第82話 伯爵令嬢フィリアナ 2/2
もやもやしている時に、辺境伯家令嬢のシェリー様から声をかけられた。
話をしたいがここでは詳しくは話せないと言うので、何だろうと思いつつも指定された日時と場所に従った。
そこにはモモーナさんに侍っている令息の婚約者が集結していた。
そこにまさかのライハルト殿下が来たので驚いた。確かにこれは廊下で話せる様な話にはならないだろう。
ライハルト殿下は事実を私たちに教えてくれた。クラウス様はただの側近候補であって、側近ではなかった。
側近候補の保留という状態はよくわからなかったが、クラウス様が側近候補を辞退していないのはわかった。
ライハルト殿下は、彼らの婚約者に対する酷い扱いに心を痛めてくれていた。
ライハルト殿下は私たちのまとまりもなくやや感情的な話でさえ、時間をかけて丁寧に聞いてくれた。
シェリー様の婚約には国の思惑が絡んでいるし、私やもう一人の子は相手が格上。苦い思いを抱えていた私たちにとっては、殿下の立場は心強い。
あまりに優しく同じ目線で話を聞いてくれるので、全員が饒舌になり過ぎてしまった。
ライハルト殿下が公務の為に城へ戻る時間になってしまったが、後日もう一度時間を設けると約束してくれた。
次回までに家の意向と、それに関わらず私たち自身がどうしたいのかを考えておいて欲しいと言われた。
ライハルト殿下があまりにも聞き上手で、話過ぎた私たちは肝を冷やしたのだが、何のお咎めも無かった。
それがきっかけで、同じ境遇にある者同士で仲良くなった。特に辺境伯家令嬢のシェリーとは気が合った。
私は直ぐに両親へ連絡を取り、家の意向も私の意思も婚約破棄一択だということを確認した。
その後、ケビン様から私たちが取るべき行動を教えられた。
お互いに励まし合いながら我慢を続けた結果、誰もが婚約破棄を申し入れたくなるような書類をライハルト殿下が用意してくれた。
しかも、時間がかかってしまった事を謝罪までしてくれ、王家御用達の弁護士まで用意してくれるという。
集まった時に度々ケビン様に頼っていて頼りない感じもするが、こういう人が国王になったらいいなと思った。
未だに私たちの顔と名前が一致していないのには薄っすら気が付いていたが、そういう所は周囲がフォローすればいい。
そのフォローが出来るケビン様たちと一緒であれば、とても素晴らしい国王になるように思えた。
間もなく冬休みに入ろうと言う時、私を心配して早めに王都へ来ていた両親に色々と良い報告が出来た。
両親は予めライハルト殿下へのお礼の品を用意してくれていたので、渡そうと探していたら中庭でケビン様との会話を聞いてしまった。
「婚約者が決まらない……」
何とも言えない情けない顔のライハルト殿下が、ちょっと可愛い。
婚約者候補として打診されている令嬢たちが、自分が選ばれない様に必死に逃げていると聞いた事がある。
「人の世話に時間をかけている場合では無かったですね」
ちょっとケビン様が辛辣過ぎない? 私たちはそのお陰で助かったのに。
「いやいや、あれは必要な事だったよ。あんな当主も嫌だし、あんな婿も誰が欲しがる?」
その通りです、ライハルト殿下!
「無能な輩を排除出来たのは良かったかもしれませんね。ライハルト殿下のより良い治世が近付きましたね?」
それには私も賛同致します、ケビン様!
「あーまじで国王とか嫌。誰か俺を婿に迎え入れて欲しい……」
ギョッとした。周囲が相応しくないと勝手に言ってはいたが、本人からそんな雰囲気は感じた事が無かった。
「今の発言は、取り敢えず聞かなかったことにしますね」
私もここで長々と盗み聞きをしている場合では無かった!
「穏便に誰かに譲れないかなぁ……。弟とか、弟とかどう? 周囲も本人もその気みたいだし」
「……」
「ケビン、無表情で黙るの止めて!? それ、凄く怖いから!」
私の頭がおかしいとか思わないで欲しい。その時のライハルト殿下の情けない顔に胸を撃ち抜かれた。
私たちの前では頼りなさそうに感じることはあっても、ちゃんと尊敬すべき王族として振舞っていた。
それが、何、あの可愛いさ! 信頼している人だけに見せる、素の殿下が可愛過ぎる。
母性本能をくすぐられるってこういう事を言うの? 私にもああいう姿を見せて欲しいと思ってしまった。婿入り希望? 大歓迎です!!
その為には信頼されなければ話にならない。まずは私の場合、婚約破棄の成立からだし!
名前も覚えてもらわないと。挨拶の度に名前を名乗ろうか。シェリーにも協力を頼もうかな。きっと協力してくれるはず。
そもそも本人が望んでいなくても王太子になる可能性はあるし、ダメで元々、当たって砕けろ! 砕けてから今後の事を考えればいいか。
「お話し中失礼します、ライハルト殿下、ケビン様。オルグレン伯爵家のフィリアナです。お邪魔して申し訳ございません」
私はその時全く気が付いていなかったが、ライハルト殿下の護衛たちは私の盗み聞きにバッチリ気が付いていた。
ケビン様も当然気が付いていて、私がどの様な反応をするか試されていたと後で知った。
ライハルト殿下に令嬢の友人が欲しかったが、それに私が相応しいかの確認だったらしい。
それから、私から婿を探している令嬢に繋がればという思惑だった。お礼の品を渡した後に、リーリアさんに呼び止められて思惑を聞いた。
「あの! それに私が立候補してもいいですか!?」
「えっ」
急な立候補にリーリアさんを驚かせてしまったけれど、胸を撃ち抜かれてしまったのだから仕方ないよね?
お父様とお母様にも言っておかなくちゃ。説得くらい幾らでもするわ!
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