第41話 ついに目撃

「ライハルト様」


 今度は重苦しい雰囲気でアンナに座るよう促された。俺の専属使用人が全員揃うのも珍しい。今度はどんな話を聞かされるのか。


「ライハルト様、心を強く持ってお聞き下さい」


 相当な話になるのか、何故か俺は既にニコールの膝の上で、後ろから抱き込まれている。逆にこの状況に動揺しそうです。

 普段はそんな事をして来ないルヒトじいが、俺の手を握っているのも怖すぎる。しかも反対の手はリーリアが握っている。


「カリーナ様がディーハルト殿下と頻繁に会っています」


 何だそんな事かと思ってしまった。


「それを王妃陛下が黙認されています」


 感想としてはやっぱりか、だった。やはり護衛の目を掻い潜っての密会など無理だったのだ。


「……驚きませんね?」


 アンナの怖い顔の方が衝撃です。さて、小説でだいたいこうなると思っていたから、とは今さら言えない。どう言おうかな。


「私に全く興味のないカリーナ、フォード侯爵家への冷遇、カリーナが優秀だという噂に、弟の方がカリーナの婚約者に相応しいという噂、上げたらキリが無いよ。それに多分、弟がカリーナに一目惚れする瞬間を見た」


「だが、矛盾しているだろう?」


 いつも通りなルヒトじいからの突っ込み。一目惚れの瞬間を見た件はスルーなんですね。やめて、ボロがボロボロ出そう。


「アリシアと再会して確信したよ。母上には、私への母としての愛情はほぼ無いんじゃないかな」


 俺をギュッと抱きしめるニコール。逆にリーリアは息を吐きつつ体の力を抜いた。


「やはり、気付いていましたか……」


 リーリアがそう言った。確信したのはつい最近だけれど、言わないでおく。雰囲気大事。

 実際は王家の家族関係が希薄だから、こんなもんだと思い込んでいただけだけどね。


 その後はニコールに抱きしめられたまま色々と説明された。俺の護衛が二人の密会を目撃し、それを報告して母上の黙殺を知る。

 当然アンナに報告が行き、あれこれ裏取りをしつつ証拠集めに奔走。その過程で、密会を黙殺している事が母上の独断の可能性が判明。


 他にも色々と調べた結果、母上が弟を溺愛するあまりに暴走したと結論付けるに至った。

 父上は平等に子への愛情が薄かった。これは育った環境が影響しているのではと言われた。父上とその両親は、もっと薄い親子関係だったそう。

 今より薄いなんて、最早親子じゃないよねって思っちゃう。戦後復興で忙し過ぎたらしいけれど。


 母上は子どもが出来るのに時間がかかり、その関係で俺の母親を出来るようになった時、俺は既に四歳。既にアリシアに懐いていた。

 おそらく、それが原因だろうと言葉を濁しながらも伝えてくれた。結構大丈夫。アリシアに会って、前世の母親を思い出したのが大きい。


 母上の独断であった為、肝心のフォード侯爵家側は何も知らされておらず、逆に証拠集めを手伝ってくれたそう。

 で、父上が納得するような証拠を集め、後は俺の気持ち次第でどうとでも出来るところまでになっていた。


「……どうしたいですか、ライハルト様」


 アンナは怖い顔のまま聞くけれど、答えはとっくに決まっている。


「婚約は解消で! 王位継承権も辞退で!」


「婚約は破棄ですね」


 明るく言ったら訂正された。王位継承権についてはスルーされる始末。そこから先は婚約の際の契約も絡むので、大人に任せた。

 母上の暴走を知らされた父上は激怒して、この一件から母上を排除し、母上は今のところ何も知らされていないそう。


 そんな話の後、普通に通りすがりで二人の密会を目撃した。投資の関連で俺の行動がちょっとイレギュラーだったからこそ見れた光景。


 二人仲良く建物の陰にある中庭で座って話している。距離が近いし、二人とも凄く楽しそう。

 随分逢瀬を重ねているようです。カリーナのそんな笑顔、俺は見たことがありません。


 というか、この場所はそれなりに人通りがあるし、二人の傍ではないが、護衛やカリーナのお付きの人の姿まで確認できる。

 これってさぁ……。周囲が温かく黙認していることに他ならないよね? 婚約破棄の話し合いが行われている状況で、この黙認が続いていたのに驚き。


 ケビン曰く、「陛下によって、関わっている全員が試されています」だそう。


 今までも含めて、さりげなく振っても弟の話をカリーナは一切しない。やましいことが何も無いなら、普通にこの間弟に会ったと言えばいい話。

 自覚は遅かったけれど、多分カリーナも一目惚れ状態だったのだろう。そうでなければ、普通に話しておかしい事ではない。


 お楽しみ中の二人に気付かれないように、そっと離れた。ケビンが物凄く物言いたげな顔をしていたけれど、スルー。

 あそこに突撃する勇気は俺にはないし、今さら二人に何かを言う気も無い。そもそも鉄柵越しの目撃だから、入るのに申請がいるじゃない。


「弟は城に残ると言って、婚約者も決めないつもりだよね。私を支えたいと言ったとか聞いたけれど、あれを見ると、ねぇ?」


「……そうですね。この後の話し合いが捗りそうです」


 ケビンがルヒトじいに負けない悪い笑顔。


「私にその気はないし、王位もやる気のある弟に譲った方が……」


 ケビンが凄い顔で見て来た。前回スルーされたからもう一回挑戦ってやつです。


「ライハルト様は、それでよろしいのですか?」


「うん。さすがに平民とかじゃ生活できないだろうから、婿入りかそこそこの領地が貰えたら嬉しいな。城に残るのは、ちょっと嫌だ」


 本音は大分嫌だが、控え目に言った。それなのにその後、ケビンはだんまりだった。度重なるスルー。返事してぇ!

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