第31話 二人の初恋が育まれていた
突然ですが、俺が授業を抜け出さなくても、カリーナと弟の淡い初恋が始まっているもようです。
弟が勉強の後によく部屋を抜け出そうとするので困ると、弟の護衛がぼやいているのを聞いた。
「弟、そんなに護衛に迷惑をかけているの?」
ベアードに探りを入れてみる。
「らしいですよぉ。一人にして欲しいって言っては逃亡しているみたいです」
「厄介だねぇ。それで何かあったら、誰の首が飛ぶと思ってんのさ」
「私らですねぇ。だからお前らはいいなぁって言われつつ、ほぼ毎日愚痴を聞いていますよ」
それ絶対、カリーナに会いに行っているから。やっぱり事前申請とかはしていないのか。
逃亡先を教えてあげたいけれど、俺が知っているのは不自然なので無理。
状況がこのままに悪化するだけなのは嫌だし、本格的に自分でも動かないといけない気配。当て馬って虚しいな。
母上辺りにサクッと密会を目撃してもらって、婚約者も王太子も弟と変更にならないかな。
まずはカリーナと弟に勉強で大分先に行ってもらって、ダメっぷりをアピールする? 弟はともかく、カリーナには無理だろうなぁ。
俺の実際の行動まで噂通りになるのも嫌だし。
視察を増やしてもらえばいいか。視察に行ったら色々覚えられるし、机に向かって資料を見ているよりずっと効率的だとわかっている。
視察に行くのは時間がかかるから、普通は資料でさくっと覚えられた方がずっと効率的だということも知っている。
やるせない……。
「ねぇ、ケビン。また視察とか行けない?」
「今のところ北部全般順調ですよ。今行くと、却って邪魔になる可能性もありますし」
「うーん、そうか」
「ざっくりですが王都北部は制覇しましたし、次は西や東にも行ってみますか?」
「望まれてもいないのに、行くのもなぁ」
「いえ、北部から噂が広がって、西や東からも依頼は来ていますが、北部ほど困窮もしていませんし、欲が先立っているというか、あまり意味は無いですかねぇ」
「そっかぁ」
直ぐに視察は微妙か。だったら二人の逢瀬を誰かと一緒に目撃しておきたい。
カリーナの初恋自覚がまだなはずだから、二人が完全に盛り上がってからの方がいいかなぁ。もうすぐ弟にも婚約者の話が出るだろう。
さすがに二人で会っているだけでは注意されて終わりになるだろうから、決定的な何かが欲しいです。こう、ばばーんと。具体策なし。
しばらくして、弟が大人しくなったと小耳に挟んで、あるぇ? と思った。俺が真面目に勉強しているから、小説の筋書きとズレて来た?
えっ、何か今さら全く話が盛り上がらず、俺に興味もなさそうなカリーナと結婚するのが嫌だと思っている自分に気が付いた。
頼むから二人で盛り上がってくれと、つい願ってしまう。それからは特に進展しない日々。
最近、弟の婚約者の話がちらほらでだした。俺の時はほぼカリーナに決まっていて、他の令嬢との交流もなかった。
既に評判が悪かったから、辞退者が続出だったんじゃないかなって、今なら想像出来る。
弟の場合は婚約者の選べる幅が広いし、人気もあるらしく釣書が沢山届いているらしい。
婚約者候補を集めたお茶会を開くのに、候補の令嬢を選ぶのが大変だの何だのと言っているのを聞いた。いや、聞かされた。
弟の行動がすっかり大人しくなっていたようだし、婚約者を選ぶ気があるなら、俺が行動を変えたことで小説の筋書きと現実がズレて来たかも。
そんな風に思っていた時期もありました。
弟が婚約者はいらないと言い出したらしく、候補を集めたお茶会は開かれることなく終わりになりそう。それを通りすがりに俺に不満気に言われても困る。
周囲は弟とカリーナの初恋を知らないのか? そんな事って可能なの? 弟の護衛はともかく、カリーナの警備は何をしているの。
弟はやっぱり泥沼不倫系か、略奪愛を狙っているんですね。我が弟ながら怖いわ。お互いに兄弟としての気持ちが薄いせいもあるのかも。
だけれど、これだけ自分の評判が良くて俺の評判が悪いのに、両親にもカリーナへの気持ちを吐露しないのは何故なのか。
俺が弟の立場ならきっと言う。俺とカリーナの冷め過ぎたお茶会を知っているから、両親も考えてくれると思う。その情報を知らないからかな。
とかく秘めた恋って美談にされがちだけれど、俺は嫌い。片想いならまだいいよ、片想いなら。両想いでっていうのが嫌なんだよねぇ。
特に今回の婚約はやむにやまれぬ事情とか、あって無いようなものだし、権力者はこっち側。
王位も婚約者も弟に譲ったとなれば、俺の命の危険はほぼなくなると思う。そうしたら、俺が無理にカリーナと婚約している必要もない。
天才だと言われているのに、その辺に気が付いていないのか、泥沼不倫か秘めた恋が好きなのかが不明。一言俺に聞きに来てくれればいいのに。
まぁ、周囲の様子から考えて、聞きに来る事はないか。一応表面上は仲の良い兄弟風なのだけれど。噂でも流す? 上手くいく気がしない。
「なんだ、今日は何時にも増して記憶力が悪いな」
相変わらずお口が悪いルヒトじい。知っていると思うけれど、敢えて聞く。
「ルヒトじいは絶好調だよね。ねぇ、弟が婚約者は要らないって言ったって聞いた?」
「ああ、聞いた。城に残る気らしいな」
「俺たち、ちっとも仲良く無いよ」
「知ってる」
ルヒトじいが素っ気ない。
「ほれほれ、決めるのは弟で、考えたってどうしようもないぞ。勉強、勉強」
「むぅー」
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