第43話 厳罰を求めるか
「ライハルト、二人に厳罰を求めるか」
説明が終わったと思ったら、厳罰を求めるかを父上に聞かれて驚いた。不誠実だとは思うけれど、二人はまだたったの十一歳。
子どもの初恋程度に厳罰って何よ。弟を好きな人と結婚するのは嫌だけれど、それはないわー。
「いえ、求めません。幼い二人に最大限の配慮をお願いします」
父上はしゃーないなみたいな顔をするし、何かフォード卿に至っては泣いちゃったよ。
フォード卿は感謝しつつぐいぐい来て謝ってくるから微妙に怖いよー。
「本当にそれでいいのか?」
「はい、構いません」
っていうか、問題を大きくしたのは父上と母上だよね? 父上は知らなかったのなら母上の方が責任重大?
ルヒトじいとケビンに滅茶苦茶思考能力を鍛えられているから、それくらいは普通に気付くよ。
それなのに、何で責任をフォード卿と子どもに全部押し付けようとしているのか? 正直無いわー。
以前から微妙に思っていたけれど、父上に幻滅するわ。元々そんなに期待もしていなかったけれど。
そんな甘いけれどしゃーないなみたいな表情が出来る意味がわからん。自分も俺にしてみれば加害者側ですよ!
しかも母上への処罰はないんかい。せめて俺への謝罪は必要なんじゃないでしょうか。いらないけれど。
フォード卿、ちょっと思考している間に腕にすがり付いてくるのやめて? 鼻水垂れてない? ねぇ? 服につけないでよ?
俺、服飾費節約しているから、この服もまだまだ着るつもりだからね?
「すまないが、王妃と離婚するつもりは無い」
父上の言葉に、お好きにどうぞとしか思わなかった。
「オルグチーズやシース織りの件も聞いた。これからはそれらにあれを関わらせる気はない」
当然でしょ。そもそも俺の私財だし。やっぱり今後父上と上手くやっていける気がしないよ。
カリーナは表向き、病気療養の為に婚約者を辞退した事になる。俺にとっての一番の懸念事項が解消された。
当然学園への入学も見送りで、Web小説の舞台は崩れたと言える。
安心して、軽やかな足取りで部屋に戻った。
ケビンによると、実際は俺からの婚約破棄で落ち着いたそう。不貞の相手が弟でも、婚約者は俺。
俺とカリーナの二人で考えた場合、どう考えても俺からの婚約破棄にしかならないんだって。
俺は不誠実なことはしていないしね。家同士の慰謝料は相殺されるが、フォード侯爵家と両親から、俺個人への慰謝料ががっぽがっぽと入るそう。
さくっと投資に回そう。
「ライハルト様は随分とお優しい事をしましたね」
ケビンに言われる。
「何それ、嫌味ですかぁー」
「事実ですよ。こっそり会っていた時点でダメな事を理解していると捉えられ、幼いでは済まされませんよ。幼くとも確信犯になりますからね」
「確信犯かー」
産まれた子どもが誰の子かわからなくなるから、特に女性のそういう行動には厳しい世界。
普通は調査部門が入るところが、俺の優しさで内々の処理となったらしい。
「内々の処理にならなかったら、どうなっていたの?」
「確実に二人の不貞が公表されるでしょうね。二人の今後の婚約者探しは難しかったでしょう」
「えっ、そうなったらますます王太子が私になっちゃうじゃない。だったら内々で良かったよ」
「……そう言うだろうと思って、止めなかったんです」
ケビンは不機嫌に見える。
いつの間にケビンまでもが俺を王太子にしようとしているの!?
積極的に動いたりしたら、アンナに制裁してもらっちゃうぞ!
「ですがね、ディーハルト殿下は今回の件で陛下から、兄から姑息な方法で王位簒奪を狙う奴だと認定されていますよ」
弟は俺からの王位簒奪計画に近い様な事を周囲に言っていて、それに周囲もそれなりに同調していたみたい。
それはさすがに駄目だわ。そういうのを決めるのは国王だし、弟は焦ってまずいことをしちゃったね。だけど。
「父上からの評判ガタ落ち?」
「そうです」
弟に婚約者がいれば、俺の一存だけでは内々の処理には出来なかった。ある意味婚約者がいなくてセーフと言えばセーフだけれど。
……ところで母上が弟に協力していたように見えたんですけど、そこは父上完全にスルーなの? 恐る恐る不機嫌ケビンに聞いてみた。
「処罰も考えていたけれど、最終的には二人の密会現場に突入して咎めたので、子を愛する母親故のなんちゃらかんちゃらでスルーですって」
「わぉ。自分の妻にだけ甘くない?」
「私もそう思います。ライハルト様の功績の横取りについても、何の処分もありませんしね」
ケビンの本当の不機嫌の理由はこっちかも。やだ、王子な俺に八つ当たりしないでよ。気持ちはわかるが。
ケビンも今は俺の前だから抑えているが、後でブチギレる予感。
でも二人のことはあんまり責めないで欲しいというのが本音。できれば弟に王位を譲りたい俺にとって、弟の完全な失脚は痛すぎる。
それに正直カリーナを好きにはなれていなかったので、別に弟とこの後結婚する事になってもまぁ許せる範囲。祝う気まではないけれど。
「正直、別に二人が結婚しても私は構わないと思っているよ。ただ、その時に私が城に残っているのは嫌だけれどね」
ケビンも、父上からの話の詳細はまだ伝わっていない筈の侍女や護衛までもが皆顔が怖い。
「あり得ませんね。表向き病気療養になったとはいえ、健康になりました、じゃあ次は第二王子と結婚します、ではおかしいでしょう」
「まぁ、それはなんか大人が上手いことやるんじゃない? 箝口令だって、その為じゃないの?」
ケビンの溜息をくらった。
「違います。ライハルト様がお優しい事を言ったせいです」
そうだったんだ。でも、婚約者に浮気されていましたって大々的に発表するのもどうなの。俺、恥ずかしくない?
「不貞の相手が弟だったと公表しないとか、カリーナに別の問題があったことにすればそれでいいと思うんだけど。どうせ弟がカリーナと結婚するつもりなら、カリーナの評判が多少落ちても問題ないような気が?」
「……その様な話も出ましたけれど、ね。ディーハルト殿下とカリーナ様の結婚には、私は反対です」
何かちょっとケビンの歯切れが悪い。大人たちで色々あったのだろう。
取り敢えずオルグチーズやシース織りは完全に俺の手に戻って来るだろうし、糸の染色もあるし、これからは堂々と色々出来そうで喜ばしい。
カリーナの病気療養による婚約者の辞退と、フォード侯爵家がそのまま第一王子派であることを公の場でフォード卿が表明した。
後ろ盾を貰ったままって。命は大事にしたいけれど、王太子にはなりたくないんですけど……。
唯一良かったのは、箝口令が敷かれたお陰で弟とカリーナがどうにもならないくらいに評判を落としてはいない事。
やんわり王太子から逃げる計画は頓挫してないよね? ね? まだ諦めていないよ。
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