第44話 謹慎中 1/2

 カリーナは処分が決まるまで、自宅謹慎を命じられていた。


 ディーハルトと会っている時に王妃陛下が来て、流されやすい女が王子妃など笑止千万と責められて、びっくりした。

 ディーハルトは庇ってくれたけれど、私は直ぐに家へ戻された。それからずっと部屋から出る事を許されず、侍女のローズにも会えていない。


「何故、婚約破棄となり、謹慎処分となったかわかっているか」


 久し振りに会うお父様は、とても厳しい顔をしていた。とても怒っているのがわかる。怖い。


「黙っていないで、思っている事を話しなさい」

 お父様がいつもと違う。


 いつもなら私が正しい言葉を導き出せるまで辛抱強く待ってくれるし、どう考えたらいいかも教えてくれた。

 いつもと違う雰囲気に、早く話さなければと焦ってしまう。けれどちゃんとした文章が思い浮かばない。


「ディーハルト殿下と、会っていたから、です」

 王妃陛下に言われたことがイマイチ理解できていないので、事実だけを言うことにした。


「それだけか?」

 それ以外に何があるというの。お父様に溜息をつかれて驚く。こんなお父様は初めて見る。


「……ライハルト殿下に、ディーハルト殿下と会っている事を秘密にしていた。それに、自分を好きだと言う相手と会い続けた」


「それは、だって!」


 ディーハルトはライハルト殿下と兄弟仲が良くないと言っていた。ライハルト殿下は、気に入らない相手を徹底的に排除するという。

 二人で会っている事を言ったら、ディーハルトに何が起こるかわからないじゃない。ディーハルトも言わない方がいいだろうって言っていた。


 確かに私もディーハルトに惹かれていたのは認める。けれど私は、ライハルト殿下の妃となり、侯爵家に生まれた責務を果たすと決めていた。

 だから私はディーハルトの思いには応えられないし、実際に応えていない。


 ディーハルトも私のその思いを理解してくれた上で、今後も私の力となる為に会いたいと言ってくれたのだ。

 勉強はライハルト殿下がさぼっているせいでやたらと厳しかったし、私にだって慰めは必要。だから私は悪いことはしていない。


「だって、何だ」


 どうしてそれをお父様はわかってくれないのか。お父様を納得させたいのに、上手く口から言葉が出てこない。

 たどたどしくても、一つずつ説明していくしかないか。お父様ならそれでもきっとわかってくれるはず。


「ライハルト殿下は傲慢です」


「実際に何かされたことはあるのか?」


 確かにお茶会では普通だった。けれどそれは、周囲に見張られていたからで、普段はそんな人じゃない。


「……ライハルト殿下は勉強をサボってばかりで、そのせいで私への教育が厳しくなりました」


 侯爵家の為だと思って、ずっと我慢していた。気が付いて慰めてくれたのは、ローズだけ。


「誰から聞いた」


 それの何が重要なの。


「ディーハルト殿下からです」


「それらは全て嘘だ。城では根も葉もない噂が飛び交っている、気になる事があれば私に確認するように言ったよな?」


 嘘? ディーハルトが私に嘘を付いていたってお父様は言うの?


「ライハルト殿下が勉強をサボっていた事実はない。勉強もカリーナよりずっと先に進んでいる」


「嘘よ!」

 そんなはずはない。


 城での勉強は、家よりずっと厳しかった。ライハルト殿下は勉強が出来ないと色々な人が言っていると聞いた。


「事実だ。何を持って自分が聞いたことの方が事実だと言い切れる」


「だって、ディーハルト殿下が……」


「ディーハルト殿下の話は全て真実なのか? では私が、カリーナに今嘘をついているというのか? それらは周囲がばらまいた悪意ある噂だ」


「ディーハルトが私に嘘をついたと、お父様は言うの……?」


「ディーハルト殿下もある程度は乗せられていたとは思うが、城とはそういう場所だと事前に教えておいたはずだ。ライハルト殿下とはろくに話もしなかったと聞くのに、ディーハルト殿下とは呼び捨てにするほど親しいのだな」


 私もディーハルトも騙されていた? 誰に? 何の為に? 悲しくて悲しくて、そこから先のお父様の話は頭に入って来なかった。


「また、来る」

 お父様が部屋から出て行こうとしているのを見て、我に返った。大切な事が聞けていない。


「お父様待って! ローズは!? ローズはどうしているの!?」


「解雇した」

 顔から血の気が引いていくのがわかる。幾らお父様でも許せない。


「何ですって! いくらお父様でもそんな横暴は許されないわ!」

 ローズは家が没落してしまい、今は身寄りがない。うちを解雇されれば生活にも困るはずだ。妹のリリーはどうなったのだろうか。


「何が横暴だ。雇い主は私であるし、ローズは雇い主への報告義務を怠った。当然の結果だ」


「ローズは私のことを思って!」


「私に報告が来ていれば結果は変わっていたかもしれん。自分が何をして、そのせいで何が起こったのかよく考えなさい。考える時間が出来たのはライハルト殿下のお陰だということを忘れるな」


 お父様の言っている意味が、全然わからない!

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