第59話 ゴードンと再会
入学式前に入寮を終えるので、入学式の三日前にゴードンと会う約束をした。
事前に聞いていたゴードンの部屋を訪ねる。俺の部屋とゴードンの部屋は、男子寮の端と端だった。
俺の部屋を出て、廊下を延々歩くと男子寮の寮監さんの詰所。そこから先に談話室兼食事が食べられる場所。さらにずんずんどんどん。
何かここまで歩いて来る間、皆が俺を避けていっている気がした。もしかしたらゴードンが三年間唯一の友人になるかもしれない予感。
熊さんが扉をノック。
「開いてるぞー」
最早懐かしく感じるゴードンのよく通る声が聞こえた。せめて鍵は閉めようよ。
安全確認の為に、俺より先に入室するのは熊さん。ゴードンに断りを入れてから部屋の安全確認をする。すぐに戻って来たので俺も入室。
「やっぱ王子はすげぇな」
「ごめんね。何かあるとゴードンにも迷惑がかかるから」
「いいよ、気にすんな!」
「にしても、でっかくなったな、ゴードン」
ちょっと会わない間に、背が滅茶苦茶伸びていた。がたいもよくて、とにかくでっかい。
手紙で知らされていた通り、俺より小柄な令息二人連れで、体格が違い過ぎて彼らがゴードンの子分に見えてしまう。
適切な距離を保っての、立ち上がっての出迎え。ところでゴードンの部屋には何もないのだが。
壁際に机が一つと、部屋のやや扉寄りに椅子が一脚ぽつんとあるだけ。ここ、応接室だよね?
「殿下は……へなちょこ風味のままだな!」
ゴードンが俺をじろじろ見た後の言葉。性格は欠片も変わっていなくて良かった。俺はヒーローの兄の当て馬らしく、シュッとしたイケメンに成長している。
俺のへなちょこ風味は変わらないけれど、鍛錬をちゃんとしているので細マッチョですよ!
「おいゴードン、早く紹介してくれ。話に参加出来ない」
「こいつ、チーズのカール。こっちは染色のエヴァン」
「雑だな、おい!」
カールは突っ込み属性か?
「いいんだよ、殿下は固有名詞を覚えるの苦手なんだから!」
「事実だけれど、大きい声で言ってくれるな」
「悪りぃ!」
「まぁいっか。私はオルグ卿に推薦されて来たカールです」
「推薦……?」
「中央貴族に何を言われても平気そうな、図太いのが三人選ばれたんですよ」
カールが説明してくれたが、いまいち意味がわからない。
「図太い……」
「そうそう。私もマイヤー卿に推薦されました。エヴァンです」
取り敢えず勧められた椅子に座るが、残りの三人はまさかの地べた。何この状況。
「家具は潔く勉強机と椅子だけにした!」
それは潔いのか……? ちょっと居心地が悪いです。護衛を連れているし、プチ謁見状態だ。
「初対面から見下ろすなんて、感じ悪くないですか……?」
「噂通り……」
チーズか染色かどちらかに何か言われた。
「良かったら、私の部屋に移動しないか? ボディチェックはされるが、ここよりは普通だ」
「いいよー!」
気軽に答えすぎるゴードン。ただ、他の二人も不満は無さそう。気を取り直して移動する前に、ゴードンの部屋を見せてもらった。
部屋はここが応接室。奥が寝室で備え付けのベッドがあって安心した。後はトイレ、風呂、クローゼットに簡易キッチンがあるだけ。
護衛の確認が早かった理由に納得。侍女も誰も連れて来ていないそう。必要最低限、自分の事は自分で出来るらしい。
歩きながら気になっていた事を聞くと、北部の貧乏貴族にとって、中央貴族が多く集まるこの学園は相当居心地が悪いものになるらしい。
なのでこいつならば大丈夫と思えるレベルの、図太いのしか王都に来ないそう。
中央貴族との人脈は欲しいが、子どもたちを傷付けたくない。大人たちの苦肉の策らしい。
「今回は殿下がいるし、頑張らなくていい分楽なんだぜ!」
ゴードン。
「いやぁ、中央の人脈として言うなら、私は微妙かな」
控えめに言ったが人脈は全くない。紹介できるのはロイドしかいません。
「王子なのにですか?」
チーズ。
「王子だけど、そのうちわかるよ」
不思議そうな染色。ヤバいもう名前を忘れた。そのまま俺の区画へ到着。入り口に熊さん。わざと扉の内側にいて、外がこっそり見える仕組み。
こっそりのつもりで興味本位で扉を開けたりしたら、熊さんと見つめ合った挙句、不審者リストに仲間入りする。
熊さんによるボディチェックの後、長い廊下を歩いてようやく応接室への扉に到着。
「この時点ですげぇな」
ゴードン。
「王族用に用意されている区画は、全部こんな感じらしいよ」
「へぇ」
「おおー、さすが王子!」
ゴードンが応接室の探検をしようとして、護衛に止められる。
「警備上の理由で、この部屋以外を見せる事は出来ません。入れるのはこの部屋と、あちらの扉先にあるトイレのみとなります」
「おおー、さすが王子!」
ゴードン……。
リーリアがお茶を淹れてくれて、三人とお菓子と共に軽く雑談をして別れた。
残りの二人はゴードンと違って静かそうだけれど、友達候補と思っておこう。名前をもう忘れたけれど。
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