第7話 環境が悪過ぎませんか

 無理だった。この王子、致命的に記憶が出来なかった。小説でよくある強制力かと思うほど何も覚えられない。

 ショックで泣いたわ。そりゃバカ王子認定もされるよね。


 物語の中への転生ものって、良いとこ取りで全てがハイスペックに変更がお決まりなんじゃないの。

 元のハイスペックはそのままに。駄目なところは転生者によってハイスペックに変わって……。


 今の俺は脳みそまで設定通りっぽい。なんでそこだけハードモードなの。


 ただ前世の記憶が曖昧なせいで、前世の俺も駄目だった可能性は無きにしも非ず。そんな奴を前世持ちで転生させてどうしたいの。

 いや、ここまで酷かったらさすがに覚えているだろう。思考能力まで低くなくて良かったと、喜ぶしかない。


 教育は驚くほどの詰め込み方式。記憶力が皆無の俺には、致命的に向いていない勉強方法。

 国にいる貴族を、会ったことも無いのに顔の特徴と共に全員覚えろとか、この王子の脳みそじゃなくても普通にきつくない?


 記憶力が低すぎる状態では、苦痛でしかない。逃げ出すのにも納得。かと言って、本当に逃げたら破滅一直線。小説通りになってしまう。

 ここ一年間ほど、いや、もっと前? 記憶力が弱いせいでいつからかもわからない……が、俺が覚えられないせいで授業がほぼ進んでいない。


 この勉強方法しか知らなかった俺は、自分が覚えられないのが悪いと思っていたけれど、それだけではなく、勉強方法も悪いとわかる。

 ありがとう、前世の記憶! 前言撤回します。前世の記憶サイコー!


 そんな詰め込み万歳方式の授業がもうじき始まる。で、教師が来て授業開始。

 より鼻筋が通っている人が多いのがなんちゃら侯爵家で、目がより深い碧がってこんなん無理。


 そもそも婿や嫁には当てはまらない話だし、合作の子どもはどうなるよ。覚える意味があるのか疑問。そこに更に各家の歴史が追加される。

 何代目の当主がなんちゃらで功績を上げ~とかそんなん。細かいことまで言うし、似た内容が多いので訳が分からん。


「この程度でも無理ですか……。優秀なディーハルト殿下に追い抜かれますよ」


 ため息ついでに諦めた視線を向ける教師。この教師の態度から考えても、逃げ出すのに納得。

 前世の記憶が戻る前の俺は、この扱いに健気に耐えていた。ほぼ同じ所で立ち止まっていたら、そりゃあ追い付かれる。二歳差だもん。


 そもそもこの教師、自分はがっつり資料を見ながら言ってくる。間違いが無いように慎重にとかじゃなくて、自分も覚えていないからだと見ていてわかった。

 なんでこんな教師が選ばれているのか疑問。こういうのって、一流の教師陣が揃っているとかじゃないの?


 一流の教師陣から単に勉強嫌いという理由で逃げるから、問題視されるのだと思っていた。

 ここ一応国のトップが集まる城。なのに、粗悪な教師が混ざってますよ!


 生徒を馬鹿にして、蔑む教師とかあり得ないだろう。これ、子どもの教育でやっちゃいかんやつフルコンプに近くない?

 楽しさの欠片もない意味のない詰め込み、人と比べる、特に兄弟姉妹は駄目だろ。ため息も視線も言っていることも、傷付くだけで頑張ろうという気持ちになるには程遠い。


 子どものやる気を削ぐ教師って、そもそも教師には壊滅的に向いていない気がする。

 ぶちぶち文句をいい続けられているけれど、右から左にスルー。こんなのをまともに聞いていたら、傷付くだけ。


 今までの俺、良く頑張った。自分で自分を尊敬したいね。しかしこれ、いつまで続くんだろう。


「何ですか、その目は。私も優秀なディーハルト殿下の教師が良かったですよ。まさか第一王子がこんなバカだとは、普通は思いませんよね」


 これ、アウトでいいよね?


 勉強の時でも必ず侍女が控えてくれているけれど、今日はアンナ。アンナの顔がめっちゃ怖い。アンナ的にもアウトだよね?

 っていうかこの教師、教師の前に子どもと接する大人としてアウトだよね。


 アンナは俺が気が付いた時にはもう俺の面倒を見てくれていた人。両親は共働き状態だし、アンナに育てられた気さえする。

 いや、その前にちゃんと乳母がいたけれど、親戚に不幸があって急遽家を継ぐことになった夫と一緒に領地に行ったんだよね。


 アンナは赤毛で気が弱そうな顔をしているが、いつも隙なく身だしなみを整えていて、隙を見せない。自己防衛だと言っていた。

 そして結構強気。俺にも強気。正直侍女というより家族枠。前世にいたっぽい姉枠がアンナだ。


「今日はもう結構です。お茶を」


 教師が偉そうにアンナに指図をした。イラッとするよね。あんたはアンナの雇い主じゃないよ。俺でもないけどな!

 勉強後のお茶は教師に対する単なる労いのサービスだし、勝手に打ち切って飲めると思うな!


 俺はまだお子ちゃまで権限もないし、思うだけで結局お茶は出してもらうけれど……。色々と勘違いしている教師だと思う。

 嫌味たらしく王子である俺の前でお茶をすするのも、悪趣味だと思う。ほんとなんなのこいつ。


 でも、他の教師も正直イマイチなんだよねぇ。ここまで直接的ではないけれど、蔑まれてる感じがするし、教え方も微妙。


 外国語の授業は単語と文法の丸暗記。俺、もっと幼い頃から習っているし、そこそこ話せる。しかも、俺の方が発音が綺麗な気がする。

 マナーは言っていることはわかるけれど、所作で言うなら俺の方が綺麗な気がするし、後は貴族の丸暗記でしょ、それから……。


 ……酷いのばっかじゃない?


 もっと子どもの頃にいた、じーちゃん先生たちの方がずっと良かった。

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