第69話 夏休み 2/3

 激増している公務に加え、投資先や売買に関わっている人たちとの会食も入ったりで大忙しの夏休みになった。

 そんな中で、北部のメンバーと一緒にゴードンたちを呼んだ会食は非常に楽しかった。またシース卿とゴードンのコントが繰り広げられた。


「ゴードン、下品過ぎるだろが!」

 ごっつん。食べ方を注意されているゴードン。同時に手が出ているのもどうなのか。


「父上も下品だろ!」

 ゴードンが言い返すその横で、奥さんが遠い目をしていた。


 シース卿は北部の図太い人間代表として、王都の学園に通っていたそう。とても、凄く、納得。

 奥さんが小さい声で、何で好きになっちゃったんだろ……と呟いていたのが印象的だった。


 家族思いで、仕事も出来る良い男だと思います。北部の流通を物量が増えているのにきっちり捌いてくれている。

 奥さんのことも大好きだし、ゴードンだけでなくカールやエヴァンのことも気にかけている。ちょっとアレなだけで。


 初めて王都に来たというカールとエヴァンの両親は、子どもと違って小心者らしく、オルグ卿とマイヤー卿の奥さんと共にびくびくしていた。

 カールとエヴァンはルヒトじいにびびっていたけれど、ゴードンはお構い無し。大物の予感?


「ルヒト様、すげー髭だな! 俺も将来髭を伸ばそうかな!」

「言葉遣いに気をつけろ、餓鬼!」

 ゴードンもアレだが、ルヒトじいの返事もダメダメ。


 だけれどルヒトじいは俺からの話でゴードンがどんな人かを知っていて、今回は敢えてやっている。

 今後のことを考えればこそ、鍛えたいとか言っていた。


 ルヒトじいは迫力があるので、ほとんどの人が震えあがっている。

 シース卿とゴードンはいつも通りで、オルグ卿とマイヤー卿は我関せず。流石図太い組の大人って感じ。


 折角王都風にアレンジされたチーズ料理や、北部で食べられないような料理を用意してもらったのに、彼ら以外に味はしているのだろうか。

 シース卿の奥さんには胃薬の差し入れが必要な気がして来た。遠い目を通り越して、虚ろな目になっている。


「だから言っただろう!」

 シース卿のごっつん再び。


「王子の前で気軽に息子に拳骨を落とすな!」

 シース卿も怒られた。奥さんが気絶したそうにしているが、それは阻止。


「奥さん、あちらはルヒトに任せて、こちらはこちらで食事を楽しみましょう」

 縋る様な目で見られた。気持ちはとてもわかる気がしますが、彼らを助けるわけではなく放置します。


「シース卿とゴードンは中央貴族に会う機会が一番多くなるでしょう。北部の今後を考えれば、ルヒトが今のうちに指導したいと言っていましたので、安心して下さい。あれは指導です」


 口は悪いけれど。笑顔で言ったら奥さんが泣いちゃったよ。


「口に食べ物を入れたままでしゃべるな!」

「えー! 無理! だったら話しかけないで!」


「そうならない様に少量ずつ口に運ぶんだ!」

「料理の美味しさが減るー」


「減らんわっ!」

 ごっつん。

「だからすぐに手を出すな!」


 ルヒトじいの指導をBGMにして食事をした。こうなることは事前に予測していたので、席順も抜かりなく。

 奥さん方にはかなりの負担になったっぽいが、そこはスルー。仕方がない。カールとエヴァンは直ぐに慣れた様子で流石図太い組って感じ。


 次に北部の人たちと再会したのは、フォード侯爵家込みの食事会。

 本当ならルヒトじいの実家のロシーニ侯爵家も呼びたかったが、カオスになりそうなので分けた。


 北部からはシース卿とオルグ卿にマイヤー卿の三人。前回で心が疲弊した奥さんたちはいない。代わりにゴードン、カール、エヴァンが参加している。

 子ども組三人が、もれなくフォード卿とアガーテさんを見て緊張でかちんこちん。中央貴族当主夫妻を見たのが初めてなようで、文字通りかちこち。


 侯爵家特有の雰囲気に圧を感じているっぽい。フォード卿たちは俺に好意的だから、こんなのは圧のうちには入らないのだけれど。

 ロイドでも騒いでいた三人には、当主ともなるときつかったみたい。まぁ醸し出す威厳が違うよね。


 今日は商談も含めているので昼からの食事会。子ども三人が終始、借りてきた猫のように大人しい。

 フォード卿が男の大人同士で情報交換を始めたので、俺たちとアガーテさん側で静かな食事会になりそうな雰囲気。


 ところでこの料理、何か切り分けにくい。なんだろうこれ? 新作かなぁ。

 でもここまで切り分けにくいのはよくないよねぇ。後で料理長に言っておこう。ゴードンたちも困っている。


「緊張してしまっても、上手くいっていない事を表に出すのはよくないですよ。相手が下に見る原因になります」

 いつまでもかちこちな三人に、アガーテさんから指導が入った。


「ライハルト殿下の様に、堂々となさって下さい。中央貴族はすぐに付け込んで来ますよ」


 穏やかに話してはいるが、話の内容が穏やかではない。

 三人の視線が助けを求めるように俺に向いているのがわかるが、ちょっと待って。上手く切り分けられません。


「殿下が……?」

 エヴァンからの問いかけ。いや、単に切り分けにくくてですね。


「その料理は、中央貴族特有の嫌がらせですよ」

 アガーテさんの爆弾発言。


「んん!? 陰険!」

 まさかの。


「事前にお食事のリクエストを頂きましたので、敢えて用意して頂きました」


「アガーテさん?」

 何してるの。


「そう驚かないで下さいな。わざとこの様な知らなければ切り分けにくい料理を出して、楽しむ悪趣味な方々がいるのですよ。知っていれば大丈夫です」

 にっこり笑顔で言われても……。


「ライハルト殿下は堂々とされていたので目立ちませんが、三人は目立ち過ぎです。一番駄目なのは嫌がらせに気が付かず、自分の技量のなさに落ち込むこと。一番いいのは嫌がらせをさらりとかわして、口頭で嫌味を言うことです」


 嫌がらせと嫌味の応酬って! 嫌な食事会だな! 参加したくないぞ!

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