第52話 ロイドの暴走

 周囲が春。しかもさぁ、ロイドが今必死にリーリアを口説いている。リーリア会いたさに、やたらに俺への面会依頼を申請してくるのだ。


「美しいリーリアに似合う花を見付けたので、買ってきました」


 今日も今日とて、何処の王子様だよ風に花を渡そうとするロイド。後ずさって俺の後ろに隠れるリーリア。


「はい、ロイドしっかーーく!!」

「何故です、ライハルト様」

 怖いから、必死な顔で見ないで欲しい。


「ロイドはここに仕事で来たんでしょ。だったらうちには女の子は四人いるの。一人にだけ持って来るのは無しだよね」

「そ、そんな……!」


 盲点だったみたいな顔をした上に、床に片膝をついて俯いている。動作一つ一つに何故か華々しい雰囲気があって、マジでどこの王子様だ。


「それに、仕事先に差し入れをするなら普通は全員分が基本だよね。リーリアが気を遣わなきゃいけなくなるだけでしょうが」

「十二歳にダメだしされる成人、情けないわ」

 ナタリーがばっさり。


「女の子……?」

 リーリア。当事者なのに引っ掛かるのはそこなの!? 確かに人妻が二人混ざってはいるが。


「ほれ、来たんなら早く仕事をしろ」

 ルヒトじいは無関心。


 ロイドは勢い余って何故か俺に協力依頼をしてきた。


「お願いしますよぉ、ライハルト様」

 そんなキャラだったっけ、ロイド。


「ライハルト様しか協力してくれる人がいないのです!」


 必死だな、ロイド。リーリアと情報交換で会ううちに、賢さに惚れたらしい。

 自分がカリーナの兄である事から一度は諦めたが、今は以前より関係が良好。ならば押せ押せどんどんと思ってしまったらしい。


「いや、私も協力するとは言ってないよ」

「そう言わず……」


 男性陣はやっと信頼関係を結べたリーリアに、嫌われたくないから非協力的。

 リーリアが乗り気ではないからとアンナは鉄壁の守りを誇るし、ナタリーは仕事関係以外の話はまさかのほぼ無視。一切協力しない姿勢。


「ナタリー、ロイドは侯爵家の長男だよ?」

「知ってますよ。でも、ポッと出の男より、リーリアの方が大切ですから」


 ナタリーに同性の友達も多い理由がちょっと分かった。イケメンにほだされないナタリーが格好良い。


 それでロイドの標的になったのがニコールだった。リーリアが限界になる前に助けるが、ニコールであれば少しはリーリアと話せる。

 ニコールに縋るロイド。そしたらニコールの熊さんが怒った。そりゃそうだよね。新婚さんだもん。で、ロイドは四面楚歌状態になった。


 リーリアはなぁ、難しいんだよなぁ。家族に恵まれなくて、婚約者にも恵まれなかった。

 リーリアは賢かった。そんで家族はそれを分かった上で、家の都合で賢い女が嫌いな男の婚約者にした。


 リーリアの見た目が令息の好みだったんだって。そんで性格は好みじゃないのを知っていて、父親と兄はそれを隠せと厳命した。

 隠せと言われても、何処からが賢い認定なのかは人による。リーリアは男に賢い認定をされて、生意気だとボッコボコに殴られた。


 リーリア曰く、賢い認定の基準が低すぎて、子どもでも無理ってレベルだったらしい。その男は、どんなレベルのアホの子を求めてたんだろ。


 家族に助けを求めても、賢いお前が悪いから耐えろ、家の為に役に立てとそれだけ。殴られ続けて腕を骨折した時、リーリアは逃げた。

 自分の意志を失う前に、逃げてくれて良かったと思う。下手をしたら会えないところだった。


 逃げたリーリアはちゃんと調査部門に駆け込み、実家と婚約者の家には調査部門の調査が入った。

 それで婚約は無事にリーリアへの慰謝料付きで解消。だけれど、家族は表向き以外はリーリアを許さなかった。


 相手の令息と結んだ婚約にはリーリアを差し出す条件として、お金になる事業が絡んでいた。

 それが頓挫したから許せないとかそんな理由。娘が骨折までしているのに最低な家族だと思う。


 そこでリーリアは入院中に調査部門に協力を求め、頭の良さを活かして城勤めになった。

 母親は幼い頃に亡くなっており、家族は父と兄のみ。リーリアは完全に男性恐怖症になっていた。ふとした瞬間にフラッシュバックが起こるみたい。


 それでも俺の侍女になったのは、アンナが俺の侍女になれば、周囲にいる人間が固定されると説得したから。

 大丈夫だと確信出来れば少しはマシになるらしいが、心理的なことなので時間が必要。


 護衛とかごっつくて見た目も熊さんばっかりだし、最初は誤魔化していたみたいだけれど恐怖で震えていた。

 幸い目線が低い子どもの俺は、直ぐにリーリアの震えに気が付いた。


 その後、男でも子どもは平気だとリーリアが気が付いて、慣れるまではいっつも俺が手を繋いでいた。

 特に大きな動きとか物音にリーリアは弱い。ガサツなケビンも当初はかなり皆に注意されていた。


 護衛の熊さんは元々動きが静かだし、気配も消しがち。大きな物音にはリーリアと一緒に反応する側。

 ルヒトじいは侯爵家らしく洗練された優雅な動きだし、リーリアとの距離感をすぐに察したので大きな問題にはならず。


 最初はケビンにびっくびくだったリーリアも、丁度いい荒療治みたいな感じになったのか良い方向に向かっていた。

 ケビンが早い段階でアンナに惚れちゃったのと、ケビンの元婚約者とは正反対とも言える性格が功を奏した。


 ガサツで大雑把だからこそ、細かいことは気にしない。それに直ぐにリーリアの能力の高さを認め同僚として普通に頼った。

 今はいつものメンバーなら、距離はあるけれど大丈夫。さすがに俺も十二歳でリーリアと手を繋ぎっぱなしは難しい。


 少しずつ改善していたところにロイドが猛アタックをして、ちょっとリーリアの状況が後退した。

 慌ててロイドを呼び出してお説教したよね。うちの子に何してくれとるんじゃ、こらぁ! です。

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