第18話 地方の現状

 翌朝の朝食は温かいライ麦パンにジャムと卵焼き。昨日と違ってパンに少し小麦が入っている気がする。味もそうだけれど、色が薄い。

 砂糖も小麦も高級品なのにと少し意外には思ったが、今日のパンも美味しかった。朝食後は辺境伯領へ旅立つ叔父さんをお見送りした。


 辺境伯領は国境線を守る人たちの集団。殺伐とした雰囲気もあるし、子どもな俺は遠慮した方がいいと言われた。

 叔父さんはしょっちゅう行っているので仲良しだと言っていた。叔父さんが下手な外交をして来たら国境が荒れる可能性があるし、そうだろうなとは思う。邪険にされる訳がない。


 叔父さんと一緒にいる人は、基本俺に対して好意も悪意もないフラット。叔父さんが王位継承争いとかに巻き込まれない為だと思う。

 叔父さんと俺が仲良くしていても何も言わないが、すんごい見られているのはわかる。


 叔父さんが愛されているぜ。俺には一切興味がないとわかってはいても、他人の目線があると緊張していたみたい。

 叔父さんをお見送りしたら一気に力が抜けた。


 残ったのはいつものメンバーだけ。気が抜けちゃうよねぇ。この後は町にお出かけ予定で、雑談しながら準備をしていたら衝撃事実が発覚。

 お砂糖を使ったジャムは、こちらでは超超貴重品だった。やっぱりかーー!

 叔父さんが俺の滞在用に砂糖と小麦を渡したと聞いてびっくり。俺と叔父さんだけで、ケビンたちの口には入っていなかった。


「ケビン、領主の所に行って特別扱いは不要って言って来てよ。特にお金のかかる食事とかいらないから、いつも通りの食事に戻してって」

「こちらでは薪も貴重ですから、昨日の入浴も大奮発ですよ」

「じゃあそれも」


 ケビンが満足そうに頷いて領主の所に行った。何に満足したのかはよくわからん。

 出かける予定の時間になっても戻って来ないケビンの様子を見に行ったら、大人のいやいやいえいえ合戦になっていた。しかも廊下。


「いやいや、殿下にその様な無作法は」

「いえいえ、その殿下のご希望ですから」


「いやいや、滞在費として王弟殿下から砂糖と小麦を受け取りましたし」

「いえいえ、それは領地の為にご使用ください」


 永遠にいやいやいえいえ言ってそう。


「本当に食事などで奮発しなくていいよ? これから冬になるのだし、無理しないで?」


 ケビンが気持ち悪がる子どもっぽい無垢な? 表情と言い方にしてみた。

 ルヒトじいならにやにやして終わりだけれど、ケビンが普通に嫌そうな顔をしている。失礼な。助け船ですよ。


「殿下が気にするようなことでは……!」


 かえって領主のおじさんを困らせてしまったみたい。ケビンのほら見ろみたいな目線が痛い。


「いや、本当にそういうのいいですから。私が数日滞在したせいで、冬を越せない領民が出る方が嫌です。聞いて頂けないのなら、お願いではなく命令にしますがよろしいですか」


 俺の変わり身で、今度は驚かせてしまった。何かごめん。ちょっとずつではあるが、ルヒトじいとケビンに鍛えられて、王子っぽくなってきているのです。たまにしかしないけれど。

 命令とまで言われたら、従うしかないと思ってくれたみたい。


「我々としては有難い話ですが、本当に粗食ですし田舎料理ですよ。それでもよろしいので?」

「それで構わないよ。現地の料理を食べる楽しみもあるしね」


「なら、いいのですが……」


 やっぱり無理! って言われるんだろうな的な顔。言わないよ。城で毎日贅沢品を食べているから、数日食べないくらいで言う訳がない。

 お風呂だって、数日入れないくらいどうってことない。死ぬわけじゃあるまいし。


 後でケビンに詳細を教えてもらったが、本来ここの領地収入では砂糖の購入は無理。国から砂糖を支給されている辺境伯が、善意で分けてくれているそう。辺境伯良い人やった。

 それらは保存食作りに使われていて、今回俺が滞在することで嵩む費用分をそういう事情を知っていた叔父さんが、砂糖やらで支払ったみたい。


 支払いの砂糖や小麦を俺に使ってちゃ意味ないよね。ちゃんと自分たちと領民の為に使って欲しいと俺は思う。

 記憶力不足を補う視察で、相手に負担をかけるのは違うと思うし。


 その後予定通りに領主の息子さんに案内してもらって町の散策に出たが、領民に元気はあるけれど余裕はなさそうな雰囲気。

 息子さんはケビンよりかなり年上に見えたけれど、ケビンと年は近いらしい。それだけ老けて見えるって、生活が苦しいってことだよねぇ。


 それと、息子さんも領主も領民から滅茶苦茶慕われているのが伝わって来た。そこら中から話しかけられていて、俺が領主のお客だと知ると、誰も彼もが親切にしてくれた。ほっこり。


 何か収入源になるものがないか、案内されつつちょろちょろ見た。残念ながら無さそう。

 見栄っ張りの中央貴族が欲しがるような物があれば、価格が跳ね上がって簡単だと思うのに、やっぱりそんな都合のいい品は無い。

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