第61話 平和な学園生活
中央貴族との人脈ということで、ロイドが来た時に三人に紹介した。紹介出来るのここだけ。
最初の一か月は心配したケビンが毎日来ていたが、今は数日置きにロイドと交互くらいで来る。
「フォード侯爵家のロイドです」
何故か俺との初対面より緊張する三人。酷くないですか。中央貴族のオーラが半端ないとか言っていた。王子のオーラは……?
学園は週のうち四日が授業で三連休が基本。家庭教師に習っていて当たり前なので緩い。
そんで入寮していても、週末は王都の屋敷に帰る人がほとんど。皆実家が大好きなのね。
俺は週末を四人でのんびり過ごしたいのだが、公務が入ったりでなかなか難しい。それでも既に城より落ち着く場所になった週末の寮。
城に戻る時は、ルヒトじいたちやアンナに会えるから頑張ろうか程度の気持ちです。
教師陣は本来ならお役目終了だけれど、私財で継続雇用をしています!
今は剣術の授業中。
「へなちょこの癖にー!!」
ゴードンが悔しそうに地面でバタバタ。
「砂ぼこりがたつからやめてよ」
冷静に苦言を呈するエヴァン。見た目野獣なゴードンをシュッとした見た目の俺が倒した。
「何でー!」
それでもバタバタするゴードン。
ゴードンは俺の視察の後、辺境伯出身の奥さんに、マナーを叩きなおしてもらえと辺境伯の所に送り出されていた。
マナーじゃなくて、騎士の訓練にはまったゴードン。奥さんの目論見は失敗に終わったが、強くはなったらしい。
「私、王子。近衛騎士からの英才教育を受けています。さっきのゴードンは、足元が隙だらけ」
人に何かを教わることはあっても教えることが無かったので、緊張して話し方が変になってしまった。
剣に気を取られ過ぎなゴードンの足を引っかけて転ばせた。周囲からの王子なのに野蛮だというこそこそはシャットアウト!
王子だからこそ、実践形式じゃないと危ないんですよ! 騎士を目指している令息は、その辺はわかっているようで沈黙。
騎士の入団試験でも当たり前の様にやられるし、出来ないのも論外。これは剣術の範囲内だと認識されている。騎士の一般常識。
「くやしー! もう一回!」
「やだ。次はカールとエヴァンを見る」
二人の戦いはなかなか面白い。力も体力もないからこその、頭を使った戦い方。ニコールの熊さんも面白いと言っていた。
二人はゴードンと対戦すると吹っ飛ばされるので、自然とこの組み合わせになった。
二人は今までの北部が栄養状態が良いとはいえなかった影響で、小柄なのだ。
ゴードンは辺境伯の元で食べまくって巨大化した。二人もこれから改善されると思う。
語学の授業では。
「やっべ、単語テストあるの忘れてた。殿下教えて?」
ゴードンはうっかりさん。でも、頭は良い。ただの筋肉と思いがちだが計算と地理には強い。家の役割をちゃんとわかっている。
ただちょっと、必要以上に勉強するより、遊んでいたかっただけ。今は鍛錬かな。
「あー、私は綴りは怪しいんだよねー。エヴァンの方がいいんじゃない」
エヴァンは語学は得意だけれど理系は弱めで、カールは全般そこそこ。
王都の学園の授業はレベルが高いらしい。それを俺が感じないのは、三爺とリーリアのお陰。
「綴りが怪しくて、外交とか大丈夫なのか」
カール。
「文書のやり取りには外交官が入るし、読むのは大丈夫なんだ」
実は俺、バカじゃないのではと思ったりもするのだが、暗記は相変わらずダメダメ。
語学の授業でエヴァンとちゃんとペラペラ話していても、単語テストとかが微妙だからかバカの噂が絶好調に広がっていく。
「俺らに教えられるレベルでバカ呼ばわりって、俺らがどうしようもないくらいにバカの底辺ってこと?」
ゴードンに頼まれて応接室で勉強を教えていたら、そう言われた。
「違うだろう。俺らにバカって話はない。実際、もっとダメな奴はたくさんいるらしいし、俺らは平均かせいぜいちょっと下くらいだろう」
カール。俺も平均的ってこと?
「注目度もあるだろうけれど、悪意の方が強いんじゃない。殿下は弟とどれだけ不仲なの」
エヴァン。
「あー、不仲と言うか、ほとんど話した事が無いな。トータルでの会話時間は、もう皆との方が長いと思う」
「はぁ!? 兄弟だよな!?」
机から乗り出して言うゴードン。
「兄弟だけれどね。部屋も離れているから。イメージで言うなら校門で出くわさないと出会わない、女子寮と男子寮の感覚くらい離れているよ」
警備の都合上、詳しいことは話せないんだよねぇ。この例えでわかるかな。
「えっ、全然意味わかんない」
素直なゴードン。もっと身近な例えの方がいいかな。
「シースの家とばあちゃん家くらいは離れている感覚?」
「えっ、最早人んち」
「そもそも何処のばあちゃんだ」
突っ込みはやっぱりカール。
「領民のばあちゃんだよ。そう言えば、ばあちゃん中心に謎のばあちゃん同盟を結成していて、殿下がシース領民全員の孫扱いされる日もそう遠くはないぞ」
「えっ、何それ怖い」
謎のばあちゃん同盟って何だ。
「殿下がさ、ばあちゃんたちの手紙に律儀に返事しただろ? 子どもが出稼ぎに行ってて手紙のやり取りもあんま無いから、大喜びだよ」
普通は領民からの感謝の手紙って、渡された領主が確認してこちらへの手紙に書くくらいらしい。
でもシース卿は丸ごと同封してきた。だから普通に返事を書いただけなんだが。
「普通は同じ内容を代筆させて、直筆は署名だけだろ? 父ちゃんが母ちゃんに、忙しい殿下に手間をかけさせるなってめっちゃ怒られてた」
「あー、そうなんだ」
領民から手紙をもらったのは初めてだったし、気にしていなかった。それにばあちゃんたちとはデザインとかの相談で、今も絶賛文通中だ。
「善良な領民のばあちゃんたちを誑し込んで、何をする気ですか」
エヴァン。
「そういや、城のお針子さんたちも誑し込んでるんだよな。熟女好き?」
面白がっているカール。
「お針子さんは若い人が多いから、そんな事を言ったら刺されるぞ」
針とかハサミで。こわっ。ちょっと想像しただけでもこわっ。
「私が刺してもよろしいでしょうか」
リーリアがにっこり笑顔で突然参加。
「リーリア様、おやめください!」
ゴードン。
ゴードンも他の二人も何故かリーリアを様付けする。ロイドは兄さんで基準がよくわからない。ナタリーとハノアはさん付けされている。
リーリアは高貴な感じがすると言っていた。ケビンが父さんっぽいとは思わないんだが。ニコちゃんに関しては、失礼ながらちょっとわかる。
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