第57話 勉強を頑張る

「それで最初の話に戻るぞ。もしライハルト様に子どもが出来ても城に残っている場合、子どもはどうなる?」


「えーっと、王家の血筋だけれど、籍は王族にないのか」


「そういうこと。微妙だろ?」


 過去に城に残って、無計画に子沢山な王子がいたそう。裕福な家の婿も嫁も人気だし、そこからこぼれると生活水準が違い過ぎて敬遠される。

 特に婿入りが辛い。この国では爵位は女性でも継げるけれど、跡継ぎは圧倒的に男が多い。

 男社会で娘に苦労させることに繋がるので、男が産まれるまで頑張る中央貴族は多いのだ。


 結果、王子の子どもであるのに行き先の決まらない息子が大量に、娘も数人出て、彼らは苦労したそう。

 成人後に何も決まっていない状態でも、城に居座ることも許されない。唯一許されるのが、結婚が決まっている時。


 その時は王子の私財で家を買って、そこで行き先の決まらない兄弟姉妹で住んだそう。生活費も王子持ち。

 せめて途中で気が付いて、就職先くらい探せよと思った。きっと親子揃って無計画だったのだろう。


「収入のいい直轄領は王族の収入源で無理だが、王子なら当主がいないそこそこの領地を回してもらえる。王家ほど裕福な生活ではないけれど、将来結婚を考えているなら拝領するのが正解だろうな」


「なるほどなー」


 それでも充分だと思った。


 もらった婚約者候補リストの中に、将来細々でもいいって言う人がいたらいいのだけれど、難しそう。中央貴族のご令嬢ばっかりだ。

 ある程度の贅沢は今ある私財から出来るかも知れないけれど、将来収入の当てもなく贅沢をするのは危険。身の丈にあった生活がいいよね。


「どちらにしろ、大人を含めても学園ではライハルト様が頂点だ。跡継ぎがいても侯爵家じゃ王家の跡継ぎには太刀打ち出来ないからな」


「うん。大人しくしているよ」


「そうじゃない、なめられないようにしろよ」

 どこのヤンキー学校だ。


 このままでいくと、俺が王位継承権から早い段階で外れるのもかなり難しいらしい。まず弟は、謹慎処分中で今は公務にも出席していない。

 長くても弟が学園に入学する前には解けると思うけれど、謹慎処分をくらった王子っていうのが問題らしい。ケビンにも聞いてみた。


「外部には漏れていないんだから、良くない?」


「内部に知られているのが問題です。各部門長や副長などは、公務や予算を調整する関係で知っていますからね」


「そこを何とか……」


「なりませんよ。そもそも外部にも漏れているはずです。十歳を過ぎた王子が公務に参加しないのは不自然ですから、情報を集めているでしょう」


 ケビンが厳しい。更にルヒトじいまで参戦して来た。


「人の婚約者や奥さんに懸想するのが問題視されるんだ。夜会で見初めたとか普通に国内でも揉めるが、外国でやられたら厄介だろう」


「さすがに誰彼構わずとは思わないけれど」

 カリーナだからだったと思います。一目惚れですよ。


「兄の婚約者に我慢が効かなかった時点で、大概の相手に我慢が効かないと思われるのはしゃーないだろ。組み合わせが下衆いからな」


「下品ですよ、ルヒト様」


 相変わらずお口が悪すぎて、リーリアに注意されている。


「叔父さんが継承権第三位でしょ、頑張ってくれないかな」


「あれはなぁ……」

 ルヒトじいとケビンが揃って不満そうだ。なんなのよ。


「そんなことより、学園で恥をかかんように勉強するぞ」


 俺にとっては重要議題なのだけれど、ルヒトじいが言うように、王子が学園で授業に付いていけないのも大問題。勉強を頑張ります。


 ロイドが仮でも側近に加わった事もあり、投資とかから一旦離れて猛勉強。

 ルヒトじいの計画では、学園に行く前に学園で習う事を事前に勉強しておいて、学園の授業を復習にしたいらしい。


「三年分先取りとか、俺の頭でそんなの無理じゃない? 期待し過ぎだよ、ルヒトじい」


「いや、いける。今は三年の後半で習う範囲をやっているからな」


「やってても、全部を覚えられている訳じゃないから無理ー!」


「だから復習って言ってるんだよ!」


 ルヒトじいが厳しい。在学中の勉強のフォローは、既にケビンとロイド、リーリアに託されていた。

 さすがに学園に教師は連れていけないのよね。ケビンとロイドは通いだけど、リーリアからはみっちりらしい。


 リーリアが真面目に復習を始めるから俺は怖いっす。でもリーリアもルヒトじいたちみたいに教えるのが上手。ケビンは教えるの下手。ロイドは未知数。

 ルヒトじいがリーリアは人に教えるのも上手だとかロイドに言って、けしかけていた。


 ロイドは優秀な侯爵家の長男として周囲から期待されているらしいが、ルヒトじいにはまだまだ操られがち。

 ケビンでも未だにたまに後から気が付いて悔しがっているくらいだから、ルヒトじいに乗せられないようになるのはきっとまだまだずっと先。


 フォード侯爵家にはオルグチーズを定期的に納品出来るようになったし、シース織りも取り敢えず俺のタペストリーを譲っている。

 フォード卿と奥さんのお陰で、フォード侯爵家は万全の体制で情報を集め、噂の面でも俺の事を守ってくれている。

 カリーナとの事は色々あったけれど、却って解消してからの方が関係が密になった。雨降って地固まるってやつ。


 後でフォード卿に教えてもらったのだが、弟がどうなるかわからない状態で、俺にちょっかいを出すのは悪手と周囲に考えられているらしい。

 安心して入学出来ますね! やっぱり情報が外部に漏れてますやん!

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