第51話 俺の周囲に春

 マクスウェル領の視察後にまたわちゃわちゃしていたら、驚きの報告が。

 ケビンとアンナが結婚するってよ!


「ケビンの事は気が付いていたけれど、アンナが了承するとは思わなかった!」

「どういう意味ですか」


 ケビンが嬉し恥ずかし俺に突っ込んで来た。しかもデレデレしている。

 ケビンがちらちらアンナを気にしていることには気が付いていた。だけれどアンナは超平常運転だった。だから、ケビンの片思いだと思っていたのです。


「あのぅ、ライハルト様、実は私も~」


 ニコールの声に、俺は凄い勢いで首を回したと思う。隣には熊さん(見た目ではなく近衛騎士)が照れっ照れでいる。


「はぁ~!?」

「ちょっと痩せたくらいで言い寄って来る男なんて、止めておけ!」


 ルヒトじいの言葉に激しく同意する。思わず応接室にいる全員で熊さんを睨んでしまった。


 ニコールは半年くらい前に急にダイエット宣言をした。

 王子に何の宣言をしているのかとアンナに呆れられていたが、王子に宣言する事で心を強く持ちたかったとか。


 そのままで充分可愛いのにと思ったが、前世の姉ちゃんが頭の中でダイエットに協力すべし! と言った気がした。

 だから前世の知識をフル活用して、健康的なダイエットを応援した。その結果がこれなの!?


「違います! プロポーズされたから、ダイエットを頑張ったんです!」


 誤解だった。俺らが気が付かなかっただけで、二人は大分前から付き合っていた。綺麗な花嫁になりたいとニコールはダイエットしたのだった。


「会った時から綺麗だよ?」

「やだ、ライハルト様。天然たらし~」

 周囲からの目線が冷たく感じる。熊さんは確実に。嫉妬ですか。


「えー! 事実を言っただけなのに」

 否定はしてみたが、熊さんからの視線はやや鋭いままでした。


 ニコールはそこそこお金のある伯爵家の令嬢で、ウエディングドレスにもお金をかけられる。

 だから、自分の目標の姿に向かって、はりきってダイエットしていたと教えてくれた。


 俺が婚約解消した途端、皆がこの世の春って何なの。ルヒトじいがそっと寄り添ってくれた。

 仲間がルヒトじいって。俺まだ十二歳なのに。


 ルヒトじいは結婚していたが、仕事の時間が不規則過ぎて離婚した。単純に言うと”家族と仕事、どっちが大事なの”をされたのだ。

 言われても仕方がないくらい、当時のルヒトじいは家に帰れていなかった。


 外交部門の時は外交後にまとまった休みが取れていたし、日常的にも休みがあった。でも予算部門に異動になってからは、家に帰れるのが月イチとかそんな状態だったらしい。

 しかも言われた時には既に、奥さんの中で離婚は確定していたっていう。だけれど離婚後も奥さんとの仲は悪くはない。


 奥さん的には妻としての立ち位置に疲れたそうで、ルヒトじいのことは変わらず尊敬しているとか。

 好きとは言ってくれないとルヒトじいは拗ねていたが、まぁ関係性は離婚後の方が良好らしい。


 家族の形は人それぞれ。元奥さんや子どもとは今も普通に会うし、孫もいるしではあるけれど、一応独身。

 離婚の原因になった不規則な就業時間と無限残業に腹を立てたルヒトじいが、予算部門を真っ当な職場に変えたきっかけでもあるそう。


「アンナは仕事は続けるつも「当然ですっ!」り?」

 一応聞いておこうと思ったら、被せ気味に肯定された。


「あっ、うん。無理はしないでね。アンナが淹れる紅茶が大好きだから、大歓迎です」

「私にも聞いて下さいよ! ライハルト様!」

 もうその言い方で分かるけれど、ニコールの希望通りに聞く。


「ニコールは仕事を続けるつもり?」

「もっちろんです!」

 にっこにこで返事をされた。答えがわかっていても嬉しい。


「癒しがいてくれて助かるよ……」

「ちょっと、もっと真剣に仕事の事とかで言って下さいよ!」


「えー? ニコールは存在がいいんだよ、いるだけでもいいっていうか……」

 ニコールの熊さんが激しく同意してくれているが、ニコール本人は不満そう。


「なんかこう、私にも侍女らしい格好良いお言葉を下さいよ!」

「えー格好良いとか、俺には無理ー」

 そもそも紅茶が美味しいって格好良いのか? ぎゃーぎゃー騒いでみたけれど、それはそれで幸せで。


 ケビンとアンナがお金がある訳でもなしこぢんまりした挙式にするので、仕事に支障をきたさない為にも、仕事仲間は式には呼ばないと言って来た。

 だがしかし! ケビンとアンナの挙式にサプライズ参列する計画をベアードと密かに練っている。


 アンナは俺の姉ちゃん枠だし、参列する気しかない。必要最低限の護衛は城に残すが、可能な限りの人数で参列予定。

 二人の言葉にそうはいくかと、皆で盛り上がって計画中です。


 そして挙式の日。


 親族だけのささやかな結婚式に、大所帯でサプライズ参列してみた。アンナもケビンもびっくりしている。

 二人に笑顔で手を振った後、まずはケビンの家族に挨拶。ケビンの家族はただただびっくりしていた。返事が全てあうあうあふあふになっていた。

 ケビンが筆不精過ぎて、俺の側近になった事さえ伝えていなかったことがこの場で判明。そりゃ驚くよね。


 次はアンナの家族。


「血は繋がっていなくとも、アンナの事は本当の姉と思っている。アンナを素敵な人に育ててくれて、感謝する」


 ちゃんと場に合った真面目な感じで気持ちを伝えたら、アンナの両親と姉ちゃんに号泣された。ええーである。アンナも号泣して大変だった。


「わだ、わだじも、ライハルト様の様な主に出会えでじあわぜでずー」

「私たちの結婚式……」


 ボソッと呟いたケビンの声が聞こえて、申し訳ない気持ちになった。だって、こんな反応をされるとは思わなかったんだもん。


「すまん、ケビン。予想外」

「まぁ、諦めます。アンナと出会えたのもライハルト様のお陰ですしね」

 ケビンの心が広くて良かった。


 ニコールと熊さんの結婚式では周囲にも俺たちの参列が予測されていたし、近衛騎士の参列も多かったので普通。

 熊さんの家族は諦めていた息子が嫁をもらえた事に大喜びで、ニコールの家族は奥さんを除いて全員がひたすらにおおらかだった。


 挙式後にニコールの母親に胃薬を差し入れたら、逆に胃を押さえていたとニコールに聞かされた。

 よく効く胃薬は飲みたいが、王子から賜った胃薬など飲めないと、真剣に悩んでいたとか。普通に飲んで欲しい。


 城ではなかなかの扱いを受けているが、外に出たら俺は確実に王族扱いだったと思い知った出来事だった。


 急に学園で友人が出来るか心配になったが、シース卿からゴードンが入学すると知らせが来て安心した。友人確定!

 息子の学園での素行を心配する悲痛な手紙でもあったけれど、好きにお使い下さいって書かれていた。相変わらずの雑な扱いにほっこりする。

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