第63話 ほっこり冬休み
冬は城でぬくぬく過ごした。雪の関係で北部との物流はほぼストップ。わざわざ用事の無い王都への道を雪かきする習慣が無いそうだ。
生活に必要な道に関しては、領民総出で雪かきをするらしい。ごっつくなったゴードンが、雪かきしまくっている姿が目に浮かぶ。
南部の化粧品関係が王都で飛ぶように売れ続けている。やはり誰もが香料たっぷりの高級品を望んでいるのではないとわかった。
王都には王都で働く庶民もいるし、安価に日々手入れが出来るので、馬鹿ウケしている状態。やはり貴族向け商品は庶民には高価過ぎたし、働く庶民にこそ必要な商品だった。
一緒にナタリーの実家へ行ってくれたケビンの先輩も、売れ行きを聞いて大喜びしてくれた。
来年に向けて、更なる増産の話になりそう。口コミでどんどん広がっているらしいし。
国家事業ではないので内政部門に直接旨味は無いけれど、それでも喜んでもらえて嬉しい。
毛糸の売れ行きも好調。他の人が着ているのを見て、何処で買えるのかを聞いて買いに来る人が多いそうだ。
王都ではそれ程雪が積もる訳では無いけれど、冬は家で手仕事をする人も多いので、いい感じに冬になっても売れ続けている。
北部では予め化粧品類を大量に買い付け、毛糸は物流の経由地に在庫を確保。希少品感を損なわないようにして売っている。
なので書類関係もほぼ南部のみなので、比較的のんびり過ごせる。暖炉の前でリーリアが淹れてくれたココアを飲みながら、皆でほっこり。
ここ、ココアもチョコレートも普通にある。ココアは砂糖を入れないと甘くないけれど、どちらも普通に美味しい。
甘くないココアとちょっと甘めのチョコレート。冬にこの組み合わせが最高に好き。チョコレートは高級品だけれど、たまには贅沢。
床には立派なシース織りが鎮座しているので、いつもよりも部屋が暖かい気がする。アリシアデザインのライアン作が届いた。
アリシアが俺の好みを知り尽くしているので、今まで見たのと違って、ちょっと格好良い感じの柄になっていて嬉しい。
年末年始は各地に散っている親戚が実家に集まり、親戚一同で過ごす事が多い。
俺の世話をする人員は誰かが残らなければならないので、特別手当てがあったりする。
税金からの支給は人数限定。国が定めた人数より多く残す場合は私財から。
毎年残ってくれているのはアンナとリーリアの二人。アンナは妊婦で移動がよろしくないとこちらに残ってはいるが、今は休職中。
今年はナタリーが視察ついでに実家に帰れたから、構わないと残ってくれた。結婚直後のニコールが熊さんの実家に行けるようにという配慮だ。
アンナの関係でケビンも居残り。三爺は帰省。ルヒトじいは腰が痛くなると残る気満々だったのだが、笑顔のロシーニ卿に捕獲されていった。
シース織りの販売に関して、知恵を借りたいとか言っていた。
俺が自分の事はほとんど出来るようになったので、侍女二人でも問題ない。ケビンも私的スペースに入れるので移動の必要もない。
近衛騎士は通常運転だけれど、来客もほぼ無いのでのんびりした雰囲気。
「この冬はディーハルト殿下の侍女たちが大量帰省しているので、静かですね……」
リーリア。
「ほんと、それな」
「ディーハルト殿下の年齢もあると思いますが、おそらく謹慎処分の情報を実家に持ち帰る為でしょうね」
ケビン。
「箝口令はよ」
思わず言葉が乱れた。
「一斉に広まれば、情報源を特定しにくいですから。わかっていて帰省させたあちらの筆頭侍女の英断か、思惑があるのか……」
ナタリー。
「謹慎処分が早く解けるように、協力要請の可能性もあるのかぁ」
「そうですね。そちらの可能性の方が……」
ケビンもほっこりし過ぎてぼけているみたい。
この冬、母上と弟は孤児院へ慰問に出かけている。俺は行かない。冷たい訳じゃないよ。役割分担として決まっているのだ。
通常は王妃と王女の役割になるけれど、王女がいない場合は第一王子以外の王子に役割が振られる決まり。第一王子は忙しいからという配慮。
基本は内政部門が主導して、孤児院が滞りなく運営できるようにされている。国がお金を出しているんですよってアピールをする為の慰問。
正直、本当にただ行くだけらしい。行った先で感謝されて帰って来る仕事。王族のイメージ向上にはいいらしいが、そういうのに興味はない。
俺は冬になる前に、オルグチーズの売り上げから出た利益の一部を北部の代表者に寄付した。オルグ卿にシース卿にマイヤー卿。
あの三人は北部全体を考えているから、いい感じにしてくれると思ってそうした。
早く渡しておかないと、冬に必要な物が用意できないしね。感謝状と何を買うのに使ったかのリストが既に届いている。律儀。
「ある意味平和……」
アンナの様子を見に行ったり、町にお忍びで出掛けて商店の売れ行きを見守ってみたり。
リーリアから勉強を教わったり、読んでみたかった国の蔵書を読んだりもした。初めてほっこり城で過ごした気がする。
冬にはこれといった公務が無いのも良かった。
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