後日談と裏話

第100話 裏話 モモーナ 1/2

 私には前世の記憶があった。


 そして、前世でやり込んでいた乙女ゲームの一つに転生していた。折角前世の記憶があるのにがっかりするくらいに、つまらないゲームだった。

 攻略対象は王子のライハルトと騎士団長の甥っ子、内政部門長の甥っ子、侯爵家次男、商会の息子。


 騎士団長の甥っ子は騎士になりたい気持ちと王子の側近という立場に悩む、真面目な努力家で年下。

 側近を辞退して夢を叶えつつも、近衛騎士としてライハルトを支える道を示すと攻略出来る。


 ただここで生きてきた私は、近衛騎士より側近の方が結婚相手として良いと知っている。

 近衛騎士は王家の護衛に徹する仕事。リスクがある分給料は高いらしいが、体が資本だから引退が早い。


 勤続年数により引退後に年金の支給があるが、贅沢は出来ない額しか支給されないと聞く。

 折角王侯貴族がいる世界に転生したのに、贅沢が出来ないなんて嫌。


 内政部門長の甥っ子は、自分より優秀な婚約者に悩んでいる劣等感の塊。

 褒めて励ませばいいだけだけれど、大したことのない男を褒めまくって励ますなんて嫌。面倒。


 侯爵家の次男は家族と考え方が合わず離れたいが、ライハルトの側近に選ばれた為にそれが出来ない。

 家族と距離を置きたいなら城勤めも駄目だし、だったら将来何になるんだと思う。庶民しかない。


 ヒロインもそれをわかっていたのか、側近として力を示して親を越えればいいと応援する。

 ゲーム中は気にしていなかったが、折角侯爵家に産まれたのに距離を置くなんてありえない。


 騎士団長の甥っ子は性格も良いし夢を追っている分だけましだけれど、現実だと思うと正直みーんな面倒臭い。

 ヒロインに出会わなくても、アドバイスをしてくれる友達さえいないのって思う。


 だけどライハルトだけは違う。


 他の人と違って婚約者がいるので難易度は高かったが、婚約者はライハルトにこれっぽっちも興味がない。

 ただ王妃になる為に、義務で婚約者をしているだけ。それなのにヒロインを虐めるクズ女だった。


 ライハルトとヒロインのハッピーエンドなら、婚約破棄されていた。愛もないのに縛ろうとした罰だよね。

 しかもバッドエンドでライハルトがそのままカリーナと結婚した場合、兄と弟どちらの子かわからない子を産むドロドロ展開だった。


 婚約者とは義務だけの関係で、その癖ヒロインの邪魔をして、なのに弟と浮気までするなんてクズ過ぎる。

 勉強は嫌いだけれど、義務だけで虐めも浮気もする王妃より私の方がよっぽどマシだと思う。


 このゲームが一番つまらなかったところは、ヒロインは男爵令嬢なのにライハルト以外を攻略すると平民になること。

 マジで謎ゲーム。玉の輿に乗るから面白いんじゃない。女の子の夢と希望が詰まっていないと評価されていた。


 狙うのはもちろんライハルト。裕福な生活の方がいいに決まっている。

 いざっていう時のキープは側近になる侯爵家の次男かな。商会の息子は甘えた年下キャラなので論外。


 そう思って学園の入学式に早速ライハルトとのイベントを起こそうとスチルの場所に待機していた。

 なのにライハルトはいつまで待っても来ず、既に入学式の会場に入った後だった。何で? 早くない?


 おかしいと思って情報を集めると、カリーナは病気療養でライハルトの婚約者を辞退していた。

 学園にも入学しておらず、シナリオが大幅に狂っている。カリーナも私と同じ転生者の可能性が高い。


 でも、フリーであれば更に簡単にライハルトを落とせると思った。ガンガン出会いを演出しようと突っ込んでみたが、近衛に邪魔をされる。

 仕方が無いので側近経由で近付こうと側近とのイベントを起こしたが、何故かライハルトには近付けない。


 いらないのに芋づる式で商会の息子ともイベントが起きた。それなのに、ライハルトとは遠いまま。

 婚約者がいない影響なのか、周囲から令息を侍らせることに注意はされても嫌がらせもなかった。


 気が付けば、周囲にはライハルトに近寄るためにイベントをこなした攻略対象たちだけ。これはないわ。

 側近と言うわりに彼らはライハルトと話もしないし、そもそも全く近付かない。側近ってこんなんでいいの?


 なんか思っていたのと大分違う。ゲームでもこんなに疎遠だった? いや、そんなことはなかった。いつも皆で行動していた。

 付きまとってくる攻略対象者をまいてライハルトを改めて観察すると、見た目イマイチな令息たちといつも一緒にいた。


 カリーナがシナリオを改変した影響で側近そのものが変わっている可能性に気が付いて、かなり焦った。

 直接彼らに側近かと聞いたら、側近じゃないと言われた。しかも彼らはうちよりも貧乏な貴族だった。


 貧乏に用はないし冷たくされたので、気の弱そうな令嬢を捕まえて話を聞いた。

 私と一緒にいる令息たちは候補で、たまに見かける大人の男の人が側近だと知った。爽やかなイケメンと言えばそうだけれど、年が違い過ぎる。


 二人いるが、二人ともゲームには出て来ない。狙うなら侯爵家のロイドだけれど、カリーナの兄ってどうなの。

 しかも攻略対象者にはゲームにはいなかった婚約者がいることを知った。


 これ、所謂悪役令嬢はいないけれど、誰かに陥れられてヒロインが断罪されるパターンじゃない?

 絶対に誰かが何処かでシナリオを弄っている。転生者はカリーナや私だけではないかもしれない。


 しかもよくよく話を聞いていれば、攻略対象もおかしかった。騎士団長の甥っ子は弟の方だったはずなのに、兄だった。

 興味がなくて名前を聞き流していたが、何で兄。弟はまだ入学していなかった。おかし過ぎない?


 しかもゲームにいなかった伯爵家の跡継ぎが、攻略対象に勝手に混ざって来る。性格が悪くて最悪なんだけど。

 これはもうゲームのシナリオは完全に崩壊していると考えた方がいい。だったら別の、もっと優良な令息を捕まえた方が良さそう。


 裕福な生活が出来るなら、別に王子じゃなくてもいいし。伯爵家の跡継ぎくらいでも充分。今世も可愛いし、私が本気を出せば確実にいける。

 なのに攻略対象とさり気なく距離を取り、徐々に離れていこうとしているのにひたすら追いかけて来る。ヒロインの魅力が有効過ぎる。


 しつこくされて鬱陶しいし雲行きが怪しいと思っていたら、彼らは皆婚約を破棄されて退学してしまった。

 ウザ絡みしてきた伯爵令息も、王子を怒らせて学園から消えていた。まずい。確実に誰かによってヒロインのバッドエンドに向かわされている。


 城に呼び出されて事情聴取を受けたけれど、それは上手に切り抜けられたと思う。

 いち早く気が付いて、距離を取り始めていたのが良かった。私が逃げようとしていたという証言もあったし。


 残ったのは商会の息子だけ。彼の性格は好きじゃないし、働かなくて済む貴族夫人になりたいからかなり邪魔。

 彼は特に何もしなくても、勝手にヒロインに攻略されるチュートリアルキャラと呼ばれていた。


 そのまま彼とくっつけばいいが、そうでない場合はヒロインの気を引こうと商会の商品をどんどん貢いでくる。

 他の攻略対象と結ばれるにあたり、二人の絆を深める為の解決すべきエピソードでしかない。


 多分もう商会の商品に手をだしていると思う。この段階まで来て彼を選ぶと、バッドエンドしかない。

 だから急いで切らなきゃいけない。ゲームでも何度もやった方法で彼を切る。やり方は簡単。彼が私に貢いでいると親に報告してあげるのだ。


 ゲームでは攻略対象の誰かと一緒にその方法に辿り着くのだが、今は一人だしさくっとやろう。

 シナリオ通り親が慌てて彼を隣国に修行に出した。これで私はフリー。ライハルトは一応狙い続けるとして、やっぱり無難な令息にもいっとくか。


 最初は伯爵令息、次に子爵令息、男爵令息にまで声をかけてみたが、愛人ならと言われるばっかり。

 さすがに目立ち過ぎたかもしれない。これからどうしよう……。

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