第17話 体験型記憶 地方

 徐々に王都から離れていく。王都から離れていくほどに、領主も領地の雰囲気も変わって来た。

 言い方は悪いけれど、領地も人も田舎っぽくなっていって、その分俺にも温かく接してくれる。


 田舎の方が好きだなと思う。単に俺の噂が届いていないだけかもしれないが、人間性が実直でいい感じ。

 相手を嵌めて自分が上にいこうという雰囲気もなさそう。人にはよるけど、叔父さんを接待している時の雰囲気を見ればわかりやすい。


「これでもライハルトがいるから、宿泊先は厳選したんだよ」


 休憩の時に、接待ばかりで疲れない? って聞いた時の叔父さんの返事。

 もっと凄い人たちもいるが、毎回避ける訳にも行かず、基本は行き先に合わせて平等になるように立ち寄るそう。


「叔父さんも大変だね」

 苦笑いで返された。本当に大変なんですね。


 華やかさや領地が潤っている雰囲気も少ないので、短いかもしれない俺の王子生活で何かをしようと思うなら、地方貴族のことかなと思った。

 貴族は中央貴族と地方貴族と呼ばれて分けられているらしいのだが、中央貴族は地方貴族の事を田舎貴族と馬鹿にしているらしい。


 中央貴族は商業とか製造とかそういう二次産業で潤っている所が多いので、地方貴族がこの国の一次産業を担っていることが多い。

 地方貴族のお陰なのに馬鹿にするなんて、とんでもない勘違いだと思う。原材料を中央貴族に買いたたかれていたりするのかなぁ。


「ケビン、ちゃんと穀物とかそういうの、適正価格で取引されているのかな?」

「……ええ、王都の近くでも食糧生産は行われていますが、狭い土地では限りがありますから、ほとんどの食糧は地方貴族からです」

「その割には潤っていなさそうだよね」


 馬車から見える景色は、何もない殺風景な原っぱが増えた。森も川もあるらしいが、栄えている雰囲気がこれっぽっちもない。


「取引先によって価格が変わらない様に内政部門から働きかけてはいますが、品質のバラツキでの価格変動はどうしようもありません」


 この辺りではあまり良質な小麦は作れていないらしい。王都周辺か王都より南が主な産地だけれど、品質が微妙でも取引価格そのものが他の穀物より高いので、向いていない土地でも頑張って作っているそう。


 そもそも小麦の白いパンって一部の裕福な人がほぼ独占していて、貧しくなるほどライ麦の割合が増えて茶色っぽいパンになるとこの視察で知った。お城では普通に毎回白パンだった。

 ライ麦パン、俺好きなんだけどなー。前世の姉ちゃんに付き合ってよく食べていた記憶が、ライ麦パンを食べて甦った。


 相変わらずここの世界観がよく分からないけれど、小麦は高級品でライ麦とじゃがいもは庶民の食べ物っていう認識。

 ちなみにトマトとかも普通にある。昔のヨーロッパとも色々と違うし、ごちゃ混ぜな感じがするのは作者の意図なのかなぁ。


「無理に小麦を作らなきゃよくない?」

「領地収入があまりないので、少しでも足しになればということです」


 他に何か収入源があれば無理をしなくていいってことか。そうなると難しいよね。

 今向かっている領地には、覚えている限り目立った特産品も産業もない。


「特に北の痩せた土地を領地に持っている領主たちは、日々の生活で精一杯で、王都に来る余裕もないのだと聞きます」

「うーん、最初の領地との差が大き過ぎるよね」


「内政部門でも長年の問題とされています。残念ながら何も解決しないまま、今に至っています」


 この領地で叔父さんとはお別れ。俺は疲れを癒す目的で数日滞在させてもらう予定。

 その間に何か見つけられるといいのだけれど、世の中そんなに上手くいくはずがない。

 数日で俺が見つけられるなら、誰かがとっくに見つけているだろう。


 そしてここの領地、叔父さんが俺が単独で滞在しても大丈夫なように、きっちり厳選してくれたのがわかる。

 皆ほっこり優しい。俺と叔父さんだけでなく、誰に対しても扱いに全く差がない。素敵。


 初日の夕飯はラム肉のスープとライ麦パンを頂いた。充分美味しいのに、田舎でしてすみません的な雰囲気。

 俺はむしろ久しぶりで美味しいと思ったし、慣れている叔父さんも何も言わない。


「とても美味しいです」

「ありがとうございます」


 本心から言っているのに、信じてもらえている気がしないのは、気のせいじゃないよね。

 そう言えば王都は圧倒的に鶏肉か牛肉だった。後でケビンに肉の高級ランキングを聞こう。

 王都で食べるお肉は前世並みに美味しいし、凄く高級品な気がする。


「ライハルト様が普段食べているお肉は、美味しくなるように品種改良されたものです。牛肉が特に高いですが、どちらにしろ高級品です」


 やっぱりかー。前世の高級品には劣るけれど、充分美味しいと思ってた。

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