第11話 視野が広がったよ
周囲に色々言われ、教師に訳の分からないことを詰め込まれていた俺は、余裕が無さ過ぎて目の前しか見えず、頭の中も大混乱中だった。
それが教師がルヒトじいたちに代わって、常識や勉強を教えてもらったことで頭の中が整理されて、余裕が出来て視野が広がったと思う。
前世の記憶もふわっと出て来て、どんどん自分なりに頭の中が整理されていく。
まずこの国。適当に言うなら縦長の楕円形みたいな形で、南部と一部北西部が海に面している。
北部と中部は冬は雪が降って寒いが、南部の海に面した場所はかなり暖かい冬。
年中湿気も少なくて、夏は陽射しは強いが日が落ちると寒い日がある。
王都は中部のやや南寄りに位置していて、冬は雪も降るし寒くはなるが、夏は結構涼しくて快適な場所。湿気がほぼ無い。
住んでいるのは城と言われているが、尖塔が立っているようなタイプではなく、宮殿とかのイメージの方に近いと思う。
城全体が高い壁で囲まれていて、出入り口は正門と裏門のみ。門には警備、壁にも警備と、とにかく厳重。身分が証明出来ないと門前払い。
門の内側には王族の私的スペース、準私的スペースと言われる場所の他に、公に人を呼び込む謁見の間やパーティー用のホール、役所がある。
それぞれが壁で区切られていて門があり、移動に制限がある。王族の私的スペースはさらに壁に囲まれていて警備も超厳重。
真ん中に国王と王妃の棟。俺は東側で、弟は西側の棟を使っている。あんまり家族と会わない理由がこれ。北側に第三王子以降と王女用の棟があるが、今は使われていない。
私的スペースには自分の部屋に寝室などの部屋がたくさん。正直ほとんど使っていない。結婚しても使えるように広めになっていると聞いた。
結婚出来るか怪しいけどね!
私的スペースに入れるのは事前に申請書を出し、身辺調査で問題が無かった人のみ。それでもそれぞれの棟に入るのはまた別。
私的スペースの入り口では毎回本人確認をされるし、それぞれの棟にはそれぞれの専属近衛騎士がいるので、気軽に出入りは出来ない。
家族だけれど、お互いの棟に行くにも手順が必要で、それがちょっと面倒だし、夕食時に準私的スペースで会うからそれで充分な関係性かな。
今現在俺の私的スペースに入れるのは、俺専属の侍女と近衛騎士だけ。侍女が掃除もやってくれている。
アホ王子は身辺が危険なので、筆頭侍女のアンナによって、周囲の人間もかなり絞ってある。
準私的スペースは勉強部屋、応接室、食事室とかがある。個人的に外部の人を招く場合はこっちを利用する。友人とか教師ね。
行動範囲が狭すぎて友達がいないけどね! こっちは私的スペースよりは審査が緩めで、その代わりに護衛という名の警備が沢山つく。
そう言えば、弟はもちろん両親の私室にも入った記憶が無い。入れた記憶も無い。もうこれは家族じゃないと思うけれど、誰も突っ込まない。
もしかして常識なの?
「王家って皆こんな感じなの?」
遠慮なく客観的な意見をくれそうな侍女のリーリアに聞いてみた。リーリアは見た目も中身も切れ者って感じの格好良い姉御。でも繊細。
「私が知っている王家はライハルト様のご家族だけですので、なんとも」
言われてみればそうか。他の貴族でもさすがに個室を通り越して個棟? があるのは珍しそう。
厳重過ぎて城の内部は迷路みたいになっているので、俺は一人で出歩いたら迷子になると思う。
迷子になる自信があるのでせめて地図をと思ったら、警備上敢えてないって言われた。俺の頭脳では自宅周辺さえきつい!
前世の記憶もふわっと来るせいで、世界観にも色々と不思議な事がある。まずトイレが水洗。気が付いた時はびっくりした。
窓から汚物を投げ捨てる世界じゃなくて良かったとは思うが、何故びっくりしたかと言うと、下水道があるのに上水道がない不思議。
トイレのタンクに毎朝水を汲んでくれていた。手洗いも蛇口を捻ったら水が出るけれど、その水もタンクから。
重労働なので護衛と侍女で協力して、城にある井戸から毎日汲んでくれていた。朝の洗顔はたらい。うーん?
食事もレベルが高い。品種改良されていそうな牛肉が出て来るし、普通に美味しい。飲み物は紅茶かコーヒー、ココアまである。
衣服も前世並の品質でありつつ、ボタンは貝とか木。王政だし城とかあるし、街並みも含めて中世ヨーロッパ風のファンタジー世界が正解かな?
品質は前世に劣るけれど、紙も安いし万年筆もあって案外便利な世の中。
じーちゃん先生のお陰で俺の字は綺麗らしい。えっへん。
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