の公務を被らなきゃいけないの。勘弁して欲しい。
「災難でしかないな。こちらに迷惑をかけておいて、フォローまでこちらにさせるとは本当にどういう了見だ」
ルヒトじいも一緒にプリプリしてくれた。だよねー。放置していた母上が頑張ればいいのに。
「本当にどこが天才なんでしょうね?」
毒舌リーリアも参戦してくれた。
「あちらの側近は同世代ばかりで付き添うことも出来ないし、陛下の側近を付けるのもいかにもだからと言うのですよ」
同世代を側近にする弊害……。
「普通に同世代の側近しかいない場合ってどうしてたの?」
「内政部門や教師から付き添いがあります。その辺では抑えられない人たちが、てぐすね引いて待っていますがね」
ケビンがもう投げやりになっているもよう。そんで、そんな所にお呼びじゃない俺が放り出される事実。いやそれ、ただの罰ゲームやん。
「それってまた、私の馬鹿って噂が広がるんじゃないの」
聞いていた皆も既にそれを想像していたのか、渋い顔。弟のフォローをさせられて、そのせいで忙しくて。
挙句自分の悪評をばらまくきっかけを自ら作らされるとか、本気でただの罰ゲームですやん。
「とはいえ、ここで盛大なやらかしをされてしまうと、ライハルト様が王太子待ったなしになりますし、それが嫌なら頑張るしかないという、どうしようもない状況です」
いやーん。
「弟の謹慎はいつ明けるの?」
「予定では学園入学前になるそうです」
「次の夏は大丈夫ってことか……」
「こちらとしてはただの迷惑ですし、社交シーズン前には謹慎が明けるように働きかけています。学園でどうせ聞かれるでしょうし、そこまで我々が面倒を見る必要はないと思います。不満はあるでしょうが、今年だけは頑張って下さい」
ほんと、しゃーなしですよ、しゃーなし! しかもさぁ、俺はすんごい悪評だらけの中に十歳から放り出されているのに、弟にだけ過保護過ぎませんか!
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