第53話 いきなり座礁

 ロイドの初恋は距離感を間違えていきなり座礁中。ケビンと違って細かいことに気付くのもよくなかった。

 リーリアに結婚する気が無いのも大きいし、実家の問題もある。城勤めは身元がしっかりしている必要があるので、連絡は一切取っていなくてもリーリアの籍は実家に残ったまま。


 フォード卿と奥さんはロイドに初恋の話を聞いたらしく、凄く嬉しそうな文面で俺に面会を求めて来た。

 多分普通ならリーリアの話を聞きたかったり、婚約に向けて協力をして欲しかったのだと思う。


 フォード侯爵家は基本的には本人の意思を尊重する派で、キラキラ王子様風で跡継ぎでもあるロイドなのに、まだ婚約者がいなかった。

 ふとカリーナもロイドみたいに両親にさっさと相談すれば良かったのにとは思ったが、言わないでおく。お互いにカリーナの話はしない雰囲気。


 俺の話を聞いている途中から、フォード侯爵夫妻はずっと頭を抱えていた。

 リーリアの詳細は俺に聞けばわかることで、フォード卿も敢えて調べずに俺の所へまず来たのだろう。

 俺の周囲が信頼されています。城勤めになった経緯や男性恐怖症、ロイドのせいで悪化したことも全て話した。


「ロイド……。事前情報はあれ程重要だと何度も教えて来たのに……!」


 別にリーリアを蔑んでいるのではない。女性へのアプローチが下手過ぎる息子にフォード卿は呆れたのだ。

 特に跡継ぎは財産目当てに騙される可能性もあるし、相手の背景を事前に探るのは必須らしい。


「あんな素敵な女性に何かあるはずが無いでしょう!」

 ロイドが憤慨して話に入って来た。


「それ、騙される男の典型例じゃない?」


 俺でもわかるぞ。リーリアはそういうのじゃないけれど、単にロイドの運が良かっただけじゃ。好きになったのがリーリアで良かったね。


「あなたに似たのではなくて……?」


 これは奥さんの言葉。面白そうなので聞いてみたら、フォード卿はもっと押せ押せどんどんだったらしい。今のロイドとそっくり。

 夜会で押せ押せ、家にもどんどん贈り物と共に訪問して来たらしい。奥さんもガンガン来るフォード卿が最初は怖かったそう。


 初めて知りましたな顔のフォード卿。似た者親子ですね……。


「ロイドには、普通の女性の口説き方を指導します。我が息子ながら嘆かわしい。そもそも先に、周囲への配慮を教えなければ」


 奥さんに任せた。っていうか、俺も指導して欲しいかもしれん。今婚約者いないし。

 まぁロイドは煮るなり焼くなりリーリアの好きにしたらいいと思う。俺は全面的にリーリアの味方。


 フォード卿は俺の後ろ盾を宣言したが、カリーナとの婚約は解消したので直接の繋がりがない。

 それを理由にロイドは俺の押し掛け側近みたいになってしまっている。明らかにオルグ関係で訪れる頻度を超えている。


 最初は皆も驚いていたし、扱いに困ってもいた。城勤めには基本的に跡継ぎはいないのだ。

 領地経営もあるし収入もあるのだから、他の人に給料の良い仕事は譲りましょうね的な暗黙の了解。


 全くいない訳ではないが、その場合は王都に領地が近く、領地収入があまり高くないが安定している事が条件。

 安定した収入がないなら自分の領地をまず頑張ろうぜって思われるし、遠かったら当主としてどうなのかと思われる。


 しかも侯爵領は特に二足のわらじで管理出来るような生半可な土地ではない。それでも結局、期間限定の側近風味で居座っている。

 自分の立ち位置が微妙なのは本人もわかっているようで、周囲を積極的に手伝っている。


 押し掛け側近の給料って幾らに設定するのが正解なのかに悩みつつも支払いの準備をしていたら、今度はフォード夫妻が謝罪に来た。


「本当に申し訳ない……。給料はいりません。ロイドの我が儘ですし、社会勉強の為にも好きに使って下さい」


「侯爵領関係のお勉強は大丈夫なの?」


「どうせ今は手に付かないと思いますので……」


 フォード卿が困った顔をしている。既にそっちは手が付かない状態なんですね。キラキラ王子様風なのに、猪突猛進タイプなのね。


 ルヒトじいの評価では、まだまだ未熟な面はあるけれど頼まれた仕事はきちんと出来るし、報告や相談もあるそう。

 俺の投資先が増えたことで皆もわちゃわちゃしていたし、ケビンにしても助かってはいるみたい。

 侯爵になる為の勉強のお陰で、商売に強かったのも良かった。販売関係は結構ロイドにお任せしている。


 これらとは別件で俺たちを憂鬱にさせていた件も、空気を読んだロイドがフォード卿に相談して引き受けてくれた。

 母上から未だにオルグチーズやシース織りが欲しいとかって、普通に内政部門経由で俺に伝言が来るんだよね。


 伝言に使われているケビンの先輩は事情を知っているだけに、いつも居たたまれない顔でルヒトじいに伝えている。

 母上が自分の意志でこれらから手を引いた訳じゃなさそうだし、悪気も全くなさそうで皆がピリッとしていた。


 そんなこんなの何だかんだで、ロイドも欠かせない存在となりつつある。

 リーリアは非常に迷惑そうなので、仮でも側近扱いならとリーリアとのシフトをずらしてみた。


「ライハルト様ぁ、さすがにそれは無いですよぉ」

 ロイドは最近すっかり王子様風味が薄くなってしまっている。


 キラキラが薄まってしまっている。言動の問題かな? それともリーリアに焦がれて? 別にどちらでもいいけれど。

 リーリア優先なので、この件に関してはロイドには冷たいのです。


「奥さんからロイドに周囲への配慮や、距離感を覚えさせたって報告が来たら考えるよ」

「そんなぁ。あれ程素敵な女性を、男どもは放っておかないはずです!」


「大丈夫だよ。リーリアにその気がないから」

「それはそれで、悩ましい……」


 ロイドは置いておいて、現在進行形で俺の資産がガツガツ増えている。

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