第五章 王太子からの脱出

第87話 学園生活も楽しい

 全員無事に婚約破棄も成立したし、俺はのんびり学生生活を満喫中。婚約者もいないし、本当はのんびりしている余裕はないけれどね!


 モモーナは今も在学中。慰謝料の発生とかの問題はあるので、事情聴取みたいなものは行われた。

 男性陣への気を持たせる様な言動は沢山確認されたが、直接的に何かをした証拠は無かった。


 モモーナは彼らと一緒にいた貴族向け商会の後継ぎ息子が本命で、その為にも格上の貴族の不興を買うような言動は出来なかったと弁明した。

 デートの誘いも嫌だったけれど、断れなかったと泣いたそう。貢いで貰っていたことなど、鋭い質問もされたが見事に躱しきったそうな。


 密かに見学していたアンナの師匠が、証明は出来ないけれどあれは絶対に嘘だと断言していた。根拠は女の勘らしい。

 妙に納得出来てしまった俺。今は大人しくしているが、要注意人物として監視対象になっている。


 俺の周囲にも少しだけ変化があった。無事に婚約破棄を出来た二人が、毎日俺に挨拶をしてくれるようになった! 辺境伯家令嬢と、フィリアナ!


「挨拶くらいでにやにやしないでよ」

 辛辣エヴァン。


「だってだって、婚約者候補のリストに載っていた令嬢でさえ、無言の礼だけだったんだよ?」


「だとしても、にやにやし過ぎ」

 カールは冷たい表情に磨きがかかっている気がする。


 フィリアナとは保養地で過ごすうち、かなり仲良くなれた自信がある。

 だけれど、学園に戻ったらお礼は終了とばかりに距離が離れるかと思っていたが、それもなかった。

 学園でも時々雑談もするようになり、今はお互いに婚約者もいないので、特別室でゴードンたちと一緒に食事をするまで仲良くなった。


「シャリー? さん?」


「私の名前はシェリーです! シャリーって誰ですか! 近くて遠いわ!」


 辺境伯家令嬢は北部っぽいストレート派で非常に話しやすい。思い切って名前を呼んでみたら間違えた。俺にはまだ早かった。 


「ごめんなさい」


「好みど真ん中だからって、そんなに殿下に噛みつくなよ。王子だぞ」

 ゴードン。


「ちょ、ば! 何言ってんのよ!」

 鈍い音が響く。辺境伯家令嬢は手首がお強い。


「ち、違うんです、殿下! 確かに周囲がむっさいごっつい男ばかりで、シュッとしたキラキラ爽やか系に憧れていたのは事実ですが、殿下やロイド様を見て理想と現実の違いって言うか!」


 焦っている様子だけれど、言いたい事は分かるけれど、直接言うなんて酷くないですか。

 ストレート派で話しやすいって思っているけれど、加減はして欲しい。


「シェリー様、それくらいにしてやれ。真っ向から否定された殿下が傷付いているぞ」

 カール。ええ、ええ、傷付いています。女性から見た俺はそんなに魅力がないでしょうか。


「大丈夫です、殿下は充分に魅力的ですよー」

 エヴァンからの心がこもらない慰めが虚しいです。


「私は殿下はとても魅力的だと思います!」

 フィリアナからも慰め。フォローに必死過ぎてか、顔を真っ赤にしていて可愛いです。


 と言う訳で、俺の周囲は三人だけだったのが、そこに辺境伯家令嬢とフィリアナが加わって華やかになった。

 物語ならここで中央貴族の令嬢が介入してきそうな感じだが、俺の人気が無さ過ぎてそんな問題も起きない。マジで人気ないな、俺。


 数日後、男だけでまったりデーでカールが不思議な話を教えてくれた。


「殿下の婚約者候補だった人たち、殿下にお茶に呼ばれなくなって内心穏やかじゃないらしいぞ」


「……何で?」


「またでたよ、このおっとり王子がっ」

 エヴァンが辛辣。最近口調も荒くない?


「誰が殿下の心を射止めたのか、水面下で探り合っているらしい」

 カールがニヤニヤ言う。


「ちゃんと相手も何も言われないように、一年がかりでフェードアウトしたのに何の問題が?」


「はぁ!? 意味わかんね!」

 ゴードンはなかーま。


「自分から切るのはいいけれど、切られるのはプライドが許さないってやつ」

 カール。


「えっ、あんなに嫌がっていたのに?」


「あんなに嫌がっていてもだ」

 カール。


「殿下の噂が酷いから、自分からは絶対にいけないでしょ。いったら趣味が悪いと思われちゃうから、プライドが許さないんだよ。殿下がお金持ちだと知らなければ、将来の不安もあるだろうしね」

 エヴァンからの補足。


「えー俺を選ぶと趣味が悪いって思われるの? 凄いショック」


「まぁまぁ、最後まで聞いて。実際に会ってみたら実害は一切ないし、見た目も良い。口ではあれこれ言ってはいるが、意外と今の立場も悪くないくらいには思っていたはずだ。王子の婚約者候補は、普通はそういう扱いだろ」

 カール。


「プライドとかが色々邪魔をして、お互いに無駄に牽制し合っている間に殿下にフェードアウトされたんだよ」

 エヴァン。


「……辺境伯家令嬢やフィリアナさんと食事しているのを知られたら、まずいかな……?」

 カールとエヴァンに凄いため息を頂いてしまった。なんでー!


「シェリー様は王家の次に身分が高い家柄で、フィリアナ様は伯爵家の跡継ぎだ。仮にも婚約者候補に選ばれる令嬢に、そこまでのアホはそうそういないだろ。それに自分たちの誰かが抜け駆けしたと思い込んでいるみたいだぞ」

 カール。令嬢たちの自信が凄い。


「なら、良かった」

 カールとエヴァンに再度凄いため息を頂いてしまった。なんでー!


「そもそも王子って言えば、学園一の権力者でしょうが!」

 エヴァン。


 そうだけれど。噂のせいでべろんべろんに舐められている気がするのね。

 自分で言って虚しくなるのが分かっているから言わないけれど。

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