第26話 王家の闇は深い

 話を終え、ルヒト様と殿下の元へ戻った。殿下は今授業中なので、応接室で授業の終わりを待たせてもらう。

 応接室の護衛は敢えてベアードのみとなるよう誘導済みで、二人で先程の話を自由に出来る。


「あれが外交のトップでは、外交部門は苦労しているだろうな」


「でしょうね」

 私もルヒト様と同意見。私が相手の策略を見抜けなかった訳ではないらしい。


「ケビンにもそろそろ話しておこう。話題にもならないが、クールベ殿下には陛下以外にも姉と兄がいたのは知っているな?」


「ええ、流行り病で亡くなったと……」


 違うのか? まさか血みどろ系!?


「そりゃ嘘だな」


「私の命は無事でいられますか?」


「だからベアードしかいない今、話している」


 第二子の王女殿下は、真実天才だったらしい。ただ、先代陛下たちはそれをよしとしなかった。

 先代は先々代で終わった戦争、そこからの復興事業を引き継ぎ尽力していた。


 他国とのまだ不安定な関係性や国内の状況も鑑みて、国内での争いを避ける方向を選んだのだろう。

 第二子でありながら、第一子を越える才能は火種でしかない。王位継承権争いが勃発する可能性が高い。しかも女性。


「まだ戦争の記憶が新しい中で、女性を王にするには問題も多かった」


 先々代の王子時代には、王子たちはことごとく軍を率いて戦争の最前線にいたと聞く。幾ら天才でも、女性が戦争の最前線に行くのは危険過ぎる。

 体力も力も劣る女性では、敵陣に先陣を切っても死ぬだけだろう。


 王が女性なら、他国から攻めやすいと思われる可能性は高い。

 もしそうなった時に天才の智謀で勝利したとしても、前線で活躍した王兄や王弟と後方で支援のみの女性の王を比べてどう思うか。


「先代陛下たちは、王女殿下を幽閉していた可能性がある。元気だった王女殿下の姿が急に見かけられなくなり、亡くなる数年前からは王女殿下を見た者がいない上に、亡くなるまで世話をしていた者たちも一人残らず城から消えている」


 口封じ的な規模が大き過ぎてゾッとする。


「王女殿下に深く関わっていて生きているのは、姿を見かけなくなる前に王女殿下の傍を離れた者のみだ。彼らも既に誰一人城にも権力の中枢にもいないがな」


「口封じですか」


「可能性は高い。王女殿下を見かけなくなってから、先代両陛下は多くの功績を残しているしな。誰もがはっきりとは言わないが、幽閉している王女殿下に研究をさせているのではと言われていた」


 実際に各部門へ提供された先代陛下からの資料には、王女殿下の筆跡が数多く混ざっていたらしい。


「王女殿下が病に臥せっているとの発表後、第三子の王子殿下が、そんなはずが無いと周囲に漏らしていたらしい。王子殿下は王女殿下と歳が近かった事もあって、かなり仲が良かった」


 聞きたくはないが、続きが聞きたいという矛盾した思いを感じた。その王子殿下も病死してますよね?


「先代王妃陛下が安定期に入ったと妊娠の発表がされた後、第二王子殿下も王女殿下と同じ病に倒れたと発表された。その後、ほぼ同時期に二人の死亡が発表され、周囲にいた者もいなくなった」


 知りたくなかったかも……。二人共タイミング的に、この世から強制退場させられているでしょうが。


「その後、クールベ殿下が産まれた。おそらく周囲の者も本人の教育も、第一王子の陛下の脅威にならないように調整されたのだろう。今日、クールベ殿下本人にもあの二人にも、ケビンは違和感を感じただろう? 私はなるほどなと腑に落ちた」


 知りたくなかった……。


 二人が邪魔になり、スペアを用意してから殺したようにしか思えない。陛下の先代嫌いは有名な話だが、そういう経緯があったのか。


「まぁ、先代陛下方は既に亡くなっているし、今の陛下が何処まで把握しているかは怪しいところだと言われている。クールベ殿下と周囲はあのままだろう」


「何故今、その話を私に?」


「王家に対してただ血生臭いと思っているより、具体的にそうだと知っている方が身を守れる。それに、私は腐っても王家に欠かせないロシーニ侯爵家に籍があり、現当主との関係性も良好だ」


「その、私が、殿下の、側近に選ばれたのは……?」


「ライハルト様が希望したのもあるが、王家としてはどうとでもなる伯爵家出身。ライハルト様の側近候補だった同年代の令息は、王太子の側近候補のはずなのに跡継ぎだったり、捨て駒にされても家が痛くない者ばかりだった」


「……」


「まぁ、色々考えろ。裏を考えればキリが無い。楽観的に考えるなら、バカ王子に相応しい出自の側近ってとこだろう。但し、一人で先走るなよ。必ず相談するように」


 正直訳がわからん。私に話すのは、まだ早かったのではないか。安易に私がクールベ殿下を味方にと思ったのを見抜かれたのだろう。

 だとしても殿下に深く関わった以上、私たちはもう一蓮托生か。ちょっと前の私に、側近の話は受けるなと言いたい。


「私をライハルト様の教師にしたのは、アンナの師匠であるシャイナだ。まぁ、味方とただの愚鈍を間違えるなって事だよ」


 そんな軽い話じゃ無かったですよね! 盛大に文句を言いたかったが、殿下の勉強が終わったようで口をつぐんだ。

 殿下の勉強が終わる時間を計算して話していたのだろう。悪い笑顔だ。もういい。この話は一旦棚上げだ。


「殿下、また視察へ行きませんか」


「ライハルトだってば。急にどうしたの? 叔父さんに良い感じの視察予定が入ったの?」

 ああ、またうっかり殿下呼びをしてしまった。


「いえ、オルグ卿が、……チーズのおじさんが、あの時に執務室で興味を持っていた敷物の領地にも顔を出して欲しいと言っていましてね」


 殿下がオルグ卿でピンと来ていないのに気が付いたので、言いなおした。領主をチーズのおじさんなどと言っていいのか。言ったけれど。


「あー、あれね。使い込まれていたから分かりにくかったけれど、あれもいけるかも知れないって思ったんだよね。叔父さんと?」


「いえ、今回はライハルト様単独です」


「えっ、一人で行っちゃって大丈夫なの?」


「クールベ殿下に、許可が下りるよう協力して頂きました。行きましょう?」


「行くー!」


 殿下が嬉しそうに笑った。最近はカリーナ様の噂も出回り始め、殿下はかなり城での居心地が悪いと思う。

 外出して少しでもリフレッシュして欲しい。気になる話も耳にしたし、我々が留守にしている間にもナタリーとリーリアには頑張ってもらおう。


 だけれど、命大事に。

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