第64話 学校再開
三月になって学園が再開。今日は始業式。誰も学園長の話など聞いていないだろう雰囲気の中終了。話を聞いているフリの演技は得意です。
「おい、殿下の顔がますますおっとり王子になってないか?」
久しぶりに会ったカールの第一声。
「城での居心地は悪く無かったんですね」
久し振ぶりのエヴァン。ちょっと心配されていたみたい。
「うん。近年稀にみる平和だった……」
弟の関係者が少ない上に、母上や弟の外出が多かったので本当に平和だった。
「もう負けないからな!」
マイペースなゴードン。友達っていいなぁ。
「おい、早く現実に戻って来い。そんなおっとりしていたらなめられるぞ」
カールの言葉に、どこのヤンキー学校だと思っていたことを思い出す。
「一週間くらい、ちょうだい……」
「これは、しばらくダメそうですね」
エヴァン。
しばらくおっとり学園生活を送りつつ、冬休み中に更に鍛練したというゴードンを下した。
「何でー! 冬休み中も頑張ったのに!」
まだ寒いのに地面でじたばたするゴードンと、それを迷惑そうに見るエヴァン。乾燥しているので砂埃が今日も凄い。既にいつもの風景です。
「私も冬休みに鍛練したよ。それに、国境を守る辺境伯と私では系統が違うからねぇ」
「どーいうこと?」
じたばたを止めたゴードンが不思議そうに見てくる。寝たままだけれど。起きようよ。
「私は護衛対象だから、積極的に相手を無力化する必要がない。向かってきた相手を躱す練習がメインなのです」
「あー」
いざっていう時の為に普通に暗器やらで止めを刺す練習はしているけれども、切り札なので見せません。イメージ的にも見せられません。
ゴードンは必ず勢いよく向かってくるので、俺の得意分野。
のんびり楽しく過ごしていたら、すごーく嫌な感じで現実を突きつけられた。
「おい、モモーナが殿下の側近たちに急接近しているって噂が出ているぞ」
カール。
「マジか」
誰だよ側近たちってと思いつつも、心当たりはある。もちろんケビンとロイドでは無い。
「マジだ」
「えっ、殿下の側近はケビン父さんとロイド兄さんでしょ。新婚さんとリーリア様命の二人が、あんなのと?」
ゴードン的にもあんなの扱いなのね。
ロイドがリーリア命っていうのは既にバレている。ロイドも結構早い段階でゴードンたちの前では隠していない。
ちなみに二人は未だに平行線。ただ、ロイドがリーリアにとっての正しい距離感を覚えたので、以前よりは普通に接してもらえるようになっている。
それだけでもロイドは超嬉しそうにしているので、リーリアも邪険にはしにくくなってきた感じ。
元々リーリアの症状もかなり改善してきていたし、ロイドが諦めなければそのうちリーリアがほだされそうな予感?
本当にリーリアが男性相手に心を許せるようになったら、症状も無くなってもっとリーリアも自由になれると思う。
正直それがロイドである必要はないけれど、ロイドなら安心出来るというのもある。
ロイドは真っ直ぐで律儀で、真面目でもあるし、いい奴ではあるんだよね。
リーリアの実家が口出ししてきても、黙らせるだけの地位と権力、能力もある。相手としては悪くないのだ。勝手ながら温かく見守る。
「ロイドは正確に言うと側近じゃないよ。期間限定のお手伝いさん。多分、十歳の頃に紹介された令息たちのことだと思う。ケビンを側近に選んだから、その後は関わりが無いけれど……」
「勝手に側近を名乗られていたとしても、ちょっとまずいね。彼ら、婚約者がいるらしくて目立っているらしいよ」
エヴァン。
「わぁぉ」
噂になるのにも納得。婚約者がいる男性と、女性が二人きりはよろしくない。すぐに噂になる。
「変な声を出してないで。まずはもっと情報を集めてみるから、ちょっと待ってて」
「頼もしいです、エヴァン」
「はいはい。お礼はハノアの新作お菓子でね」
皆優しいなぁ。
結果、俺の側近候補だった面々と貴族向け商会の長男が、モモーナと一緒にいるのを最近よく目撃されているらしい。
状況はかなり変わっているのに、あちらは小説通りの展開になっている。商会の長男は正直どうでもいい。本気で、全く、俺とは何の関係も無い。
でも俺の側近だと思われている人たちに関しては、流れ弾がですね……。
皆が積極的に情報収集してくれて、昼食や放課後に教えてくれる。
「聞いてみたら、男たちはしょっちゅう周囲に殿下の側近候補だって言っているらしいぞ」
カール。
「えっ、殿下と話もしないのに? 見たことないよな? 挨拶さえ見たことないよな?」
ハノアのお菓子を口一杯に頬張ったゴードン。
「汚いよ、ゴードン。自称側近候補とか意味わかんないよね。ただ彼らの言動のせいで、本当に側近候補だと勘違いしている人が多いみたい」
エヴァン。勘違いしないでよと思うけれど、普通に考えて本人もいる学園で側近を自称する人なんていないよね。
「えー、父上にも一応確認してみる。正直彼らとはもう、全く付き合いがないんだよね」
自称なら父上経由で当主に文句を言わなければならない。
「よくそれで側近候補だなんて言えるな」
カール。
「殿下がアレだから、側近も質が悪いって噂されてたよ」
エヴァン。本当の側近ケビンと臨時側近のロイドに失礼である。
「私は全体的に無罪です」
「わかってますって」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます