第二章 婚約からの脱出
第33話 浮かれている理由は
妹のカリーナは八歳でライハルト殿下の婚約者になり、城で勉強をする日がある。今日もそうなのだが、カリーナの忘れ物に母上が気付いた。
正確には、掃除に入った侍女がもしやと思って母上に報告して発覚した。
城には勉強の為に行っているのに、予習用に借りた教材を忘れるなんてどうかしている。
執務室で父上と話をしていたら、慌てた母上が報告に来て知った。
「今から急ぎで城に届けて、授業に間に合うと思いますか?」
貴重な本のせいもあって、母上はかなり慌てている。昼食を挟んで午後にも数時間授業がある。教師側がどうとでもしてくれると思うが。
最近は色々とあって、母上も神経質になってしまっているのだろう。
「授業の順番にもよるだろうが……」
父上が私と同じ考えを言いつつ、視線を寄越した。なるほど? 理由はわからないが、今していた話より重要だと。
「父上、私が城へ届けに行きましょうか」
「頼めるか。帰りに頼みたいこともある。アガーテ、城に先触れと馬車の準備を頼む」
「ええ、準備が出来ましたら人をやります。ロイド、頼むわね。ロイドが届けに行けば、そこまで心証も悪くならないかもしれないわ」
母上が部屋から出ていったのを確認してから、父上が話し出した。
「最近のカリーナの様子をどう思う?」
「浮かれ過ぎだと思いますね。何の為に城へ行っているのやら」
最近のカリーナは誰が見てもわかるほど、城へ行く日は身だしなみばかり気にしている。
一部侍女はお嬢様の初恋だと喜んでくれてはいるが、見た目にかまけて勉強を疎かにしては本末転倒だと私は思う。
「王家の教育方針で、月に一度の茶会以外で殿下には会っていないはずなんだ」
「休憩などで会っているのではないですか」
「いや。休憩も昼食も殿下と時間が合わないように予定が組まれている。見かける事もないはずなんだ」
「殿下が授業を受けていないという噂が、事実だと? 父上はあれは嫌がらせだと言っていましたよね。否定しても噂は消えませんが」
「両陛下から殿下の勉強は順調だと聞いている」
父上は両陛下からの報告を信じているようだが、私は疑問を感じている。
ここ数年、城から殿下の悪評が定期的にばらまかれているが、はっきり言って異常だ。両陛下が何の対策もしていないとしか思えない。
幾らフォード侯爵家が外で噂を否定しても、出所を叩いてもらわなければ限界がある。
「さらに、カリーナの変化にあの付き添いの侍女から何の報告もない」
「彼女はカリーナに傾倒し過ぎていると、前から私は言っていたでしょう」
カリーナの専属侍女にしているローズは、侯爵家に雇われているにも関わらず、カリーナ至上主義が過ぎる。
以前から気になって父上には何度も指摘していた。甘やかしてもいるようで、本来の主である父上への報告義務も怪しいところ。
「……報告されていない何かがある可能性を否定出来ない。ロイドが持っていけば部屋に通してくれるだろう。すまないが、様子を見てきてくれないか」
「そうなると……子どもらしく、年上の教師や護衛ならまだマシ、か……」
「ならいいのだが。敢えて侍女が隠しているとすると……」
「城にいる同世代は、ディーハルト殿下だけでしょうね。最悪だ」
「
最悪だ。確かにこれは、最重要確認事項だ。
私が持参したことで父上の思惑通り、カリーナが勉強している部屋まで行くことが出来た。カリーナにも他の人にも、不自然な反応はなかった。最悪のパターンかもしれない。
ただ、この区画は厳重に警備されている。陛下側に知られずに密会など可能なのか。
移動中にさりげなく護衛に聞いてみたが、当たり障りのない話のみ。王族の区間近くから出るまでに、誰か知り合いに会えればいいのだが。
そう思っていたら、曲がり角から現れたのはライハルト殿下だった。私は運がいい。
「ライハルト殿下、お久し振りです。いつも妹がお世話になっております」
「……ロイド? 珍しいね。どうしたの」
それはこちらのセリフでもある。父上に予定表を見せてもらったが、今の時間は殿下も勉強中のはず。
勉強をサボっているというのは事実だったのか? 事実なら、側近が何故止めない。
「カリーナが忘れ物をしまして、届けに来た帰りなのです」
「そうなのか。あっ、そうだ。ロイド、今から少し時間はある? 急ぎではないけれど、少し聞きたい事があってね」
またとない機会だと思って応じた。年齢が離れていることもあり、殿下とは個人的に会った事がない。会う時は常にどちらかの保護者がいた。
本当の殿下を知るいい機会だ。噂される要素があるのかどうか、純粋に知りたいと思っていた。
もし本当に勉強をサボっていたり、傲慢な態度で周囲に接しているのならば、父上に報告しなければならない。
陛下たちからの報告が虚偽ということになる。我が家にとってもカリーナにとっても大問題だ。
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