第56話 身分制度を今更習う
ちなみに俺の婚約者まだ決まっていない。父上からは候補者リストだけをもらっていて、その中からなら誰を選んでもいいと言われている。
相手方にも強制することなく、学園で交流を深めてから考えようと、リストの家にも話を通してあるそう。
カリーナとの一件で、随分と気遣ってくれている気はする。気楽で何より。残念ながら婿入りできる令嬢はリストに無かったけどね!
あれだけ両親揃って弟贔屓なのに、これ以上俺に何を期待しているのか。今さら嫌だよ、俺。父上のさぁ、燃え上がれ的な顔はもう見たくない。
リストには弟が王太子になった場合に備えた、俺の婿入りの可能性が示されていない。なので現状では城に残るかどこかの直轄領をもらうしかない。
城に残る選択肢は元から選ぶ気が欠片も無い。婚約者がいるなら城にただ残るより、拝領した方が良いとも聞いた。
城に残ると子どもの身分が曖昧になるから、将来婿や嫁に行ければいいけれど的な説明。
「どういうこと?」
「ああ、今までは後回しにしていたが、学園では必要になるな。この国の身分制度について教えておこう」
ルヒトじいからのお勉強開始。王子でありながら今更身分制度を習うとか、逆に凄く新鮮です。
この国は当然がっちり身分制度のある国。王家が頂点で侯爵家、伯爵家、子爵家、男爵家の順に身分が高い。辺境伯家は侯爵家と同等扱い。
それ以外、貴族ではない人は領民や庶民と言われるいわゆる一般人扱い。それくらいは流石に知っている。
けれど偉いのは当主であって伴侶や子どもでは無い、という考えが根底にあるそう。普通は伴侶も当主の後押しによって、それなりの権力を持つけれどね。
伴侶は当主と一緒に働くのが当たり前だから、それなりの権力も必要になるからの措置。じゃあ子どもはとなった時、子どもには何ら権力はない。
「民の為に働いてもいないのに、権力だけあるのはおかしいだろう」
「言われてみればそうだけれど、それで上手くいっているの?」
そもそも今まで、俺は結構王子の権力を使って来たと思うのですが。
「良識のある親の子どもには、何の問題も無い」
つまり何かあって親に泣きつく子どもや、しゃしゃり出て来る親がいた時に限り身分が高い家の子どもほど面倒な事になるってことね。
「ナタリーに嫌がらせをしていた伯爵家の令息がいい例だろう。親が自分の権力を使って、好き勝手させていたからこそ出来た嫌がらせだ」
「納得です」
跡継ぎに関しては、尊敬の意味も含めてちょっと身分が高い扱いになるそう。
なので、侯爵家の普通の子どもより、男爵家の跡継ぎの子どもの方が身分は高いと見做される。
「両親のお陰で今まで美味しい思いをしていて、プライドの高いのがいると揉め事になる予感」
「その通り。両親が周囲に敬われているのを、自分も同じだと勘違いする奴がいる。学園にも当然いるだろうな」
貴族では子爵や男爵の子どもで、跡取りで無い子どもたちが底辺扱い。庶民は言わずもがなで住む世界が違う扱い。
国の学園にはお金と身辺調査に問題がなければ誰でも入学できるが、王都の学園がほぼ中央貴族の令息令嬢になるのはそういう背景があるから。
権力を持つ親の子どもがいる学園に、身分の低い貴族や庶民が入学したら、厄介事に巻き込まれる気しかしない。
なので中央と縁を持ちたい地方貴族か、貴族向け商会の跡継ぎが今後の人脈目当てで入学してくる程度になるそう。
他には地方貴族でも、お金にゆとりのある南部からは令嬢がそれなりの人数が王都の学園に入学する。見初められたら勝ちってやつらしい。
「友達が出来る気がしないよ……」
「大丈夫だ。まともに育っている奴もいるし、跡取りではない子どもも多く入学する。私も王都の学園だしな」
跡取りでない子どもは婿入り嫁入り目当ても多いが、やはり王都の学園は全体的に学力のレベルも高くて、良い成績で卒業できれば就職が楽になるそう。
「跡継ぎ以外の子どもは他に就職してもいいが、領地に残って跡継ぎの補佐をする事が多いな。だから貴族の兄弟姉妹は普通は仲が良いのが基本だな」
俺みたいに仲が険悪と言うか、ほぼ関わり合いがない兄弟姉妹は、貴族ではかなり珍しいらしい。
後々の事を考えると兄弟姉妹の仲が険悪だと仕事がもらえないし、領地から離される可能性もある。
そうなると、自力で外の就職先を見付けないと生活できない。誰だって、就職先の候補は多い方がいいもんね。
婿入り嫁入り以外で実家から籍を抜かれることはなく、基本的には親戚として故郷の領地を助ける役割が子どもたちには与えられる。
お墓も貴族の実家で用意してもらえるくらいの関係性。跡継ぎではないからという理由で、除籍される事はない。
ルヒトじいは次男だが、スペアや補佐として領地に留まるよりも自分の希望を優先したタイプ。
お兄さんも好きにしたらーって感じだったらしい。外交部門で活躍してロシーニ侯爵家も外国に強くなったのだから、良い判断だったと思う。
結婚しても婿入り嫁入りでなければ、籍は実家のまま。但し、伴侶や子どもたちは一般的な領民と同じ扱い。これはどの貴族でも一緒。
跡継ぎに不幸があった時に残された妻や子どもの後見人になるのは、籍が残っている人になる。その人にそのまま、養育も任されるのが普通。
義父母による子どもの虐待などは、調査部門が定期的に調査に入るので稀。表向きはっていうのが怖いけれど。
当主が亡くなった時に子どもがいない場合は、家に籍がある人物の中から次の当主が選ばれる。
年齢的な問題で、籍がある人物の子どもから新しい当主を選ぶ場合もある。
「うーん、一応兄弟姉妹での争いが少なくなる制度なのかな?」
「そうだろうな。余所の国では跡継ぎでなければ即庶民と言う所も結構ある。だから結婚に必死だし、兄弟姉妹間での毒殺や暗殺が多いらしいぞ。そういう国では、特に貴族と庶民では旨味が全く違う所が多いな」
そんなちょっと穏やかな国に産まれたはずなのに、ここまで弟と疎遠ってなんなんだろう。
「特権階級の旨味を享受して生まれ育った奴らは、生活水準が無駄に高いことが多くて、環境の変化も激しい。それに耐えられない奴が多いらしい」
それは俺もそうかも。前世が庶民でもこの頭の出来で、普通の会社に就職とかは無理そう。
あれ、でも、もう投資分の利益回収だけで将来生きていけちゃうかも?
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