第8話 教師を改善

 教師がお茶を飲み終わって退室すると、アンナがお見送りの笑顔のままで拳を握りしめていた。絶対に俺より怒っている……。


「ライハルト様、次回からはあの教師にお茶を淹れなくてもいい許可を取って来て下さい」

「落ち着いて……」


 何だよその許可。だけど気持ちはわかる。俺も同じ気持ち。あの教師、未だに名前を覚えてはいないけれど、最初は卑屈な程に低姿勢だった。それが今ではあんな。

 これは教師変更をお願いするいい機会だと思うのだ。だからもうちょっとだけ辛抱して欲しい。


 そもそもだけれど、第一王子に用意された環境があまりにも悪過ぎる。弟とは教師が違うからわからないが、評判が良いから同じ感じではないだろう。

 いくらアンナや他の侍女が味方でいてくれたところで、教師があんなのでは逃げ出しても仕方が無い。普通ならいずれ逃げる。実は国中の教師のレベルが低いとか?


 両親はこの教師に対してどう思っているのだろうか。本人が自分の悪い様に報告しないのはわかっているが、付き添いの侍女からも報告はあがっている。その為の付き添い。


 もしかして、子どもの教育には一切興味がないとかそんな? 普通の親ならあんな教師は直ぐにお断りすると思うのだけれど。

 子どもが教師から逃げ出し、侍女からその理由を聞けば改善に動くと思う。

 改善に動いても小説のライハルトはもう何もかもが嫌になってしまった後だったのだろうか。


 先ずは自分の環境改善の為に、頑張らなければ。


 一応作戦を考えてから、父上に教師たちの態度なども説明して全員の変更をお願いした。

 父上は比べられるのも発奮材料になるとか言って、まともに取り合ってくれなかった。小説でライハルトが放置されていた理由がわかった気がする。


 俺、そういう負けん気が強いタイプじゃない。逃げたのだから、多分小説のライハルトも。王を目指すのに、不甲斐ない息子だとか思われていそう。好きで目指してないからね?


 最終手段も考えていたけれど、必死で半泣きで訴えたら、アンナの師匠だと聞いている母上の筆頭侍女の口添えで、母上は話を聞いてくれた。

 自分は記憶力が致命的に悪いこと、詰め込み教育が向いていないことも伝えることが出来た。


 有難いことに直ぐに教師が変更された。新しい教師はまだ一人だけれど、見た目サンタクロースの良い教師。

 どうやったらそんな髭になるのか非常に聞きたい。俺ももしかしてなれたりする? その前に、どんな手触りか触らせてくれたりしないかな。


 新しい教師は何でもかんでも丸暗記をしろとは言わなかった。逆に今までの進捗状況を説明する過程で、勉強方法を聞いて驚いていた。


「はぁ? なんだそれ。そんなことをして何になる」

「そうですよね」


 相槌で会話に入って来たアンナが理解者を得られて嬉しそう。

 早速新しい教師が来ると聞いて、今日はアンナが付き添い担当ではなかったのに、また変な教師が来たら追い出す為にと付き添ってくれていた。

 心強い優しい姉ちゃんだ。


「アホだったのか?」

 新しい教師サンタクロースはちょっと口が悪いもよう。


「私にはただの嫌がらせにしか思えませんでしたね。最初のうちはまぁまぁでしたが、その後は理不尽な暗記ばかりでした」


「陛下たちに報告はしているのだろう?」


「報告書は提出していました。ただ、将来賢い子どもに育てる為に効果的な方法だのなんだのと、教師は言っていたようです」


「それを信じるなんてアホか。私は切れ者と評判だったが、そんな勉強などしたことがないわ」

 自分で切れ者とか言っちゃうんだ。それと、国王夫妻を普通にアホって言ってる。真顔で。


「お噂は聞いております」

 アホ発言を咎めないこちらも真顔のアンナ。サンタクロースは切れ者だとマジで有名だったんだ。


 サンタクロースは貴族を覚えるのは会ってからで充分だし、重要人物だったり親しくなってから家の歴史も知ればいいと言ってくれた。


「そこにこそ権力者の立場を利用しろ。覚えていなくても相手は文句を言えん。重要視されていない家だとひけらかすことになるからな」


 なるほどー。


 基本はやっぱり名前とかある程度の歴史は覚えておいて、会った時にあそこの……ってなるようにするんだと。

 顔の特徴に関してはあり得ないって言ってた。まさに時間の無駄。だから貴族の丸暗記はなし。


 語学は実践形式で、サンタクロースがペラペラ話す。発音も綺麗。聞いたのに、伝えたいのに出て来ない単語をその場で教えてくれる。

 ニュアンスとか類似語も含めて教えてくれるので、それをメモ。今まで丸暗記用に書き取りしていたノートは捨てたね。


「発音がイマイチな部分もあるが、この間までの教師より私のがマシだろ。話を聞く限り、実際に外国に出たことないんじゃねーか」


 それ、ありそう。幼い頃のじーちゃん先生は現地での経験を話してくれたりしていたけれど、前の教師にはそんなのなかった。

 言い回しも色々教えてくれた。一つの伝えたいことに対して、どれだけ言い方を変えて伝えられるか。言葉遊びみたいで楽しい。


 サンタクロースにマナーは無理と言われたが、国の歴史とか法律を何故そうなったのか原因と理由を丁寧に教えてくれた。やっぱり勉強はこうでなくっちゃ。

 理由も原因もわからない文字列の暗記は、この頭では無理だ。毎日の勉強が楽しくなった。

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