第58話 学園に入寮

 学校はそれなりに広かった。正門から真っすぐ校舎に向かって伸びる道と庭。しかも正門から校舎までの丁度真ん中辺りには、まさかの彫像付き噴水。

 髪の毛の長い女の人が、肩上に持ち上げた甕から水を注いでいる形。女の人、ちゃんと服は着ているよ。

 噴水を中心に庭全体にいい感じに石畳の道やベンチが配置されているので、生徒の憩いの場になる的な感じだろうか。


 建物はコの字型で、向かって右が手前から男子警備員宿舎、男子寮、男子教職員待機所、二年生校舎。

 向かって左が女子警備宿舎、女子寮、女子教職員待機所、一年生の校舎。正面が三年生用の校舎で、その手前にある建物が食堂。


 右と左で完全に女性と男性が接触しないようにされている。女性の警備員や教職員は女性の警備と授業専門。

 女子寮へ行く時は、最初の左右の別れ道に立っている男性警備員に、誰に会いに行くのか、所要時間はどれくらいであるかを学生証と共に提示。


 所要時間を超えても戻って来ない場合は、女性警備員と共に男性警備員も寮に駆けつけ、捜索が行われる。無駄に厳しいというか。

 どちらの寮も警備員と教職員に挟まれているし、もうここまでするなら、女子校と男子校に分けたらいいと思うのは俺だけでしょうか。


 きちんと育てられているという前提がある貴族の令息令嬢が多く通う学園で、実は全く信用されていない事がわかる。

 女性警備員の仕事は女生徒の見張りだけなので、学園の警備全体はちゃんと戦闘可能な男性警備員に任されているので大丈夫と言われた。


「ねぇ、逆にこんな環境で男子寮に侍女を連れて行って大丈夫なの?」


 逆にここまでされると別の不安も出て来る。そっちの方が心配になって来た。うちの子は良い子ばかりですよ!

 俺はまだ十二歳でもうすぐ十三歳だけれど、三年生は十四歳か十五歳。前世で言う中三。男は性に興味津々で、爆発している頃じゃなかろうか。


「大丈夫ですよ。中央貴族のほとんどが侍女と一緒に入寮するので、それなりの数の侍女が男子寮にいる事になります。学園所属の侍女もいますから」


 ベアードにそう説明されても安心できない。特にリーリアなんて大丈夫なのだろうか。ニコールとナタリーだって、ちっとも安心できないぞ。


「ライハルト様のお部屋は、男子寮の中でも隔離された位置にあります。部屋へ向かう廊下にも見張りを立てますし、ライハルト様の侍女が一人になる事もありません」


「その言い方だと、やっぱり何か危ない事があるんですか!」

 誤魔化されないよ、ベアード! 何年の付き合いだと思っているの!


「……まぁ、ごく稀にアホな令息が権力を振りかざし……などとは聞きますが、寮の中にもかなりの人数の警備員が立っているので、余程の幸運に恵まれなければ難しいかと思います」


 あああ! やっぱり何か嫌! 自分の姉ちゃんがおかずにされるような気分だ!


「説明を続けますよ……」


 学園の建物の反対側も全て庭で、三年生用の校舎の奥は剣術や体術に使うグラウンドがある。

 自分の使用人に頼めば食堂からの持ち出しや食器などの貸し出しも可能なので、外ごはんや外でのお茶も可能。


 敷地内は建物から必ず見える様に設計されている。人通りが少ない場所も当然あるが、警備も含めれば死角が無い感じ。

 屋上にも視力のいい警備が配置されていて、不審人物には指差しで笛が鳴らされるそう。その妨げにならないよう、高さのある木などは植えられていない。


 呼び出して陰湿な虐めも出来ない仕組み。告白で校舎裏への呼び出しエピソードさえ生まれそうにない。真上から見られている可能性あり。


「笛を鳴らすのはそこそこあるそうです。単純に恥ずかしいので、挙動不審な行動とかは控えて下さいね」


「えっ、護衛を連れていても鳴らされるの?」


「護衛が主と結託している可能性を考えて、問答無用で鳴らされますよ」

 非常に恐ろしい。


 素晴らしいっちゃ素晴らしいが、裏を返せば何か咎められるような事をしようとする生徒がそれだけ多いという事。ちょっとげんなり。

 それだけ警備の数が多くても、俺は常に二人は護衛を連れて動く形。特別扱いです。ベアードに侍女の事を絶対に一人にしないでと頼んだ。


「ライハルト様は心配性ですね」

 笑いながら言うナタリー。


「変な虫に追いかけられたのに、暢気な事を言わないで!」

 こっちは言わないけれど、リーリアだって変な暴力男に捕まったじゃないか。


 そして俺に対して妙な働きかけをしようとする人は、もれなく全員が要注意人物として国に報告される。

 将来の不審人物ほいほい役。怪しい動きをする家がわかるきっかけになるという事もあり、これも王族の義務だそう。


 監視や警備が厳重過ぎて普通の学生生活が送れるのか不安でもあるが、俺自体は今までもそれに近い状態。

 なので、常に周囲に人がいる事は然程気にならない。いるのが普通。むしろいないと不安。だから問題なし。


 寮に入り、ベアードに案内された王族専用部屋は、確かに男子寮からも隔離されていた。ベアードたちのチェックなしに俺の部屋に近付く事さえ出来ない。

 寮の出入り口は校門から遠い教職員の待機所近くにあり、まずは常駐の寮監がお出迎え。


 寮監と警備員が常駐していて、寮監がいない時間には警備員の人数を増やすので、無人になる事はない。

 そして王族専用部屋へ行くには、まず寮監の前で王族専用部屋へ通じる扉を通っていかなければならない仕組み。

 確かにこれでは扉の前に立つだけで、誰かに見られる。長い廊下を歩いた先にやっと部屋がある。


 部屋は既に整えられていて、居心地がとても良さそう。入って最初の部屋が応接室で、来客用トイレと他に続く部屋への扉がある。

 その奥に侍女の部屋、熊さんの部屋、俺の寝室に私室、衣裳部屋など。かなり広い。連れて来た侍女がやはり少ないようで部屋が余っている。


「警備上、我々以外が入れるのは応接室まででお願いします。それ以外に関しては、城と同様間取りなども漏らしたりしないで下さい」


「わかったー」

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