第65話 まさかの保留

 ケビンから対応が必要だと父上に問い合わせた結果、なんと全員が候補のまま保留にされていたことが判明した。


「陛下の側近から平謝りされました。ライハルト様にも直接お詫びをと言っていましたが、断っておきました」

 ケビンがいい笑顔。そりゃ怒るよね。


「うん、それでいいよ。大人に並んで謝られても困るし、許したことで側近にされても困るし」


「実際はライハルト様が考えているのとは少し違っていましてね」

 ケビンが黒い笑顔で話し出した内容がなかなか酷かった。


 ケビンが報告兼当主経由での注意をお願いしようとしたところ、父上の側近もすぐに応じてくれた。

 ところが数十分後、慌てた父上の側近がケビンのところに駆け込んで来た。


 なんと父上の側近が各当主に断りの連絡を入れた後に、父上が各当主に夜会で曖昧にではあるが直接保留だと伝えていたことが判明。

 父上の独断で、側近たちも知らなかったそう。だからこそ、保留された側近候補が野放しにされていた。


「うわぁ……。何やってんの父上」


「その通りですね。陛下はライハルト様の将来を思って、良かれと思ってしたとかなんとか言ったそうですよ。彼らを逃せば同年代の側近が難しいと思われていたそうです」

 いればいいってものじゃないです。父上がたまに見せる愛情が斜め上な件。


「余計なお世話だし、事前に自分の側近やこちらにもどうしたいか聞いて欲しいよねぇ」


「その通りです。この件の処理はあちらの側近に全て投げました。ライハルト様の学園での評判を貶めていると思うと怒りしかありませんが、彼らが何をしても責任は全て陛下です」


 父上の側近が至急調査に入ったそう。学園での素行はこちらでも情報を集めることになった。それくらいの協力はね。

 学園の警備からはケビンとロイドが、学生たちからの情報収集はゴードンたちが協力してくれた。


 俺? 友達がいないからほぼ役立たず。俺に向かって聞こえるように言って来る噂話を収集しています。

 その間にも彼らはどんどんモモーナとの仲を深めていっているらしい。


 確か小説内の乙女ゲームのヒロインがモモーナで、モモーナから見るとカリーナが悪役令嬢でとかだったかな。攻略が順調過ぎるようです。

 盛り上げ役のカリーナもいないし、そもそもカリーナがヒロインのWeb小説だったし、俺は熊さん鉄壁ガード中だし、彼らも正式な側近じゃないし。なんなんだろうな。


 最近は昼食も休憩中も誰かしらがモモーナと一緒らしい。放課後も時間が許す限りモモーナに費やしているっぽい。

 一緒に学園から出かけているのが警備の記録で確認できた。それでも一応周囲には、モモーナも彼らも気の合う友人だと言っているらしい。


 父上の側近の調査の結果、彼らは野放しにされて変なことになっていたと判明した。

 彼らはちゃんと俺の側近になるべく今まで頑張っていたらしい。その割には入学後にこちらに挨拶にも来なかったし、正直嘘っぽい。


 父上の側近もこちらが上げた情報で、父上の曖昧な言葉を利用して肩書きを絶賛利用され中と判断した。

 途中こちらから何も無かった結果、余計に好き勝手出来たもよう。


 側近は跡継ぎは本来遠慮すべき役職で、跡継ぎは自分の領地を優先すべきとされている。城勤めと一緒。

 例外は替えがいないと思われるほど優秀であり、領地が王都に近く頻繁に帰れること、更に伴侶が領地経営の補佐をすることが条件。


「では、説明しますね」

 説明前からケビンの顔が渋い。


 自称側近の一人目は現騎士団長の甥っ子。ここは二人兄弟で騎士団員を多く輩出している家系。

 本人の騎士への適性を見てから跡継ぎを指名したいとのことで、当時は兄弟どちらが領地の跡継ぎが決まっておらず、取り敢えずで同い年の兄が来ていた。


 そんで俺が側近をケビンに決定した後に、その兄が跡継ぎに指名され辺境伯家の令嬢と婚約している。

 この婚約は政略の意味合いが強く、内政部門と外交部門も関わっている。


「この兄ですが優秀との噂は皆無で、領地も王都からかなり離れています。しかも学園では騎士団入りを目指していると周囲に話しているようです」


「無理じゃね? 領地を継ぐのにどうやって騎士団入りするのよ」


「わかりません」


 まさかとは思うが領地を任せる婚約者を領地ごと放置して、王都で騎士をしながらモモーナを現地妻計画とか?

 そんな事をしたら辺境伯が怒り狂う気がする。ついでに真面目な騎士団長も。ここの先行きはこのまま悪化していくと恐ろしいことになりそうな予感。


「二人目の南部の伯爵家の令嬢と婚約している侯爵家の次男ですが、こちらは伯爵家に婿入りが決まっています」


 家柄は侯爵家で格上とはいえ、婿入り予定で側近にもなるのは普通は婿入り先に断られる。

 男性社会に入らざるを得ない女性当主を守る為の存在が、側近で領地にいないとかはあり得ない。


 婿入りが決まった時に、側近候補から辞退するのがマナーです。しかも婿入り予定の領地が王都から遠い。

 そもそも婿入りなら伯爵家側に選ぶ権利があるし、令嬢との噂が出るだけでもまずいと思う。


「厄介なのは令息の実家の侯爵家で、権力でごり押しするタイプの領主です」


 騎士団長の甥っ子の件と共に、こっちも介入が必要そう。家格が上だからって何をしても許されると思うなよ。

 これは父上の側近も同じ意見だったそうだが、なかなか厄介な家らしく俺の側近候補にする時さえ揉めたらしい。


「何でそんな厄介なのを私の側近候補にしたの」

 思わず言いたくなるよね。


「次男は人柄が良かったとか」

「嘘つけ。そんな奴が婚約者キープしたまま浮気するか」

「ですよね。陛下の側近も私に平謝りしていましたよ。昔は違っていたとか」


 婿入りなのに婚約者を蔑ろにし、別の令嬢と噂が出ているのを放置する奴が人柄が良かった? 意味がわからん。


「三人目は内政部門長の甥っ子です。部門長に憧れて、周囲からの情報によると内政部門を希望しているとか」

「そもそも側近希望じゃないやん」

 思わず言葉も乱れるわ。


「その通りです。ですから、側近候補で困っていると周囲に漏らしています」

「おいおーい!」


 内政部門への就職希望なら、俺のご機嫌取りに来てもおかしくはない。だが学園入学後も一度も来ていない。

 側近どころか、内政部門への就職にも本気じゃない気がするのですが。こちらは跡継ぎが別にいるので、基本的な条件は満たしているけれども。


「ようやく最後です。裕福な子爵家の令嬢と婚約している伯爵家令息です。彼は最初から跡継ぎです」

「おいーー!」


 領地が王都から近く、替えがきかないほど優秀だとの触れ込みだったらしい。実際にはそれ程優秀な感じでも無かったが、人数合わせで候補に。

 俺の評判が悪過ぎて、側近候補を希望する令息がいなさ過ぎた事で起こった事とか。


「私のせいなの?」

「まさか。側近に人数合わせなんて必要ないでしょう。税金の無駄遣いでしかありません。一応元から賑やかし要員で、著しい成長がなければ時期を見て候補から外す予定ではあったそうです」


 調査報告によると、最近は両親ともども評判がよろしくない。こちらには追加の調査が入るらしい。


 俺の側近候補が元々全員おかしかった件。彼らの婚約者に申し訳ない気持ちで一杯になった。

 俺も今までモモーナから逃げているだけで放置していて、誠に申し訳ない気持ちで一杯。商会の息子はフリーなので、俺知らね。

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