第89話 同級生との会話が楽しい

 五人と一緒に過ごすことが増え、毎日がますます楽しい。最近はシェリーの恋話で盛り上がっている。お相手は元婚約者の弟。

 今まで周囲にこんな感じで盛り上がれる年代がいなかったので、ウキウキしてしまう。


 冬休みに弟が辺境伯領に滞在している間に仲良くなり、今も頻繁にご両親含め弟がシェリーを訪ねて学園に来ている。

 そこに一応親戚としてゴードンが立ち会っているらしい。


 それでシェリーが秘密にしたくても、ゴードンがべらべら喋ってしまうのだ。ゴードンにデリカシーが無いのだが、楽しいので止めない。

 シェリーは彼を意識してしまい、女性らしくもじもじしているらしい。青春だよねぇ。


「もう、やめてったら! 彼は騎士を目指しているのよ!」

 ちょっと本気でキレるシェリー。どうした、どうした。心配そうにフィリアナが見ている。


「えっ、でも兄が除籍されたし、弟が跡継ぎになるんじゃないの?」

 皆の疑問を聞いてくれたカール。


「保留中なの。彼の才能と希望を考えれば、養子を入れてでも騎士になった方がいいと思う」


 なるほど? 確実に人となりは気に入っているけれど、気に入っているからこそ、シェリーは彼の今までの努力と夢を応援したい訳ね。


「その彼はどの騎士を目指しているの?」


「……この間聞いたら、民の身近にいる地方騎士っていいよねって言ってた」

 なるほど。彼の方も脈ありかな。


 騎士は自分の夢でもあったし、シェリーも気にしているし、アレの弟だったりで気にすべきことが多過ぎるのだろう。

 一歩通行の思いだったら迷惑だろうしとかで、シェリーの反応を確かめているっぽい。


「脈ありっぽい」


「おっ、どういうことだ、おっとり殿下!」

 ノリノリなカール。


「誰がおっとりか! いやね、騎士の中でも地方騎士は各領地に配属されるし、勤務地の希望も考慮される。当主が地方騎士と兼任っていうのに前例はないかもしれないけれど、シェリーさんが支えてくれるなら、やってやれないことはないかなって」


「どういうことだ!?」

 ゴードンが勢いよく聞いてきた。


 デリカシーには欠けるが、応援しているのだろう。でも、これ以上何を説明しろと?


「お互いに気持ちを確認して、話し合うことをお勧めします」


「それが出来たら苦労しない!」


 容赦なくシェリーに肩を叩かれた。最早殴打に近い勢いとパワー。一瞬熊さんたちが反応した。

 密かにシェリーってめっちゃ強いのでは? と思う今日この頃。


「あ、そうだ。最近、モモーナさんが商人の息子を切りにかかっているみたい」

 シェリーに話題を変えられてしまった。残念。


「切ってどうするのかな?」


 新しく探そうにも、評判が悪すぎて次は難しいと思う。愛人候補止まりじゃないかな。


「やっぱり相手は貴族が良かったんじゃないの」

 カール。


「でも、婚約者持ちにいっても愛人になるだけだったと思うけれど」

 エヴァン。


「気付いていなかったんじゃないか?」

 ゴードン。


「それはないと思うなー。そういうの、将来に関わるから皆シビアだよ?」

 フィリアナ。


「そうだよ。この人! っていうのがない限り、在学中は跡継ぎ狙いで、他はお互いに就職先が決まってからっていうのが令嬢の常識だよ」

 シェリー。


 いつでもどこでも女性は現実的ですね。そういうシェリーが何も決まっていない弟が好きっていうのがまた……。


 スイーツを食べ終えた女性陣は、女子寮へ戻っていった。楽しいけれど、最初に申告した所要時間を超えて男子寮にはいられない。


「殿下、そろそろフィリアナ様といい感じ?」

 すっごいにやにやしているが、侍女や熊さんには聞こえないように小声で話すカール。


 ぽぽぽっと顔に熱が集まるのがわかる。確実に顔が赤くなっていると思う。こういう時に色白って損な気がします。


「いい感じも何も、何もないです」

 同じく小声で返す。


「殿下見ているとわかりやすいよ。フィリアナ様ばかりみてるよね」

 小声でエヴァン。


「そうだったの、殿下!?」

 ゴードンだけが大声で、マイペース。


「だって、私、王子だし、フィリアナさんは跡継ぎだし……」


 明るくて前向きで優しくて、面白くて気が利いて、そりゃあフィリアナをいいなって思わないはずがない。

 だけれど、物事はそんなに単純ではない。フィリアナは伯爵領の跡継ぎとして頑張っている。


 単純に婿入り先はどこーとか言っていた時は良かったけれど、実際に目の前に現れたら色々と考えてしまう。

 俺が王太子から逃げきってからでなければ、フィリアナには迷惑な話。それなのに気持ちを伝えるだなんて、とてもではないけれど出来ない。


「ケビン様に相談してみなよ。フィリアナ様も脈ありだと思う。殿下の問題は、自分が跡継ぎから逃げられるかどうかってことでしょ」

 エヴァン。


「そうなんだけど、そうなんですけどね……。って、フィリアナさんが脈ありに見えるの!?」


「うわっ……。どう見てもそうだろ」

 呆れた顔のカール。


 もしかして、そんなにわかりやすく好いてくれている感じ? 嬉しいんですけど……。


「カールとエヴァンの勘違いってことはない?」


「うわっ、自己評価低すぎて辛いわ」

 カール。


「今までの女性遍歴が切なすぎるからね」

 酷い、エヴァン!!


 こそこそ話してこの日は解散になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る