第48話 ロシーニ侯爵家と食事

 オルグチーズの輸送にはシース卿とサルヴァン卿にも入ってもらい、こちらの目論見通り中央貴族の見栄の張り合いに利用され、売上は順調。

 茶会には砂糖と一緒に、夜会には胡椒がかかったオルグチーズが並んでいることがステイタス。金額重視で変なのとは思うけれど、目論見通り。


 北部はお金を入手でき、フォード侯爵家は名声を手に入れてほくほく。

 

 次はシース織り。こちらは織るのに手間がかかるので、お金になるのはもうちょっと先。こちらこそ希少品として、駆け引きの道具にしやすい。

 シース領周辺は、取り敢えずチーズや染色関係の王都への輸送で稼いでもらっている。


 あまりフォード侯爵家に権力を集中させるのもよろしくないので、シース織りはルヒトじいの実家経由での販売予定。ロシーニ侯爵家ね。

 実家が侯爵家だからと言う理由で、いつも矢面に立ってくれるルヒトじい自身にも命を守ってもらう必要がある。現当主と関係性が良好で良かった。


 今度は事前話し合いの為に、ロシーニ侯爵家当主を招いた。


「シース織りをロシーニ侯爵家の商会で販売して欲しい」

 今日はルヒトじいが任せろって言ったので、お任せする。


「また、大物を言って来たねぇ。どういう事?」


 ルヒトじいが経緯を説明する。何て言うか、家系なのかな。侯爵家当主にあるまじきルヒトじい臭がぷんぷんする。


「うちの家系は皆こんな感じですよ。ルヒトさんのお陰で他国には強いけれど、国内の存在感でいったら、薄いったらないよ」

 どストレートです。俺、この家系の人たち好き。


「だから呼んだんだろう。国内でも存在感を示してくれ」


「まぁ、いいけど。ルヒトさんに死なれたら、息子が悲しむわー。それは避けないとね」


 ルヒトじいにロシーニ卿の息子がかなり懐いているらしい。ちょっとわかる。俺も懐いている。


「まだ先の話にはなるけれど、準備はしておいてくれよ」


「おう。食事が美味しいな」

 ロシーニ卿のルヒトじいへの返事がとっても雑。


 ロシーニ卿が帰った後、ルヒトじいからフォローが入った。


「あんな感じだが、仕事は出来るから心配すんな。交渉と駆け引きは得意だ」


「うん。何かそこはルヒトじいっぽい感じがするから、心配していない」


「私はあんなにガサツではない」

 そうでしょうか。似た者同士感が凄かったよ。


 更に次。染色関係。これはマイヤー卿を中心にお願いしているが、販売元はお針子の劇画タッチお姉さんにお願いすることになった。

 実家が貴族の間でも超有名な商会だった。小物で高級品でも単価は低いので、まぁ大丈夫だろうという判断。

 ある意味身内ばっかりだけれど、まぁいい。元々俺には味方が少ないし、目的は北部を儲けさせることだし。


 最高級品としてのイメージがつけば、後は何とかなる。二番手にも手を出す計画も出て来た。

 何か忙しい! 俺は勉強があるし、子どもなので基本的に参加はしていない。だけどちゃんと、俺の投資だからと意見を聞いてくれる。


 俺の応接室には、ケビンかリーリア、教師三人のうち二人に、内政部門の誰かが常にいる状態。応接室じゃなくて執務室みたい。

 今日も三爺が賑やか。言うてもまだ皆五十代だけどね。お金があれば、余生を楽しむ国です。


「ルヒトぉ、私は語学教師だぞ!」

 イグナート先生。


「知っとるわ」

 ルヒトじい。


「イグナートは元外交文官だろうが! 私なんぞただのマナー教師!」

 ダレルじい。


「引退した元当主なら、何でも出来るだろう!」

 イグナート先生。


「買いかぶり過ぎぃ!」

 ダレルじい。


 賑やかな三爺に混ざって、リーリアも静かに活躍している。


「リーリア、この辺のは字が小さい。老眼にこれはキツイ!」

 ルヒトじい。


「かしこまりました。字を大きくするように言っておきます」

 リーリア。


「ルーペどこぉ?」

 ダレルじい。


「ここだ、ほれ」

 イグナート先生。


 わちゃわちゃしているけれど、皆それなりに楽しそう。戦力外のニコールと、のんびりお茶を飲みながら見学。会話のテンポがいいよねぇ。

 そんで皆仕事はきっちりこなしているし、しかも早い。だからケビンがいつも必死な感じで無口になる。


「おっ、この新作クッキー美味しい」


「こちらのパウンドケーキも美味しいです~」


 ここに時々フォード卿とロイドも参加するのだが、最初はこの状況に物凄く驚かれた。家庭教師が混ざっているし。

 側近がケビン一人しかいないので仕方がない。普通の同世代の側近なら戦力外だし、いるだけ凄いと思う。


 職務外勤務になっている三爺やリーリアには、ちゃんと私財から別途給料を払っている。ケビンや他の側近の給料を参考にして最初に提示した額は、全員に普通に多過ぎると断られた。

 三爺には文句を言いながら出来なくなるし、もう生涯好きに遊んで暮らせるだけの財産があるらしい。あんまり増やすと、遺産相続で揉めるからいらないって言われた。

 リーリアには私の本分は侍女ですからと言われた。皆欲が無さすぎる。


「三爺はともかく、リーリアはもらっておけばいいのに」


「そうだぞ、リーリア。もらっておけ。これくらいの額は、ライハルト様にとって直ぐに微々たる額になる」

 ルヒトじいからの援護射撃。


「女性でこの手の仕事に関われるのは、稀有な経験ですよ」


 確かに内政、外交、予算どの部門にも女性はいなかった。調査とか監査には少しいた。

 理由はルヒトじいが多少改善したものの、体力勝負が過ぎることと、女性を受け入れる体制が整っていないこと。


「うーん、そうは言っても、民間なら当然女性も関わっている訳で」

 将来結婚する気のないリーリアに貯金は重要だと思います。


「そうだぞ」

 ルヒトじいも同意見。

 

 結局リーリアが折れないので、勝手にリーリア貯金を作った。

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