第25話 駆け引き?
「そろそろ来るかと思っていたよ」
腹の中はわからないが、訪ねた私とルヒト様をクールベ殿下が笑顔で出迎えてくれた。
王位継承権三位の立場上、部屋はライハルト殿下より調度品が控え目。侍女一人に護衛も一人で、そこまで警戒はされていない感じか。
クールベ殿下は外交や国内の視察へ行くことが多いので、貴重な時間を譲ってもらった形になるが、下手に出る気は一切ない。
私は殿下の側近として来ている。ルヒト様も一緒で負ける訳にはいかない。
「何故、そう思ったのでしょうか」
「オルグチーズの件でしょう。外交へ行って戻って来たら、いつの間にか私の功績になっているから驚いたよ」
ルヒト様に攻撃は任せろと言われていたので、私は一旦黙る。
私はまだまだ城での地位が低い。下手に目を付けられて、今暗殺されたら困ると言われた。やっぱり王家周辺は血生臭い。本当に嫌な感じ。
「気が付いていて、何故何もしないのか聞きたいですね。可愛い甥っ子などと言っておきながら、功績は横取りですか」
私の予想より、ルヒト様がはっきり言った。
王家や貴族の功績の横取りは、血みどろの争いと直結している。周囲からの評価や評判が、権力に直結しているからだ。
「辛辣だね。訂正はしたけれど、誰も信じてくれなかった結果だよ」
苦笑い、かな。そんなので許される行為では無いけれどな。この男、もしかして本気でわかっていない?
「そうだとしても、ライハルト殿下に説明するくらいの配慮はして頂きたかったですね。慕っていた叔父の裏切りは、殿下にはさぞ堪えることでしょう」
ルヒト様の言葉に、クールベ殿下の目が僅かに開いた。そんな配慮の必要性さえ感じないほど、ライハルト殿下を下に見ているのかと思うと腹立たしい。
「それで、謝罪は頂けるのでしょうか。それとも放置ですか」
さらっと配慮が謝罪に変わっている。ガンガン攻めるな、ルヒト様。
「い、や……。それは……」
はっきりしないクールベ殿下に、近くに控えていた側近が苦い顔をしている。
どういう意味で苦い顔をしているのかは、ほぼ付き合いがないからわからない。
「すまない。私もいつの間にか傲慢になっていたようだ。訂正したけれど誰も信じなかった、だから仕方がないで終わらせるべき話ではなかった。直ぐにでもライハルトに詫びたいと思う。いつなら行ってもいいだろうか」
ルヒト様の雰囲気が少し変化した。
「いえ、詫びは必要ありません。……もっと詫びるべき人物がいるのですよ」
攻めるルヒト様の暗殺が心配になる。謝罪しろと言っておいて必要ないと言うとか、こちらがドキドキする。
「話してくれないか。今ここにいるのは私が最も信頼している二人だ。侍女は元々私の乳母から筆頭侍女になってくれた女性、護衛は彼の息子だ」
「外部に漏れませんかね?」
「約束しよう」
クールベ殿下がルヒト様の手のひらに落ちたのだと思う。表情からも殿下の足元を掬うための情報を得たいと思っている感じはしない。
クールベ殿下の傍に控えていた二人も、気付いているのかいないのか重々しく頷くだけだった。
私ならとっくに話に割り込んで、殿下にも忠告しているだろう。策略があってわざと? そうは見えないが。
私にはまだ人を見る目が足りないが、ルヒト様はどう判断したのだろう。
「我々はオルグチーズをライハルト殿下の功績として、本格的に売り込むつもりでした。増産に関して国へ申請書も提出しましたが、内容ではなくライハルト殿下にはまだ早い、という理由だけで申請は却下されました」
ルヒト様は話す事にしたようだが、今言っていることは調べればすぐにわかること。特に秘密でも何でもない。
けれど、クールベ殿下も周囲も真剣な表情で聞いている。ここの人たちは情報を仕入れないのだろうか。ちょっと呆れる。
「……地方の収益改善は長年の問題だろう。何故その様な決断を、兄上は……」
「わかりかねます。その後王妃陛下が、ライハルト殿下には何の相談もなく、今後流通に回す予定のオルグチーズを全て買い占めました」
クールベ殿下の表情は一気に苦い物となった。本当に一切の情報を入手していなかった様子。そんなので外交が大丈夫なのか心配になる。
「最悪、だな。あの二人は自分の息子に何をしているのだろうか。直ぐにでも抗議してくる」
今すぐにでも部屋から出ていきそうな雰囲気になったクールベ殿下を、ルヒト様が引き留めた。
「お待ち下さい。ライハルト殿下のお気持ちを考え、この事は敢えて知られないようにしております。クールベ殿下には今後のライハルト殿下の為の協力をお願いしたい」
「どの様な協力だろうか。私に出来ることであればしよう」
クールベ殿下は優秀だと聞いていたが、私にはこんな事をあっさり言うクールベ殿下も、止めない周囲も賢そうに見えないのだが。
評判は本当に当てにならない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます