第36話 ロイドが変

 扉が閉まり、ロイドが護衛と共に遠ざかる音を聞いてから、ケビンに気になっていた事を聞く。


「ケビン、ロイドの反応変じゃなかった? ここのタペストリーよりずっといい敷物を手に入れたはずなのに、見た事が無さそうな反応だった」


「私もそう感じましたね」


 だよね。一番いい品をフォード侯爵家に用意したのに、感動し過ぎに感じた。

 ロイドとはそれほど会った事は無いけれど、真面目で丁寧、礼儀を重んじるタイプに見えた。そのロイドがお礼を言わないのも変に思った。


「チーズも新作はまだ私にしか届いてないのに、話を合わせてきたよね」


「話題の切り替えが少々雑でしたが、あれはいい質問でした。ルヒト様も褒めてくれるでしょう。おそらくですが、どちらもフォード侯爵家には無いのでしょうね」


 えへへ。誉められると嬉しくなってしまう。ケビンはなかなか誉めてくれないのだ。

 因みに、ルヒトじいやケビンには、日々会話術をびしばし叩き込まれている。はっきり言ってスパルタ。


 二人と話しながら、さりげなく情報を拾うように言われるけれど、相手が強すぎない? 一緒にケビンもルヒトじいに遊ばれていたりする。

 でも、鍛えられていて良かった。気になったことに対して、情報を増やすことが出来た。


「チーズもシース織りも私が王都に持ち込み、投資したのも私。なのに私の後ろ盾であるフォード侯爵家が入手出来ていないのは、おかしいよね。特にシース織りは、どれをフォード侯爵家へ譲るか私は指定した」


「ええ、私もそう思いました。ですので既にリーリアに調査を頼みました」


「さっすがー。まさかロイドの知らない所で、転売されているとかは無いよね!?」


「そんな馬鹿はいませんよ。折角褒めたのに、まだまだですね」


 スパルタ先生としての顔が出て来てしまった。しまった。軽い気持ちで言っただけなのに。


「えー、もっと褒めてよ。やる気が出るから」


 ケビンには鼻で嗤われたが、ニコールが褒めまくってくれたので良しとする。


「甘やかし過ぎ!」

 ケビンはいつもこれを言う。


「「お父さん、厳しい」」

 ニコールと二人でこう返事をするのもお決まりになっている。


「せめてお兄さんと言え!」

 ケビンとのここまでがワンセット。仲良し。


 次の教師イグナート先生が到着したので、話はここまで。授業開始となった。


 授業後ルヒトじいから話があると言われた。腰はもう大丈夫なのか。痛いのは痛いが、ピークは越えたらしい。


「無理しないで」

「大丈夫だ」


 リーリアの心配そうな表情から考えても、あまりよくない事を言われるのだろう。

 リーリアは基本は無表情であまり表情が動かないけれど、親しくなればわかる変化があるんだよね。そんで優しいのだ。


「オルグチーズだが、王妃陛下が流通可能な生産分を買い占めている」

 渋い顔で言ったルヒトじいには悪いけれど。多分嫌な役を引き受けてくれたと思うのだけれど。


「知ってる」


「はっ?」

 驚いたサンタクロースもいいな。


「何処で知ったのですか」

 厳しい顔のケビンから質問。尋問されているみたいだな。


「シース領に行った時、ゴードンから聞いた。殿下の母ちゃんがめついらしいな! って」


 大人たちが額に手を当てたりして、うわぁってなっている。ゴードンクオリティ恐るべし。オルグ卿がシース卿に忠告していたと聞いた。


 オルグ卿はケビンと手紙をこまめにやり取りしていた事で、こちらの状況を詳しく知っていた。

 それで母上からの注文を不審に思い、最初に王都へ融通した分しか無理だと答えて売る量を最低限に抑えたらしい。


 機転の利くオルグ卿格好良いな! とゴードンは笑っていたけれど、買い叩かれていないか不安になったもんね。

 ちゃんと増産分をまず領民に回し、行き渡ってから王都で本格的に販売予定。それで今は僅かに出た余剰分を、俺に律儀に送ってくれている。


 オルグ卿には余計な手間をかけさせてしまって非常に申し訳ない思い。

 皆俺がとっくに知っていた事から立ち直れないのか、反応がない。


「でも、問題はそこじゃないでしょ。母上がフォード侯爵家に流さない意味がわからない」


「そう、だな。そこが一番の問題だ。知っていたなら言ってくれたら良かったのに」

 ルヒトじいが戻って来た。


「敢えて言わなくても、皆気が付いてたでしょ? まさかチーズだけじゃなく、わざわざ名指しで頼んだシース織りまで売られていないとは思わなかったよ」


「あー、そうだな、はっきりフォード侯爵家にって言ったんだもんなぁ。そうか、独占されているのを知ってて念押ししたんだな」


「そう。それで、どうする? フォード侯爵家が侮られたら、私の命が危ないかもよ」


「どういう意図なのか本格的に調べますよ。それで、しばらくは身の安全を第一に。護衛も増やしましょう」

 ケビンが答えてくれた。


 という訳で、普段連れて歩く護衛が増えた。本当に何やっちゃってくれてるの、母上。

 もしかして、母上もカリーナと弟の事を知っていて俺の暗殺を計画しているのではとか、最近ずっと怖い事ばかり想像してしまう。


 だけれど、小説通りに大筋が進んでいるので、暗殺はないかなって微妙な安心感もある。

 バカ王子と噂の俺を、わざわざ暗殺して周囲の不審感を煽る必要も無いと思うんだよね。だけれど、もしも、まさかもあるから正直怖い。

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