第55話 学園入学準備

 最近は勉強と投資の合間に、学園への入学準備をしている。学園はちょっと王都の中心からは離れているせいで寮がある。

 馬車で通うと城から片道一時間半。毎日お尻が痛いのはちょっと嫌。元々城での居心地も悪いし、迷うことなく入寮を決めた。


 在学中は公務が減るが、入寮すると更に減ると内政部門長が言っていた。残念そうにされたが、俺的にはラッキー。

 公務も重要だとは思うけれど、大人たちに混じって式典で挨拶して、その後の食事会は夕方からなので不参加。俺いる? って毎回思うんだもん。


 王子は学園へ沢山使用人を連れて行ってもいいと聞いたので、本人の意思を確認して希望者全員分を常在使用人として申請した。

 人数が多いと色々と言われそうだけれど、気にしない。そう思っていたら、申請書類を見た内政部門長にこんなに少なくて大丈夫かと心配された。


 そう言えば俺の所は最初から少数精鋭だった。侍女の面倒を見る侍女も、掃除専門侍女もいない。

 常在で連れて行く予定なのは、リーリア、ニコールとその夫、ナタリーと料理人ハノア。護衛のベアード、熊さん二号~七号。護衛と料理人は立場上必須なので。


 ニコールの夫は近衛騎士だから、熊さん八号でもある。ハノアは俺の傍で新作料理を作り続けたいと進んで立候補してくれた。

 ハノアは普通の料理も美味いので有難い。食堂もあるけれど、王子なので毒味とか面倒なの。


 ケビンとアンナがいないのは、アンナが妊娠したから。二人の事前計画より早く妊娠してしまったと、ケビンがアンナにかなり怒られていた。いやん。

 俺十二歳よ。十月で十三歳にはなるけれど、まだまだ子ども。なのに前世の記憶のせいで何の話かわかっちゃう。テンション上がってやらかしたんですね、ケビンくん。


 ケビンはそれでも常在で付いてくると言っていたが、初産の女性を放置するなと言って通いにした。何が起こるかわからないのにそれはアカン。

 ルヒトじいたち教師陣にアンナを頼むとか言っていたけれど、全員男やん! アンナの妊娠に最初に気が付いたのは、まさかのルヒトじいだったけどさ! それとこれとは別!


 秋入学なので、お針子さんたちが張り切って俺のベストにセーター、カーディガンなどを編んでくれている。

 制服があってね、シャツにズボンは定型の。そこに温度調節でニットを着るのだが、ニットは緩めの規定があるだけで後は自由。だから凄く張り切ってくれているのだ。

 ジャケットもあるし、そんなに気合入れなくてもいいと思うのだけれど、誰も俺の意見は聞いてくれなかった。


「お任せ下さい。既に我々は殿下の好みを把握しております」

 ババーンって感じで言われ。


「次は私のセーターを一番のお気に入りにしてみせます!」

「負けないわよ!」と周囲も盛り上がっているので、丸投げした。実際、俺の好みを外さなくなっていた。


 服とか日用品を持っていくのは勿論だけれど、家具もいる。衣装部屋はあるけれど、寮に備え付けの家具が無かった。

 応接室用にはがっつり税金が投入される。無駄遣い感……。ゴードンしか友達が出来なかったら、無意味空間になる気しかしない。


 学園も見栄の張り合いの場であるのと同時に、据え置きの家具に細工されたりするのを防ぐ為なんだって。んで、ばんばん商人が売り込みにくる。

 そんで俺には派手好きで目立ちたがりと噂でもあるの? って思うくらい、趣味じゃないど派手なサンプルの数々を見せられているの。


「私には派手好きな噂もあるのかな? それにしたって派手過ぎない?」


 アクセント使いならともかく、全面が金ぴかだったり彫刻だらけの机とか椅子とか無いわー。応接室とかかなり落ち着いた雰囲気なんですが。

 商人を準私的スペースの応接室に入れる事はないから、知られていないのだろうけれど。何処からの噂よ。


「刺繍が入ったシャツや、鮮やかな色と凝った編みのニットが影響しているんですよ。他のに比べたら充分派手ですよ」


 ナタリーにそう言われたが、前世の俺がこれは派手には分類されないと言っている気がする。

 俺、家具は落ち着いた色合いで機能美を愛するタイプ。真逆で選べません。

 そうしたら我儘を言って商人を困らせているなどと噂が……。税金投入で三年間も使うのに、趣味じゃないのは選ばないよ。特に私室用は妥協できん!


 今まで私室の家具は子どもと大人用の中間サイズみたいなのを使っていたが、学園用は大人サイズを購入予定。

 それで学園卒業を機にそのまま、城の家具と交換するつもりでいる。


 応接室のは税金投入なので、今使っているのと学園で使用していた分のどちらを残すか選べ、漏れた分は城の他の場所で活用される。重要やん!

 そんな時、着飾っている商人に混じって、現役の職人が場違いにも来ちゃいましたな人を見つけた。待合室で大きな体をちっさくしている。


「次は、あの人呼んでー」

「確かにあの雰囲気は、ライハルト様の好みをわかってくれそうですね」

 ニコールも同意してくれた。


「フォード卿の紹介で参りました。ロッサリア商会です」


 話を聞くと結構小さな工房で。俺の愚痴を聞いたロイドが、こっそりねじ込んでくれたみたい。

 それなのに工房主が緊張と興奮で発熱。職人が来ちゃいましたとさ。職人さんも緊張してガチガチですね。


「折角来たんだから、サンプル見せて?」


「はぃ」

 ちょっと話しただけで、緊張で口がぱっさぱさになっている様な声だった。


「ニコール、お茶頂戴」

「はい」


「こう、使い込むと味が出てくるような、機能性の高い、落ち着いた雰囲気の家具が欲しいです」


「そっれは、とっくいぶんにゃでし」


「お茶を飲んで落ち着こうか?」


 緊張し過ぎだろ。ぱっさぱさ度合いが凄い。それでもさすがはロイドの紹介。俺好みの家具の話が出来た。


 家具も決まり、搬入と同時に護衛の第一陣が寮へ行った。事前に安全確認やら警備の計画を立てるらしい。

 更に、叔父さんが入学して以来閉ざされている部屋なので、掃除も大変。侍女も交代で掃除に行ってくれている。

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