第62話 モモーナ現る

 婚約者候補の人たちと一応交流して人となりを知りたいと思っていたのだが、何か逃げられている気がする。気のせいじゃないよね。


「皆見初められたくなくて、必死っぽいぞ」

 ゴードンが歯に衣着せぬ物言いで教えてくれた。シース卿が嘆くよ。


「そんなに?」


 ちょっとオブラートに包んで欲しかったが、実際王太子になりたい訳でもないし、噂だけを信じて逃げる人たちをどうこうしようとも思わない。

 用意してくれた婚約者候補が無駄になった瞬間だった。これからはのんびり学生生活を楽しみつつ、地方貴族との交流を深めようかな。




 気が付いたら俺の周囲は三人だけ。令嬢から令息に近付くのは、はしたない扱いされる。

 俺がとことん令嬢に嫌われている訳ではないはず。誰かそう言ってくれ。


 俺の評判が悪いせいからか、周囲が地方貴族だけでも中央貴族からの反発もない。ケビンは不満そうだったけれど、平和な学生生活はいいものだ。

 婚約者候補の令嬢たちとは定期的に食事会はしている。親には逆らえないから、皆で足並みを揃えて誤魔化そうとされている感じ。


「なんか、うっかり誰かが選ばれても恨みっこなしとか話しているって」

 ゴードンは変わらずストレート。


「私に選ばれる自信はあるってこと?」


 凄い自信だなと思う。碌に話もしないのに、何処からその自信が湧いてくるのか謎。

 俺、見た目だけなら悪くないよ。一応肩書も。実は私財も凄いですよー。


「いいとこの令嬢ばかりだし、皆それなりに自分の容姿にも自信があるみたいだぞ」

 カール。


「食事会に参加はしつつ、侯爵令息とかにちょっかいを出しているらしいよ」

 エヴァン。俺はキープか!


 令嬢関連こそ皆の情報網が謎だけれど、非常に助かる。こちらも決められた時間だけ無難に過ごせばいいか。


 そんな事はありつつも、和やかに学園生活四か月が終了。もうすぐ年末年始のお休みだけれど、正直このまま城に戻りたくない。

 フラタリア王国は一月と二月に地域によってはかなりの雪が積もる。なので冬は領地で過ごすのが基本。


「そう言えば昨日、モモーナって言う男爵令嬢にしつこく話しかけられた」

 嫌そうな顔のカール。


「そういや、俺も前に」

 ゴードン。


「気を付けろよ。あれは見た目は悪くないが、中身がヤバそうだ」

 カール。


「私にも殿下の側近かって聞いて来たよ。北部の跡継ぎがなる訳ないのに、常識がないよね」

 悪い顔のエヴァン。


 そういやWeb小説のモモーナの事をすっかり忘れていた。俺の今の記憶力で思い出せただけマシか。

 小説で俺と真実の愛(笑)に目覚める相手。小説内では俺の側近も全員引っ掛けていたっけ。


 さりげなく探したが、小説での見た目の詳しい描写も覚えていないし、クラスも違うみたいで見かけなかった。ならいいや。

 同世代の側近候補だった面々とは今は何の関わりもないし、気の多い女性に興味はない。

 こちらに必要以上に近付いて来ない限り、様子を見つつも静観でいいだろう。


 そう思っていたのだが、俺にも何度か向かって来た。誰がモモーナかは認識したが、近衛騎士の鉄壁防御で知らんぷりした。

 カールが言うように、ヤバい雰囲気が凄い滲み出ていた。苦手なタイプ。何か俺にぶつかりたいのか、全速力で走って来る。


「普通に怖い」


「ですね。思わず受け流して地面に叩きつけそうになりました」

 今日は熊さん三号と四号。今のは三号。


「一応令嬢みたいですし、転ばせたらまずい、ですよね?」

 これは四号。


「ううん、どうなんだろう。ベアードに確認してみて。学園には私から確認してみるよ。普通に考えて、王子に突進して来る方がおかしいよね?」


「大分おかしいと思います」

 三号が思わずといった感じ。


「続くようならそのうち投げてしまいそうです。早めに確認しましょう。大きな怪我をしないように気を付けるなら、転がるように投げてしまいそうです。相手はスカート、ですしね」

 四号。確かに女性の制服は、ふんわりスカートのワンピースだ。


「走る体勢のまま転がすと、足が開いているでしょうし……」

 三号。


 パンツが丸見えになるってことね。正しく不安材料を理解しました。

 それで領主経由で文句を言われたり、責任を取って嫁にしろとか言われたら面倒でしかない。


「わかった。早く確認しよう」


 こっくりと頷く熊さんたち。取り敢えずそのまま学園長室に向かい、学園長に確認。集会の場で注意すると言ってくれた。

 ベアードは、相手が悪いからパンツくらいどうでもいい。俺の命の方が大事という返答だった。モモーナが最要注意人物に認定された。


「怖い、モモーナ怖い」

 寮の応接室で三人に報告。


「あっ、殿下もくらったのかー。俺ら貧乏貴族って言ったら来なくなったぞ」

 カール。


「殿下はお金持ちだから無理ですねー」

 エヴァン。他人事だと思って!


「そう言えば、皆は年末年始はどうするの?」

 嫌な話題は変えるに限る。


「父ちゃんが今年最後の王都への搬入の後、荷物の代わりに全員積んで帰ってくれるようにしてくれた」

 ゴードン。


 ちょっと寂しいが、仕方がない。雪が落ち着くまで冬休みなので、三月になるまで会えない。





「中心地まで送ってくれてありがとー。じゃあ、よいお年をー」

 エヴァン。


「お年をー」

 ゴードン。適当過ぎる。


「折れるなよー」

 カールからのさりげない優しさを感じる。

 年末のお別れの挨拶が、前世と同じだとほわっと思い出した。

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