第10話 おやつの改善
今までは苦痛でしかなかった勉強時間が、お茶とお茶菓子付きの楽しい時間に変わった。
ルヒトじいに、ルヒトじいが苦手な語学を教えてくれるイグナート先生、マナーのダレルじい。
皆まだ五十代だけれど、この世界の感覚ではじいちゃんと言っても失礼ではない。付き添いの侍女も含めて皆で和気あいあい。
「何でイグナートだけ先生なんだ」
「五十代に見えないくらい若々しいから」
「ふふん」
「くそっ」
今までは気にもしていなかったが、お菓子が甘過ぎるのだけが悲しい。砂糖が貴重品らしく、王家だぞ! っていう見栄の為にたっぷり使われ過ぎて歯がじゃりじゃりする。
いくら何でも砂糖を入れすぎだろ。
料理人に知り合いがいる侍女ナタリーに、お菓子の甘さを控えられないか相談した。
ナタリーは明るく元気なタイプ。人懐っこい顔をしていて、城中に知り合いがいる凄い人。
「料理関連は王妃陛下主導の元で厳密に決められています。特に高級品のお砂糖や胡椒は、王家の食事にはしっかり使う様に言われていると聞いた事がありますね」
「あー。一人で食べることなんて、基本ないからなぁ」
おやつは教師と食べるし、夕食は家族だけでなく、重鎮の誰かが招待されている。朝も昼も侍女がいるし、本当に一人で食べることはない。
「あっ、でもライハルト様の味の好みの相談はしますよ」
「そうなの? だったらいけるかなぁ? 一度伝えてもらってもいい?」
「勿論です。どれくらい減らす方向で話しましょうか?」
「うーん、取り敢えず食べた後に歯がじゃりじゃりするのは嫌だなぁ」
俺の言い方が悪かったのか。じゃりじゃりはしないけれど、甘いままのお菓子が出てきた。
再びナタリー経由でお願いをしてみたのだが、なかなかこちらの思いが上手く伝わらない。
普通は王家の人間は厨房には行かないが、お茶会や夜会の打ち合わせでこちらが一方的に呼び出す事は可能と聞いたので、料理長を呼び出してみた。傲慢……にはならないよね?
料理長は話し方とマナーを叩き込まれた庶民。急な俺からの呼び出しに警戒心むき出しだった。
ビビらせてごめん。熊みたいなおっさんが警戒心むき出しだと、俺の方がちょっと怖いです。
ナタリーの友人も名指しで呼び出したので、そっちは完全にプルっている。若いのにごめん。
「急に呼び出して悪いね」
「いえ」
「早速本題に入るけれど、私は甘過ぎるお菓子が苦手でね。余計な手間がかかる分については今まで通りでも構わないが、可能な範囲で甘さ控えめのお菓子を作る事は可能だろうか」
料理長が困惑している。多分高貴な人は砂糖が大好きって思ってたんだよね。ずっとそれしか言われて来なかったら、そう思っても仕方がない。
それでイマイチ伝わっていなかった感じ。この後時間をかけて説明した。
結果、勉強時間のお菓子は甘さ控えめの美味しいスイーツに変わった。ますます勉強時間が快適になったぜ!
教師たちも俺の嗜好に巻き込まれているのだが、甘すぎない方が好評だった。
きっと手間をかけさせていると思うので、侍女経由で毎日の様に美味しいとか、これが好きとか伝えてもらう様にした。
そうしたら、料理人たちと仲良しになった。直接会う事はなかなか出来ないけれど、侍女経由で色々とやり取りをするようになった。
一度サプライズで厨房に行ってお礼も言えた。その後は、こういうお菓子を食べてみたいとかのリクエストもする様になった。
これが料理人的にはやる気が出るらしい。
どうやら今までのリクエストは”何か真新しく感じる物”をとか、”新しい食材を使って美味しく”などの抽象的なもので、純粋に食べたい物のリクエストがなかったそう。
ますます仲良しになった。サクサクしたパイが食べたいとかレベルでしか言っていないんだけれどね。それでも凄く新鮮だったらしい。
そこで砂糖や胡椒は高級品だけれど、他のスパイスはそうでもない事を知った。
転生者あるある米を探せも必要ない。品種は違うが米も普通にある。
ナタリーの友人である料理人、ハノアとはかなり親しくさせてもらっているので、カレーライスとかちょっとアピールしてみた。
「スパイシーなスープを米で食べてみたい」
前世でインドやネパールのカレーが好きだったのだ。さすがに俺が作り方を伝えるのは不自然なので、それだけ言って料理人に丸投げ。
ところがである。どっかにインドがあるのか、両親がいなくて部屋夕ご飯の時に、インドカレーっぽいのが出て来たよ! いいね!
料理長とハノアが燃えてくれて、両親が不在の日は今まで城では出て来なかった料理が食べられるようになった。
二人は俺の正直な感想を求めて来るので、思ったことをそのまま伝えてもらっている。
俺がぼんやりリクエストをして、料理長やハノアが試行錯誤、賄いで出しても好評であれば俺の食卓に出る。
俺からも評価が高ければ、両親との夕食でも出て、そこでの評価も良ければ夜会やお茶会などで披露するという流れが出来上がった。
さすが王家の料理人と評判もいいそうだ。ただの我が儘に終わらなくて良かった。
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