第42話 お気楽からの

 カリーナに対し、せめて相談して欲しかったなぁとは思う。俺には無理でも家族にでもね。

 婚約者とはいずれ結婚するのだし、前世風に言うなら今はお付き合い中。自分ではそれなりに仲良くなろうと努力もしたつもり。

 だけれど相手は自分に全く興味がなく、所謂愛の無い政略結婚コースかと思いきや、思いっきり他で、しかも弟と初恋を育み中。


 小説のライハルトが俺のように二人の密会現場を目撃したかどうかはわからないけれど、授業をサボっていたなら見かける事もあったんじゃないかと思う。

 予備知識なしであれを見せられるのはキツイと思う。相当ショックを受けたんじゃなかろうか。


 自分に興味のない婚約者、弟が良かったと平然と言う教師。訴えても放置する両親。

 きっとアンナとかは味方でいてくれたと思うけれど、側近は同世代だし相談もしにくかっただろう。


 小説のライハルトを考えると泣きそうになる。そりゃあ弾けて遊びたくもなるよね、婚約破棄だって叫びたくもなるよね。

 だって婚約者が弟と浮気してるんだもん。やっぱり小説のライハルトも、二人の密会を目撃しちゃったんじゃないかなぁ。


 内政部門で投資関連の話が終わり、二人を目撃した場所を避けて部屋に戻った。ケビンの目線が怖い。

 逃げるなってこと? いや、戦う気はありませんよ。二人との仲は希薄だし、二人の初恋は最早他人事に近い。


 カリーナとのお茶会は開催されなくなり、夕食を家族と共にする事も無くなった。ここで俺のフォローをしようと思わない両親って、どうなの。

 でもショックを受けるとかじゃなくて、楽しい気楽な時間が増えた感じ。夕食も部屋食だと、両親の好みや見栄が加算されないので、自分の好みのものばかりで幸せ。




 そう時間が掛からずに婚約解消かと思いきや、そのままの状態で婚約からもうすぐ二年になる。

 いい加減そろそろねぇ。今年の秋には学園へ入学する。いよいよWeb小説の登場人物が揃ってしまう。すっきりして学園に入学したい気持ち。


 今日は父上に呼ばれたので、ややおめかしをして謁見の間へ。同席するのはケビンだけ。

 形だけだけれど、学園入学の王命がおりるらしいからそれかなと思っていたら、フォード卿もいる。だからおめかししたのか。


 ついに話が纏まった?


 父上が俺の挨拶を受けて、厳しい目でフォード卿を促した。フォード卿に、首を見せる最大の臣下の礼を取られた。

 どうしたどうした。俺、まだまだただのひよっこ王子よ?


「我が娘が不出来なあまり、殿下に不愉快な思いをさせてしまい、申し開きもございません」


 んんっ? フォード卿は、婚約破棄に協力してくれた側よ?


 困惑していたら、詳細な報告が父上からされた。しばらく見ないうちに老けたね。そして母上は不在。

 父上が言うには、当事者から話を聞きだすのに時間がかかったそう。


 二人が初めて会ったのは、カリーナが城で勉強を始めて二週間後。弟は護衛を撒いて部屋を抜け出していた。

 事前申請が通らないのは理解していたらしく、警備の目を盗んでの不法侵入。あそこを警備していた人たちは処分されるのか。なんかなー。

 弟は一目惚れしたカリーナに会いたくて、我慢出来なかったそうだ。警備の人の事とか全く考えていなさそう。


 でも子どもとはいえ、侵入を許した警備の人も不味いよね。で、弟は不法侵入した先で、泣いているカリーナを見つけてしまった。

 それで気持ちが抑えられなくなったとかなんとか。弟はカリーナを慰め、ハンカチを渡した。


 カリーナはその場でお礼を伝えたが、その後ハンカチとお礼の品を渡そうとして、勉強後に出会った場所へ通うようになった。

 カリーナがお礼をするくらいならと、母上は弟が敢えて抜け出せる状況を作るように護衛に指示した。


 本人は上手に抜け出せたつもりで、護衛はきっちりついていたのか。そこで綺麗に終われば良かったが、二人はまた会う約束をする。

 これはいかんということで、母上は弟の護衛を強化。カリーナがいる間は部屋から出られないようにした。最初は母上もそれなりの対応をしていたってことね。


 正直結果的には黙認したのだから、俺的には過程はどうでもいいかも。父上には大事なのかもしれないが。

 そのうち弟は部屋にいる筈なのに、外で目撃されるようになった。それで厳しい監視をカリーナにつけた。


 弟が緊急時の王族専用隠し通路を部屋で見つけ、それを利用していることがわかったそうだ。

 王族専用の緊急時隠し通路を使っちゃうとか、護衛の人は本当に大変だったよね。弟の護衛には同情しかない。


 その後は母上が黙認。理由は聞いても理解出来なかったと、父上が。そこを詳しく知りたいんですが。

 アンナの師匠ならその場にいただろうし、アンナに後で聞いてみよう。

 黙認はしても、護衛は物陰から弟についていたそう。だから母上は詳細な報告を受けていた。


 母上はそんな気は無かったと言っているらしいが、弟を王太子に、妃をカリーナにする計画を立てていたとしか思えないとは父上の話。

 父上に俺のことを母上に丸投げしていたせいで気が付かなかったと謝られた。父上は今でも俺を王太子にするつもりなの!? 嫌ですぅ。


 でも今回の件に父上が関わっていなかったなら、今は言うべきではなさそう。言いたいけれど、我慢かぁ。

 言ったら余計にややこしい事になりそうな予感。父上とは考え方も気も合わなさそうだし、言うならルヒトじいやケビンに相談してからにしよう。


「ディーハルトは焦っていたと言っている。カリーナから特別な好意を感じていたが、カリーナはライハルトと秋に学園に入学する予定だった。そうすると、最低でも二年は会えなくなるだろう?」


 だからって、それで焦ってカリーナにプロポーズをしてしまったとはどんだけ焦っていたの。

 そしてマセガキ過ぎませんか。十一歳で兄の婚約者にプロポーズとか、子どもっぽいとも言えるけれど。


 カリーナは俺の婚約者だからと断ったが、弟は自分に婚約者は不要、カリーナを思い続けると宣言。今後も会って欲しいとカリーナに言った。

 そこはカリーナは絶対に断るべきところ。けれど、カリーナはその後も弟と変わらず会った。俺が目撃したのは丁度その時だったらしい。

 俺があの場を去った後、母上が現れて、はい、アウトー! と二人に言ったらしい。何で母上?


 父上が状況を把握しつつ敢えて泳がしていたのは、プロポーズ後にカリーナが弟と会うかの確認と、母上がどうするかを見たかったそう。

 母上は二人を放置して悪化させたり、かと思ったらアウトと言ったり、本当に何がしたいのかわからない。


「二人の密会に協力していた騎士は、カリーナの警備に関する責任者だった。周囲には許可を得ていると話し、積極的に二人に協力していた」


 何でも騎士はカリーナの侍女と幼馴染で、突然の再会に浮かれて言いなりだったとか。

 で、既に解雇されている。公私混同は絶対にしたらあかん立場。ただの解雇ではなく、騎士として生計を立てられないよう関係各所へ解雇理由を通達済みで、監視付き。


「雇い主の利益を損なう重大な契約違反だと通達したから、騎士としての能力が活きる職場での再就職は無理だ。他国に行かれて城や王家の情報を漏洩されても困るから、適当な職場が見付からなければ最低限の生活が出来る職場を密かに斡旋して監視を続ける」


 処罰が重い様なそうでも無い様な? 法律は多過ぎて頭に入っていないので、判断が出来ない。


 カリーナの侍女も侯爵家を解雇済み。二人とも知っている人ではないから、普通に聞き流す。

 母上は今、あらゆる権力を勝手に行使出来ないように監視されているらしい。当事者の二人は今は処分待ちの謹慎中。


 結局母上の思惑は何だったんでしょうね? それだけが謎。

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