第6話 目指せ、話せばわかる男
小説通りに二人が気持ちを封印して俺が馬鹿なことをしなかった場合、そんな二人と一緒に城で暮らすことになる。普通に嫌じゃね?
そもそも封印と言いつつ、二人はずっと密かに会っている。それって封印出来てないよねと思うわけで。
長男だから俺がいずれ王太子になって、国王になる予定と言われている。
だけれど国で一番責任重大な立場になるのに、一番身近な人のはずの奥さんと弟に裏切られ続けるわけ?
嫌過ぎるんですけど。仕事面で支えてくれるだけなら、側近で充分。
実際に叔父さんが城に残っているが、母上との怪しい雰囲気は微塵もない。父上や母上と年が離れているのもあると思うが、仕事で外泊も多いし純粋に父上を支えたいのだと感じられる。
それが本来の城に残ることを選んだ弟の姿だと思う。カリーナの傍に居たいだけっぽい弟の発想が、
小説ではカリーナの努力が報われて、初恋も実ってハッピーエンドで終わる。けれどもし俺がそのままカリーナと結婚したら? 現実はその後も続く。
よくある実は父親違います的な事をされても、相手が弟じゃわからんやん。ますます嫌。それとも、本気でずっと秘めた(笑)恋とかするの?
好きな女性が兄との子どもを妊娠出産するのを、弟は身近で見守るの? 変態ですか? 俺は全くその気持ちに共感出来ない。
諦めるならさっさとカリーナと距離を置けばいい。それでも諦められずに婚約者を持つのが嫌なら、相手にも失礼だし両親に相談すればいい。
十歳で婚約者を持つのは慣例なだけだし、言い方は悪いがスペアなら多少の融通もきくと思う。
なのに親に相談するか諦める、そのどちらもしなかった小説のディーハルトは何を考えていた?
カリーナに気持ちがない今、一目惚れを告げるのはただの弟の横恋慕。流石に諦めるよう諭されるだろうし、交流はさせないだろう。
カリーナと相思相愛になってからとなると、兄の婚約者に横恋慕した弟に加え、婚約している兄から弟に目移りした令嬢が出来上がる。
周囲からの評価としてはよろしくないか。だから小説のディーハルトは表立って行動に移さなかった?
でも十歳とかならそこまで責められる事もないだろうし、性格の不一致とか穏便に済ませる方法があるよなぁ。
でもディーハルトはライハルトの評判が落ちまくっていても、表立って先に行動を起こす事もなかった。
わざわざライハルトが婚約破棄だと言うまで裏で動いていた意味は、自分たちの評判維持? うーん。微妙。
障害がある方が燃え上がるから、敢えての放置プレイ!? いやそれ、どんな八歳だよ。となると元々隙あらばで狙っていたとしか思えない。
自分の評価が高いから、待っているだけで王位もカリーナも転がり込んでくると考えていたとかか。
放っておいても俺の評価は低いし、どんどん評判も落としていった。だからと言って、だからって!
弟が腹黒やん。今君八歳ですよね? そんなことまで既に視野に入れちゃっているの? 怖い! きっと待っているだけでは駄目だった場合も、どうするか考えていたのだろう。
弟の設定は天才だったし。だけど思うのです。それだけ好きなら、さっさとクズ婚約者から助けてやれと。
それに何故、両親は勉強もしない長男をそのままにするのか。さっさと後継者から外せばいいと思う。そうしたら直ぐにハッピーエンドじゃないか。
現実で考えると色々と謎展開。テンプレ展開は好きだったけれど、短編だけに書かれていない設定が一杯ありそう。
そもそもカリーナの勉強は、城で行われていたはず。城は防犯上の理由で細かく区画が分けられ、必要最低限の人しか出入り出来ないのが基本。
俺の勉強部屋も居住区とは別の場所にあり、どちらも家族でも事前申請と許可が必要。逆も同じ。
やぁ兄弟、頑張っているかい? お菓子を持って来たよ。なーんて気軽に訪れる事は出来ない。
城では王家の人間でも、必ず二人以上を連れて移動する決まりもある。外部の人はもっと沢山。
そこで二人で密会っておかしくない? 弟は毎回事前申請をして、兄の婚約者に会う許可がおりるの? そうなると密会ではなくなるし。
もしかして、真面目にルール守ってるの俺だけ?
考えれば考える程小説の内容と現実に差異を感じるが、考えてもわからない。今、目の前にある現実を中心に考えた方が良さそう。
処罰されるの嫌。何がどう進んでいったとしても、泥沼不倫に巻き込まれるのも嫌。影で裏切られ続けながら、きっつい国王っていう仕事をするのも嫌。それだけは確実。
取り敢えずこのお茶会は、無難に過ごそうと思う。
この婚約は俺からは気軽に無かった事に! とは言えない、ごりごりの政略結婚。小説に説明は無かったが、俺はちゃんとこの婚約の意味を説明されている。
一応俺が王太子になった時の為でもあるが、メインは俺の命を守る為の婚約。特に俺、既にバカ王子として周囲に認識されているから命が危険らしい。オブラートに包みに包んで説明された。
婚約者の変更は評判の悪い俺の意向だけでは難しい。婚約の意味もわからないのかと、更に評判を落とすだけ。
他の貴族が勝手に王位継承争いを始めて暗殺などに巻き込まれない為には、カリーナの父くらい権力のある人物が抑止力に必要なのだ。
普通は娘の婚約者を暗殺されたら親は怒るでしょ? そういう意味で抑止力になるっていうわけ。
城の警備は厳重だけれど、十歳からは城の外に出る公務にも参加するようになる。そこで俺に何かが起こらない様、派閥を上げて守ってくれる。
侯爵家の担当は主に情報戦で、未然に防ぐことに力を注いでくれるらしい。現場は城勤めの護衛騎士ね。
婚約は俺の保護者がフォード侯爵家だと周囲に知らせる意味がある。守れないとフォード侯爵家の面子にも関わるから、とにかく本気で守ってくれるそう。
その分優遇される面もあって、一応王子との関係は持ちつ持たれつらしい。
カリーナは現時点で弟と会った事もないはずだし、更に初恋の自覚はおよそ二年後。それまでに俺に出来る事は?
弟は既に一目惚れ済み。だけどカリーナにとっては認識外。ならカリーナが初恋を自覚した時に、スムーズに婚約を解消したい。
将来国王にならなきゃいけないとか、前世の記憶がある俺にはゾッとするだけだから、地位に未練はない。
命の危険に晒されず、平和に暮らしたい。カリーナと弟が相思相愛良かったねで、俺に不利な展開にはならない方向を希望。
まずは好感度って重要だと思うので、愛想良く無難に。母上たちが会話の流れを作ってくれているので非常に楽。
「これからよろしくね。お互いに色々と話をしようね」
「はい。わかりました」
「お互いに何か問題だと感じることがあれば、きちんと話をして解決しようね」
「はい」
カリーナは緊張しているのか口数少なめ。だけど婚約を嫌がっている風でもないし、淡々としている感じ。
話をしても、カリーナも転生者って感じはしない。未だにぽーっとしている弟も除外かな。
何度か会ううちに、カリーナは俺に慣れてくれるかなー。初恋を自覚したら、直ぐに相談して欲しいんだけど。
母上は俺の立て続けの発言に驚いている。バカ王子だと思っているから? それとも、十歳にしてはマセたことを言い過ぎた? どっちでもいいや。
だってさぁ、こそこそ弟と会ったりせず、普通にカリーナから弟に会ったよって言って欲しいし、初恋を自覚したら、封印せずに相談して欲しいんだもん。
初対面でいきなり婚約したからわかりやすく政略結婚ってやつだし、話せばわかる男をアピールしていくつもり。
普通に転生? したことで、お互いにラブラブ婚約者になる路線でもいいんですよ。一目惚れでぽっぽしている弟を、あっさり袖にしてくれたら最高展開?
だがそんなに上手くは進まない気がする。ただの勘だけど。
という訳で無難にお茶会は終了した。これからやらなければならないことは、たくさんある。あー空が青い。
まずは勉強しよう。転生特典で何とかなるかなぁ?
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